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美術に関するレビュー/プレビュー

ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京都庭園美術館[東京都]

針と糸を使いこなすアーティストを集めた展覧会。秋山さやか、伊藤存、竹村京、手塚愛子、村山留里子など、8組のアーティストが作品を発表した。なかでも際立っていたのが、夜警の仕事をしながら針仕事に没頭する奥村綱雄と、千人針のように縫い玉を繰り返しつくる吉本篤史。幾度も幾度も針と糸を突き刺すことで、まるで抽象画のような画面をつくり出す奥村の作品は、その執拗な反復の痕跡と手の平に収まるような小さなサイズが、奥村自身の偏執的な私性を強く醸し出していた。また千人針には無数の他者からの呼びかけが込められているのにたいし、吉本の作品にはむしろ自分からの呼びかけと自分による応答が反響しており、その自己完結したコミュニケーションのありようが、逆に鑑賞者の興味を強く刺激していた。両者は、みずから閉じること(縫合)によって社会的に開く(開示)という表現がありうることを示していたと思う。

2009/09/27(日)(福住廉)

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ある風景の中に In a Landscape/明倫茶会「沈黙」の茶会

会期:2009/09/15~2009/10/18

京都芸術センター[京都府]

見慣れた風景やそこで聞こえる音に意識を集中すると、普段とは異なる感覚を体験できるかも知れない、そこ新たな発見があるかもしれないというテーマのもと、6名の作家が作品を発表。参加作家は、梅田哲也、岡田一郎、鈴木昭男、ニシジマアツシ、藤枝守、矢津吉隆。センター内の制作室で発表されている梅田哲也のインスタレーション作品は、先に見た「汚い“ピタゴラスイッチ”」水内の作品とよく似ているが、こちらは汚くはない。4階の屋外通路に設置された藤枝守の《Aeolian Harp》は近くに立ち、耳をそばだてていると風の振動によって奏でられるハープの音が聞こえてくる作品だというが、そのときはまったくなにも聞こえなかった。そのかわり、近くでゴーゴーと回転する換気扇の耳障りな音ばかりが聞こえてくる。けれど「普段見慣れた風景」とは、見慣れているものしか見ていない私の記憶のイメージだけの「風景」であり、生活環境にあふれる音なんてほとんどなにも聞こうとしていないのだと自分の感覚を改めて思い知る。それぞれの表現手法もさまざまで、全体のバランスが良い展覧会。また違う感想がもてそうなので、もう一度見に行こうと思った。

2009/09/26(土)(酒井千穂)

大巻伸嗣 絶景

会期:2009/08/01~2009/11/08

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

大巻伸嗣の個展。「環境とゴミ」をテーマにリサーチを重ね、ゴミを焼却処分された後に生成される「溶解スラグ」を用いた新作など、3点を発表した。《真空のゆらぎ スカイライン》は、1階に富士山のような円錐型の山塊を置き、その上部にあたる2階をまるごと溶解スラグで埋め尽くしたもの。物質の形体を整えて美的な効果を狙うアーティストが多いなか、大巻はむしろ物資の膨大な量で鑑賞者を圧倒する。映像インスタレーションの《言葉の無い予言》も、溶解スラグで造成した「黒い砂浜」で湾岸の映像を見せる作品だが、これは都市の環境問題を鋭く告発することはもちろん、「黒い砂浜」の物質的な強度を見せつけることによって、形式美を追及するアートが快適で心地よい「白い砂浜」を上書きしているにすぎないことを批判的に暴き立てているように見えた。どちらが社会的に有意義であるかは、一目瞭然だろう。

2009/09/25(金)(福住廉)

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ステッチ・バイ・ステッチ 針と糸で描くわたし

会期:2009/07/18~2009/09/28

東京都庭園美術館[東京都]

「針と糸で描く」アーティストの作品。「針仕事」は昔から「女の仕事」とされてきたせいか、女性アーティストが多く、男は奥村綱雄にしろヌイ・プロジェクトの吉本篤史にしろどこか病的だ。あるいは、病的なものを癒すために細かい「針仕事」に没入したのかもしれない。圧巻は、ドレープやあやとりやキャンヴァス画を大きな布に刺繍した手塚愛子のインスタレーション。モチーフはすべて糸や布に関係している。ベラスケスの《ラス・メニーナス》もあったが、ここはやはり、織物競技に負けたアラクネがクモに変えられたという同じ画家の神話画《アラクネ》もほしいところ。

2009/09/25(金)(村田真)

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名和晃平 展 Transcode

会期:2009/09/19~2009/10/17

ギャラリーノマル[大阪府]

動物のはく製などにガラスビーズをまとわせた「BEADS」シリーズの新展開が見られた。それらは、ガラスビーズで覆われたPCモニターに、インターネットから検索した名和自身の画像を写し出したものだ。今までの同シリーズは物質が分子レベルに還元されたかのごとき趣があったが、新作ではデジタルデータが対象になったということか。手法自体は従来通りなのだが、発想の豊かさと仕上がりの美しさは圧倒的だ。別室では、揺れ動く無数のドットが床一面に投影される《Dot-Movie》も発表。三半規管を直撃する刺激的な映像にやられてしまった。

2009/09/24(木)(小吹隆文)