artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
KOMAZAWA MUSEUM X ART
会期:2009/09/12~2009/09/27
駒沢公園ハウジングギャラリー[東京都]
最近の流行なのか、住宅展示場のモデルハウスを会場にした展覧会。昨年の六本木での「ザ・ハウス」は、取り壊し前のモデルハウスが会場だったので好き勝手なことやっていたし、横浜の「アート&ホームコレクション」は、横浜美術館が監修したアートフェアだったのでにぎわっていたが、今回の展示はいちばん量があるのにショボイ。作品を見に来た人は受付でバッジをもらうのだが、連休のせいか「家」を見に来た人のほうが圧倒的に多く、各モデルハウスを訪ねるたびに常駐の営業マンから「ああ、アートね」と相手にしてもらえず、いや相手にしてくれなくていいのだが、しかしほかの客のジャマにならないようにコソコソといじけて見なければならない空気なのだ。そもそも作品は小さな絵画がほとんどで、空間を使ったインスタレーションは皆無。しかも絵は壁にかかっていればいいほうで、多くは棚や床に立てかけてあるだけ。作品自体があまり存在を主張できず、「家」を汚さないように卑屈に身がまえているようでツライ。そんななかで唯一場所と結託し空気を変えることができたのが、泉イネの作品群だ。ちゃっかり他人の家に上がり込んで100年住んでますみたいな顔してる。単体としてもインスタレーションとしてもすぐれた作品だ。
2009/09/22(火)(村田真)
自宅から美術館へ 田中恒子コレクション展

会期:2009/09/08~2009/11/08
和歌山県立近代美術館[和歌山県]
個人コレクターの収集品を一堂に展示する珍しい企画展。住居学者の田中は、最初は生活の質を向上させる手段として美術品の購入を思い立ったそうだ。しかし、ずらりと並んだ作品群は、研究対象よりもライフワークと呼んだ方がふさわしい。収集に際しては作家の知名度や人気よりも自身の好みを優先したらしいが、村上隆や奈良美智、名和晃平の初期作品を購入している事実からも、その上質な審美眼がうかがえる。美術コレクターとして至上の名誉とも言える本展。同好の氏からは、さぞや羨望(嫉妬?)の眼差しを向けられていることだろう。
2009/09/20(日)(小吹隆文)
河合菜摘個展(漆)「残像」

会期:2009/09/15~2009/09/20
立体ギャラリー射手座[京都府]
タイトル通り、まぶたの奥に焼きついた“残像”のような風景が漆のキューブの表面にうっすらと見える。聞くと、自作のカメラオブスキュラをつかって漆の表面に焼き付けた写真なのだそう。つやつやとした漆黒の表面にライトの光が反射して、角度によってはどんな風景なのか確認しづらくもどかしい。けれど、それがかえって画像の光景をより幻想的に見せていた。「漆黒の中に風景を閉じ込める」と作家のコメントが記されていたが、まさに、遠くに見える光に向かってトンネルの暗闇を進むかのように、漆黒の画面の奥へ奥へと誘われる。漆といえば、蒔絵や螺鈿といったキラキラした装飾が施されるイメージがあるが、写真というのが新鮮だ。そこはかとない奥行きを感じさせる黒に絵や像が突如浮かび上がるという漆のドラマチックな要素もさることながら、その特性を見事に掴んだ表現で、今後の発表も楽しみだ。
2009/09/20(日)(酒井千穂)
アートまぶさび展(寺田就子+西奥栄利子)

会期:2009/09/15~2009/09/26
ギャラリー16[京都府]
篠原資明企画の寺田就子・西奥栄利子の2人展。展覧会タイトルの“まぶさび”とは「まぶしさ」と「さびしさ」を掛け合わせた篠原氏の造語らしい。既製品を使った寺田のオブジェ、一見真っ白な画面の西奥の絵画が展示されていた。どちらにも共通するのは透明感と密やかさだろうか。ちまちましたものの色や形や可愛らしさ、それらの透明感のなかに、別の世界を想像し、ひとりでそっと楽しむ。密やかな空想のよろこびを喚起する展覧会で、個人的にはときめきを禁じ得ない空間だった。
2009/09/20(日)(酒井千穂)
鎌田紀子「torotorotoro…」

会期:2009/09/20~2009/10/12
湘南くじら館「スペースkujira」[神奈川県]
岩手県在住のアーティスト、鎌田紀子の個展。布製の人形やドローイングなどを発表した。肌色のメリヤスなどを縫い合わせた人形たちが天井から吊られながら辛うじて自立し、椅子に力なく腰掛け、階段にゴロンと横たわる異様な光景に圧倒される。いずれも頭髪はなく、肌着を素材としているせいか、ひょろひょろの身体の肌質が妙に生々しい。こぼれ落ちそうなほど大きな眼は焦点が合っておらず、虚空を見つめているようだし、わずかに開いた口の奥に垣間見えるギサギザの歯が秘めた凶暴性を物語っているようでもある。ふつう人形といえば、人間との親密性を体現するものだが、鎌田の人形たちには、人間を受け入れながらも、どこかで突き放し、拒絶する、頑なな意思が垣間見えるのだ。その隠された半身の闇が、見る者にどうしょうもない居心地の悪さを与えているのかもしれない。だが、人間のコミュニケーションとは、どんなに深く理解しあったとしても、そうした裏切りの可能性が残されているのだすれば、じつは鎌田の人形は、ほんとうの意味で人間の精神を宿しているといえるのではないだろうか。
2009/09/20(日)(福住廉)


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