artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

藤井保「BIRD SONG」

会期:2009/11/06~2009/12/05

MA2 GALLERY[東京都]

藤井保は広告写真の仕事でも知られているが、シリアスな写真の分野でも意欲的な作品を発表してきている。今回の展示は北海道や東北地方で渡り鳥の群れを追って撮影した連作。「その飛翔の姿・形を鳥の生態や風景としてではなく幾何学的な模様として白い空の中に淡々と描いてみたいと思った」という意図が明確に貫かれていて、気持のよい作品群に仕上がっている。
「BIRDS SONG」というタイトルにふさわしく、群れの形がまさに音符のように見えるものもあり、一羽の鳥の姿をクローズアップし、ブレの効果を活かした作品もある。モノクロームが中心だが、カラー写真はなんと「写ルンです」で撮影したのだそうだ。余分な要素を切り捨て、「鳥を見る」という行為に徹底していることが清々しい印象を与える。純粋に好奇心を働かせて見続けていることの歓びが、ストレートに伝わってくるのだ。藤井の作品は、これまでどちらかといえば重々しい印象を抱かせがちだったが、このような「軽み」を感じさせる写真にむしろ新たな方向性を感じる。

2009/11/26(木)(飯沢耕太郎)

豊嶋浩子「詩と絵画」─宮沢賢治『春と修羅』より─

会期:2009/11/24~2009/11/29

立体ギャラリー射手座[京都府]

宮沢賢治の詩の一節と日本画を組み合わせて展示。詩を通して絵画を味わうか、絵画を通して詩の世界に思いを馳せるか、どちらにせよ味わい深い個展となった。文学からインスパイアされた美術作品は決して珍しくないが、本展の印象が良かったのは絵画の出来が良かったから。作者の豊嶋は広島在住の大学院生。最近は日本画の若手にヒットが少ないので、その反動もあって余計に感心したのかもしれない。彼女の着実なステップアップに期待する。

2009/11/25(水)(小吹隆文)

加賀城健 展

会期:2009/11/25~2009/12/05

石田大成社ホール[京都府]

工芸の世界では失敗とされるボケや滲みを生かしたり、抽象絵画のようにアクションの軌跡を強調した染色作品を制作する加賀城健。これまでの個展で多彩な表現を見せてきた反面、ネタが尽きないのか心配でもあったのだが、彼にはまだまだ十分なキャパシティがあるようだ。今回の作品は、市販の水玉模様の布を脱色することで、模様と脱色部分の間に微妙なレイヤー構造を生じさせるというもの。染色の現場で用いられる伸子針を利用した展示も効果的で、彼にしか表現できない独特の世界を見ることができた。

2009/11/25(水)(小吹隆文)

ヨコハマ国際映像祭

会期:2009/10/31~2009/11/29

新港ピア、BankART Studio NYKほか[神奈川県]

横浜トリエンナーレとほぼ同じ会場で催された国際映像展。国内外から70組あまりのアーティストが参加した。なかでも群を抜いて際立っていたのが、クリスチャン・マークレーの《ヴィデオ・カルテット》と山川冬樹の《The Voice-Over》。前者はおびただしい数の映画のワンシーンをランダムにつなぎ合わせることで文字どおり四重奏(カルテット)を作り出し、後者はテレビ局のアナウンサーだった実父の声をもとに個人史と世界史を織り交ぜた歴史を物語った。とりわけ視覚的な映像を最小限にとどめ、音声による聴覚や音の振動による触覚を前面化させた山川の作品は、観覧者の脳内で映像を想像的に再生させるという点で、映像表現が氾濫する現代社会にあって映像の芸術にとってのひとつの可能性を提示したように思う。ただ、個々の作品は別として、本展の全体が依然として旧来の制度的なフレームを維持していたことが気になった。新港ぴあで見せられていた映像のアーカイヴは、いくつものモニターをブロック状に積み上げ、無数のプログラムを同時に見せていたが、鑑賞するにはストレスがひじょうに高い。暗い会場で立ったまま鑑賞するには時間が長すぎるし、とてもすべてを鑑賞する気にはなれないからだ。あるいは、ニコ動のコメントがリアルタイムで流れる作品も見られたが、こうした自宅で見ることができる凡庸な映像をあえて展覧会で見せる理由もよくわからない。さらに、きわめつけが作品のキャプション解説文だ。「形式」「内容」「没個性」「物質性」云々かんぬん。これまでの現代アートの展覧会で見られた衒学的(学問的知識を見せびらかすこと)な物言いがやけに多い。映像表現は確実に進化を遂げているし、社会の体制もまたそれに追随している。ところが展覧会の制度や言説はあいもかわらず旧態依然としているのである。映像の同時代をつかまえるには、私たちの意識や言葉を徹底的に自己批判する必要があるのではないだろうか。

2009/11/25(水)(福住廉)

林勇気 牡丹靖佳 山野千里 migratory─世界に迷い込む

会期:2009/11/24~2009/12/12

アートコートギャラリー[大阪府]

絵画の牡丹靖佳、陶芸の山野千里、映像の林勇気という、異なるジャンルの3人が集結。作風はそれぞれ異なるが、日常での出会いや体験を細やかな視線で捉え直し、再構成する点に共通項があるようだ。絵画によりインスタレーションを構築する牡丹、ほのぼのしたイマジネーション溢れる世界が持ち味の山野も素晴らしかったが、最も見応えがあったのは過去最大級の大作を出品した林勇気。3面の巨大な画面で展開される浮遊感漂う世界は、まるで彼岸を思わせる突き抜けっぷり。これまでのミニマル&閉塞感の強い作風から一歩も二歩も飛躍しており、彼の表現が新たな段階に入ったことを窺わせる。最近の林は怒涛のペースで発表を続けているが、その加圧トレーニング的な行動が地力アップにつながっているのかもしれない。

2009/11/24(火)(小吹隆文)