artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
複々製に進路をとれ 粟津潔60年の軌跡

会期:1月24日~3月29日
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
2009年、丁度80歳になるグラフィックデザインの鬼才、粟津潔(1929~)の60年間にわたる芸術活動を振り返る展覧会が開催される。粟津潔は、戦後日本のグラフィックデザインの革新者のひとりであるが、映像、写真、環境デザイン、ペインティングそして執筆という活動の多面性という点で、戦後日本の代表的デザイナーのなかで頭抜けている。粟津潔に関しては、近年、金沢21世紀美術館で「荒野のグラフィズム:粟津潔展」[2007年11月23日~2008年3月20日]が開催されたばかりだが、金沢展が、絵画や素描などを含めて粟津のグラフィックの仕事を中心において展示していたのに対して、川崎での展示は、粟津の仕事の多面性により力点を置いて時代の推移とともに変貌していった活動を総合的に紹介する。
展覧会タイトルの「複々製に進路をとれ」は、一万円札の複製を展示して物議を醸した赤瀬川原平の言葉である。戦後60年代から70年代にかけてわが国を覆った、複製と複製の複製が現実を埋め尽くす新たな社会状況での芸術的な戦略を指し示す言葉である。ヴァルター・ベンヤミンのいう複製技術時代の次に到来した新たな複製メディア状況を象徴する言葉であった。粟津は、デザイナーとしてかかる状況を引き受け、そして駆け抜けることで独自のデザインワークを進めて行ったと言える。そのダイナミズムを確かめる展覧会となるだろう。
展覧会詳細
http://www.kawasaki-museum.jp/display/exhibition/exhibition1.html#awazu
2009/1/14(水)
「変生態_リアルな現代の物質性」Vol.4 東恩納裕一

会期:2009/09/12~2009/10/10
galleryαM[東京都]
キュレイターの天野一夫が企画する連続展の4回目。今回は東恩納裕一が、彼の代名詞ともいえる蛍光灯を組み合わせたシャンデリアをはじめ、ストライプ、ドレープ、モアレなど、これまでの作品を全面的に発表した。新たに展開していたのは、木目調の床材を壁面に貼りつけていたこと。ストライプが縦方向に貼りつけられていたのにたいし、床材は横方向に貼りつけられていたが、その交錯するラインとモアレの縞模様が出会うと、視覚的な混乱状態を味わえる。光と線と色を織り交ぜた、じつに絵画的な空間だった。
2009/09/29(火)(福住廉)
川上大介 個展 [approach to sign]

会期:2009/09/29~2009/10/04
ギャラリー揺[京都府]
山中を歩き、獣道を見つけたら地面に板状の陶土を設置。1週間ほど後に回収し、動物の足跡や落ち葉が刻印された陶板として展示する。陶芸の一種とも、ランドアートの一種とも解釈できる珍しい作品だった。カテゴライズは不可能だが、その分未知の可能性に満ちた表現とも言える。テキストや映像で綿密に記録しておけば、ドキュメントとしても魅力あるものになるだろう。
2009/09/29(火)(小吹隆文)
廣中薫・オープンスタジオ
会期:2009/09/28~2009/09/30
BankARTスタジオNYK[東京都]
BankARTに1カ月半スタジオを借りていた廣中さんの発表。不定形の紙に描きなぐったような作品が床に何枚か置いてある。壁にも何点か小品が掛かっているのだが、よく見るとうまいんだな。あとさき考えずに破壊的行動に出るのがこの人の強みだろうか。
2009/09/29(火)(村田真)
伊佐治雄悟 展 ボトル/bottle

会期:2009/09/28~2009/10/03
ギャラリイK[東京都]
伊佐治雄吾は、凡庸な日常用品を加工することでその美的な側面を浮き彫りにするアーティストだ。ボールペンの先端に熱を加えて、まるでガラス細工のように丸く膨張させたり、洗剤のボトルの表面をカッターで念入りに切り刻み、幾何学模様を描き出しながら分解したり、なんでもない素材が隠し持っている美しさを巧みに引き出している。切り刻まれたボトルは奇妙に伸張しているが、それは可塑性のあるプラスティックにちがいないとはいえ、じっくり見ていくと天に向かって育ちゆく植物のようにも見えてくるから不思議だ。人工的で無機質な素材にすら有機的な生命を感じてしまう、わたしたち自身の偏った癖を体現しているかのようだった。
2009/09/28(月)(福住廉)


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