artscapeレビュー

藤井保「BIRD SONG」

2009年12月15日号

会期:2009/11/06~2009/12/05

MA2 GALLERY[東京都]

藤井保は広告写真の仕事でも知られているが、シリアスな写真の分野でも意欲的な作品を発表してきている。今回の展示は北海道や東北地方で渡り鳥の群れを追って撮影した連作。「その飛翔の姿・形を鳥の生態や風景としてではなく幾何学的な模様として白い空の中に淡々と描いてみたいと思った」という意図が明確に貫かれていて、気持のよい作品群に仕上がっている。
「BIRDS SONG」というタイトルにふさわしく、群れの形がまさに音符のように見えるものもあり、一羽の鳥の姿をクローズアップし、ブレの効果を活かした作品もある。モノクロームが中心だが、カラー写真はなんと「写ルンです」で撮影したのだそうだ。余分な要素を切り捨て、「鳥を見る」という行為に徹底していることが清々しい印象を与える。純粋に好奇心を働かせて見続けていることの歓びが、ストレートに伝わってくるのだ。藤井の作品は、これまでどちらかといえば重々しい印象を抱かせがちだったが、このような「軽み」を感じさせる写真にむしろ新たな方向性を感じる。

2009/11/26(木)(飯沢耕太郎)

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