artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

メキシコ20世紀絵画展

会期:2009/07/04~2009/08/30

世田谷美術館[東京都]

最初の部屋に、チラシにも載ってるフリーダ・カーロのエリマキトカゲみたいな《メダリオンをつけた自画像》が1点、うやうやしく飾られている。これを見てがっかりした。いやこの作品はいいんですよ。いいんだけど、それが水戸黄門の印籠のごとく掲げられてるということは、これがこの展覧会の最高の作品ですよ、これに勝る作品はもうありませんと最初に宣言してるようなもんではないか。やっぱ印籠は最後に出さなきゃ。実際、日本の戦前のシュルレアリスム絵画や戦後のルポルタージュ絵画に通じる作品や、壮大な壁画運動を彷佛させるような作品もあってそれなりに考えさせられるが、全体に小粒の作品が多いせいか、なんだメキシコ絵画ってこの程度かよと思ってしまう。リベラかシケイロスの壁画の原寸大レプリカが1点でもあれば、また印象も違っただろうが、まあカネもかかるし、レプリカじゃよけい印象が悪くなりかねないし。

2009/08/27(木)(村田真)

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大巻伸嗣「絶・景──真空のゆらぎ」

会期:2009/08/01~2009/11/08

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

トーキョーワンダーサイト(TWS)からステップアップしたアーティストのひとり、大巻伸嗣の個展。ゴミを燃やして生成されたスラグという砂状の物質を、デ・マリアの「アースルーム」のごとく2階のギャラリーいっぱいに敷きつめ、1カ所に穴を開けて1階の床に山をつくったり、別の部屋では黒い空間にスラグで土手をつくり、水をたたえて舟を配し、正面の壁に都市のイメージを映し出したりしている。大巻はTWSとともにゴミや環境問題についてのリサーチを続けているというが、まだ「作品」としてこなれてないように思う。

2009/08/27(木)(村田真)

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『野島康三写真集』

発行所:赤々舎

発行日:2009年7月17日

かえすがえす残念だったのは、京都国立近代美術館の「野島康三 ある写真家が見た日本近代」(2009年7月28日~8月23日)を見過ごしてしまったこと。ついもう少し長く会期があるように錯覚していて、気がついたら展示が終わっていたのだ。展覧会とほぼ同時期に、赤々舎から写真集が出ているので、そちらを取り上げることにしよう。
野島康三(1889~1964)は、いうまでもなく日本の近代写真の創始者の一人。写真家として重厚なヌードやポートレートで高度な表現領域を切り拓くとともに、洋画専門の画廊、兜屋画堂の経営(1919~20)、月刊写真雑誌『光画』の刊行(1932~33)など、日本の戦前の芸術・文化の状況に重要な足跡を残した。本書は京都国立近代美術館に保存されている彼の作品のほとんどすべてをおさめた、決定版といえる写真集である。ページをめくれば、野島が日本の写真家にはむしろ珍しい、強靭な視線と骨太の造形力の持ち主だったことがわかるはずだ。以前、アメリカの「近代写真の父」アルフレッド・スティーグリッツと野島の作品が並んで展示されているのを見た時、野島の方が圧倒的に力強いオーラを発しているのに驚嘆したことがある。今回の写真集及び写真展では、これまであまり注目されてこなかった『光画』以後の、技巧をこらしたモード写真や静物写真、また彫刻家・中原悌二郎や陶芸家・富本憲吉の作品集のために撮影された写真などにもスポットが当てられている。野島の作品世界の全体像がようやく姿をあらわしてきたといえるだろう。
写真集のレイアウトで気になったのは、初期の「にごれる海」(1910~12頃)など、「芸術写真」の時代の名作のいくつかが、断ち落としで掲載されていること。このように画面の端が切れてしまうと、絵画的な、厳密な美意識で為されていたはずのフレーミングがわかりにくくなってしまうのではないだろうか。

2009/08/27(木)(飯沢耕太郎)

鴻池朋子 展──インタートラベラー 神話と遊ぶ人

会期:2009/07/18~2009/09/27

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

絵画、彫刻、インスタレーション、映像とさまざまなメディアを駆使して、広大なギャラリー空間を1冊の絵本のように編集してしまった力技は、見事というほかない。一つひとつを個別に見ると、絵はイラストっぽかったり、ミラーボールを使ったインスタレーションは学芸会ぽかったりもするが、それをカバーしてお釣りがくるほどの想像力の大きな流れが全体を貫いている。

2009/08/26(水)(村田真)

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手塚愛子 展

会期:2009/07/16~2009/09/09

ケンジタキギャラリー[東京都]

1枚の織物から1色だけ糸を引き抜いてみたり、薄い布にあやとりのようすを刺繍してみたり。糸を手であやつるあやとり自体が刺繍を暗示するが、ここで興味深いのは、布の裏側にたわんだ糸が透けて見えること。その背後の糸は、あやとりのイメージを形成するうえで欠かせないネガの部分を担っているのだ。その半透明の透けぐあいが、ちょうどマティスの何度も描き直したドローイングを想起させることもつけくわえておこう。

2009/08/26(水)(村田真)