artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

水野勝規 新作展「フィールド・モーション」

会期:2009/10/09~2009/10/24

ARTCOURT Gallery[大阪府]

薄暗い会場では、複数の映像作品が上映されていた。楽園のような水辺の風景を映し出す作品や、真っ青な空を飛行機雲の白い線が切り取っていく作品がある。工事現場のクレーンが動く様子や、料理旅館の宴会を窓越しに捉えた作品もある。それらに共通するのは、盛り上がりを意図的に排除していることだ。しかし、淡々と過ぎる時のなかで起こる小さな変化が、見る者の心に確かなカタルシスをもたらす。俳句を映像で作ったらこんな感じになるのかもしれない。

2009/10/09(金)(小吹隆文)

長澤英俊 展 オーロラの向かう所

会期:2009/10/10~2009/12/13

国立国際美術館[大阪府]

長澤英俊は著名な作家だが、日頃はイタリアを拠点に活動しているため、若輩の私にはなじみが薄い。そのためニュートラルな状態で本展を見たわけだが、約2,000平米の会場に20点という、たっぷり余裕を持たせた構成がとても印象的だった。1点1点が伸びやかに配置され、それでいて各作品の磁場が干渉し合うような心地よい緊張感が張り詰めていたからだ。観客と同じ次元に置かれる彫刻は、間の取り方が絵画展以上に難しい。本展は、美術館で見られる彫刻展としては、最も上質な部類ではないか。記者発表時に、長澤自身も今回の展示には満足していると発言していた。

2009/10/09(金)(小吹隆文)

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日下部一司「箱写真」

会期:2009/10/08~2009/11/15

京都造形芸術大学芸術館[京都府]

通常のはがきよりも少し小さなDMのイメージが美しくて印象的だったのだが、実際の展示も心躍った。普段は、中央アジアやシルクロードに由来する工芸、縄文時代の土器や装身具などを展示している京都造形芸術大学の芸術館。そのガラスケースのひとつで、「One Piece Gallery」と題した現代美術の作品展が開催されている。今回は3回シリーズの第1回目。蓋つきの小さな桐の箱に入っていたのは、名刺サイズのモノクロ写真。植物や風景がぼんやりと写っている。ほとんどが何気ない日常的な場面のようだが、どれもまるで宝物のように輝いて見えるから不思議だ。当然だが、その貴いほどのイメージは、もはや履いて捨てるほど溜め込んで保存しているデジカメ写真とは月とスッポンくらい違う。小さな箱の中の虚ろな風景世界に引込まれていく心地良いひととき。

2009/10/08(木)(酒井千穂)

MEGAHOUSE 都市を使い切るために by ABE hitoshi+MOTOE masashige/motion graphics by wowlab

会期:2009/09/30~2009/10/11

京都造形芸術大学 GALLERY RAKU[京都府]

“「MEGAHOUSE(メガハウス)」は、新たな都市生活のあり方を提案するプロジェクト”と書かれた本展フライヤーのテキストも、「都市を使い切るために」というそのタイトルも、まるで新聞に挟まっている広告チラシ。見事なまでに空々しい響きだ。それだけにどんな展覧会なのか気になり、足を運んだ。本展は、すでに実用化されているテクノロジーを発展させた、MEGAHOUSEというシステムモデルのプレゼンテーションという内容で、会場はプロジェクターを用いたアニメーションのパノラマ展示で構成されていた。来場者がスクリーンに映るカタログから好きな商品(空間)サービスを選択し、MEGAHOUSEユーザーとしてその消費システムを実際にシュミレーション体験することで、このプロジェクトの詳細を把握できるようになっている。都市に散在する空室を「MEGAHOUSE社」が借り上げて集中管理。登録したユーザーは、好みの空間をネットワーク上の選択肢から選び予約し、自由に使用する。MEGAHOUSE社にはユーザーのデータが蓄積される、という流れ。都市自体をプライベートな住居空間の拡張としてとらえたものだが、仕組みはつまり「アマゾン」と同じなので、特に新鮮な感覚はない。ただ、会場には実際に来場者がシュミレーションしたデータが残されていて、これまでに選ばれた人気ナンバーワンの空間や、多くの人にチェックされた空間サンプルなどもすぐに見ることができる。自分の好みを用意された選択肢から探すわれわれの生活とその管理消費システムを、いかにもお洒落な雰囲気で見せていたこの展覧会はすべてが皮肉の再現だった。最初のイメージは見事に裏切られ愉快だった。

2009/10/08(木)(酒井千穂)

松本秋則 展

会期:2009/09/29~2009/10/08

ストライプハウスギャラリー[東京都]

竹を縦割りにしたものを4~5本順に並べ、途中にこれも竹でつくった水車みたいな装置を仕掛けている。上からコップ1杯の水を流すと水車がまわり、その力で竹筒を打鳴らしたり弦を弾いたりして音を出す仕組だ。流した水は下に置かれたコップで受け、再び上から流すというエコな作品。あと、天井から竹筒を吊り下げ、底にあけた小さな穴からポトッ、ポトッと水滴を落とし、下に置かれた竹筒のなかの金属板に当ててキン、カン、コンと乾いた音を鳴り響かせる装置も。いずれも不ぞろいの竹を使った手づくりの「楽器」だから、唯一無二の玄妙な音だ。

2009/10/06(火)(村田真)