artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

hyper tension with uneasiness

会期:2009/09/22~2009/10/04

海岸通ギャラリー・CASO[大阪府]

uneasinessとは、芦谷正人、岩澤有径、大澤辰男からなるアーティスト・グループ。その主体はあくまで個人であり、展覧会を通じて切磋琢磨する方法論としてのグループである。彼らの特徴は、流行にとらわれず王道的な絵画論の側に立った活動を続けていることと、毎回ゲストを招いてマンネリ化を防いでいることだ。今回はその拡大版ともいうべき大規模展で、美術館並みのサイズを持つ海岸通ギャラリー・CASO全室(5室)が用いられた。出品者は、彼らのほか、倉重光則、中川久、内山聡、勝又豊子(いずれも神奈川在住)の全8名。また、国立国際美術館の中井康之がテキストを寄せた。肝心の内容だが、作品、展示プランともに質が高く、ギャラリーのレベルを超えた充実ぶりであった。正直、無料で見せるのはもったいないと思ったほどだ。

2009/09/24(木)(小吹隆文)

動物園にエイゾウがやってきた!

会期:2009/08/29~2009/11/29

横浜市立野毛山動物園[神奈川県]

10月末日から催される「ヨコハマ国際映像祭2009」のサテライト企画。動物園の園内で、泉太郎、野村誠+野村幸弘、SHIRABROSの3組のアーティストがそれぞれ作品を発表した。鍵盤ハーモニカ奏者の野村誠は、檻のなかの動物たちに向けて演奏してまわり、その様子を撮影した野村幸弘による映像を、園内に設置された古いバスのなかで発表した。動物という人類にとって完全な他者を相手にしたコミュニケーションのほとんどは当然成就することはないが、楽器に興味を示した動物と協演しているように見える瞬間がないわけではない。けれども、そのような期待を込めて動物の一挙一動を見守るということじたいが、動物の「生」をいつも以上に丁寧に観察することになっていることに気づかされる。音楽という手段が動物園という目的にかなうことを実証した作品だといってもいい。一方、動物園という目的とはまったく無関係に作品を発表したのが、泉太郎。「シロクマの家」を全面的に使った映像インスタレーションで、ふだん観客がシロクマを鑑賞するための舞台はもちろん、その外周に掘られたプールの底からバックステージや檻の中まで、ふんだんに空間を使い込んだ展示で、じつにおもしろい。先ごろ群馬県立近代美術館で発表された《貝コロ》と同じ発想でつくられた新作は、サイコロを振って出た目の指示に従いながら、さまざまなコマを進めていく遊びだが、撮影されたシロクマのステージと同じ場所で見せられ、かつコマの残骸が現場にそのまま残されているため、映像の中と外がリンクしているのがわかる。ただ、コマとして使ったプラスティック製のキャラクターをガムテープでぐるぐる巻きにしたり、絵の具をぶっかけたり、動物園に期待されている子どもの情操教育にとってはあまり歓迎されないような作品も多い。その意味では動物園という場にはまったくそぐわないが、しかし、そうした破壊的な行為が子どものリアルな心情に訴えかけることもまた事実である。野村と泉の作品は、それぞれ異なるアプローチで、動物園という場にアートを持ち込むことに成功した。

2009/09/23(水)(福住廉)

キタイギタイ ひびのこづえ展──生きもののかたち 服のかたち

会期:2009/07/25~2009/09/23

伊丹市立美術館[兵庫県]

昆虫や動物、自然現象などをモチーフにしたひびのこずえのコスチュームやドレス、帽子などの小物などを展示した展覧会。素材、アイディアの面白さもさることながら、なにより、絵本と同じくらいファンタスティックなアイディアスケッチの数々に目を奪われた。限界のない、自由な想像力を持ち続けるって素晴らしい。

2009/09/23(水)(酒井千穂)

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「横浜から幸せをつなぐ」アート

会期:2009/09/16~2009/09/29

横浜タカシマヤ[神奈川県]

タカシマヤの2フロアを使った国連WFP(ワールド・フード・プログラム)協会後援の現代美術展。谷山恭子、本間純、丸山純子、横山飛鳥らが出品。ひとことでいえば、つまんなかった。まず、テーマがつまらないこと。そのつまらないテーマに作品がしばられていること。そのため単なるディスプレーに陥ってしまい、場所と拮抗してないこと。せっかくデパートのなかでやるんだから、その場所ならではの作品を見せてほしかった。

2009/09/23(水)(村田真)

第1回所沢ビエンナーレ美術展 引込線

会期:2009/08/28~2009/09/23

西武鉄道旧所沢車両工場[埼玉県]

昨年の「所沢ビエンナーレ・プレ美術展」に続いて、同じ時期に同じ会場で催された美術展。前回と同じコンセプトにもとづきながらも、参加作家を大幅に増やし、展示スペースも増床して、かなり大規模な展覧会となった。ベテランから中堅、新進のアーティストまで37名による作品を3つの会場に分けて展示していたが、なかでもすぐれていたのが前回では使われていなかった第3会場。直線の線路に沿った細長い空間だが、その空間的な特性を巧みに利用した秀作が多かった。トーチカなど戦争の遺構を撮るシリーズで知られる写真家の下道基行は、戦争で使用されていた滑走路の現在の写真と、その現場を記す地形図をあわせて発表したが、写真と地図のなかの滑走路と会場の床に敷かれたレールをパラレルにあわせることで、写真と地図に閉じ込められた空間的な奥行き感に、よりいっそうの拡がりをもたらしていた。巨大な織物を2枚、空間に垂れ下げた手塚愛子も同じようなセンスが伺えるが、そうしたセンスとはまったく無関係に、この会場でひときわ異彩を放っていたのが増山士郎。会期中の全般にわたって、夜間は運送業のアルバイトに出掛け、日中は会場内に設置した小屋で睡眠をとるというパフォーマンスをおこない、その面接の様子を記録した音声と映像のほか、履歴書や業務契約書、バスの時刻表など細々とした書類も一挙に発表した。契約していた海外のコマーシャル画廊がつぶれ、なくなく日本に帰ってきた増山を待っていたのは、住む場所も働く場所もない、まさに貧困問題だったが、増山の作品がすぐれているのはそうしたリアルな問題をまざまざと見せつけると同時に、おのずと問題への対策をも提示しているからだ。面接で「自分の性格を一言でいうと?」と聞かれ、さんざん迷った挙句「……体力です」と答えた増山には、貧困を乗り越えていくたくましさがある。

2009/09/22(火)(福住廉)