artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

興福寺創建1300年記念「国宝 阿修羅展」

会期:2009/07/14~2009/09/27

九州国立博物館[福岡県]

夏休みまっただなか、たいへんな賑わいでつねに混雑していると聞いていたので覚悟していたけれど、訪れた時間が遅かったせいか、人だかりが集中するのは展示のメインとなる阿修羅像の周りだけで、全体的に意外とじっくりと鑑賞できたのが嬉しい。興福寺で見たこともあったがまったく印象が異なるように感じられたのはやはりガラスケースなしの360度露出展示のせい。三つの顔面の端正な顔立ちや憂いを孕んだ微妙な表情、六本のしなやかな腕の線がどの角度から見ても美しく、ファンが多いというのもさらに納得だ。左側斜め後ろからの角度で見る表情が特に良かった。一緒に見た両親は全体的に照明が暗すぎると不満ももらしていたが、三つの顔のなかで好きな顔はどれか、ほかに気に入った仏像はどれか、どの角度から見るのが好きかなど、展示仏像の周りをぐるぐる回りながら家族で話し合う時間はそれだけでも楽しかった。

2009/08/11(火)(酒井千穂)

建築家坂倉準三展

会期:2009/05/30~2009/09/06

神奈川県立近代美術館鎌倉[神奈川県]

上野の国立西洋美術館では開館50周年を記念して「ル・コルビュジエ展」が開かれていたが、その弟子で西洋美術館の設計も手伝った坂倉準三は、没後40年記念で彼自身の手になる「鎌近」で回顧展を開催。坂倉というとこの鎌近しか知らなかったが、羽島や呉などの市庁舎や東京日仏学院なども手がけてるんですね。意外だったのは、新宿西口広場のデザイン。かつてこの場所で集会やデモが行なわれたとき、当局は「広場でなく通路だから立ち止まるな」と強弁して、若者を一掃しようとしたことがある(その後ホームレスを一掃した)。この「広場」を設計した坂倉さんはどう思っていたんだろう。

2009/08/08(土)(村田真)

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小泉明郎

会期:2009/07/25~2009/11/08

森美術館ギャラリー1[東京都]

どう反応していいのやら、じつに居心地も後味も悪い映像作品。

2009/08/08(土)(村田真)

アイ・ウェイウェイ展──何に因って?

会期:2009/07/25~2009/11/08

森美術館[東京都]

パンダの展覧会かと思ったら、中国の現代美術家だそうだ。プーアール茶を1立方メートル、重さ1トンの立方体に固めたり、伝統的な組木技法によって中国の地図をつくったり、骨董品の壺に「Coca-Cola」と書き加えたり。ミニマリズム、コンセプチュアリズムにポップな味つけを加えたうえ、中国の素材や技法を用いてるので欧米のマーケットでも大ウケ間違いなし。そのわかりやすさ、切れ味の鋭さゆえに「語るに落ちる」ほどだが、落ちきらずになにか引っかかるところに彼の芸術性がある。

2009/08/08(土)(村田真)

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堂島リバービエンナーレ2009「リフレクションアートに見る世界の今」

会期:2009/08/08~2009/09/06

[大阪府]

今後、堂島リバーフォーラムが隔年で開催するという堂島リバービエンナーレの第一回目。「リフレクション:アートに見る世界の今(Reflection: The World Through Art)」と題し、「シンガポールビエンナーレ」2006年の第一回展、2008年の第二回展の出品作品のなかから政治的、社会的、文化的な問題提起を行なう作品26点を紹介。現実を写す鏡としてのアートを通じて、現代社会をとらえるさまざまな視点を知り、国や個人としての在り方、生き方について考えるという趣旨。ボリビアのウユニ塩原で撮影されたというチャーリー・ニジンソンの《漂流する人々》というビデオインスタレーションは、水面に白い雲と青い空が反射して映る美しい光景と、バリバリという時に激しい風の音が印象的な映像作品。そこに映る微動だにしない人影の存在が、大変ちっぽけにも神々しいものにも思えて不思議だった。アジア地域からの出品作家は15名。現在の環境や、それぞれの国の歴史の文脈、そのなかでの社会通念や倫理的問題など、各作家が扱うテーマと物語性を孕んだ作品は、偏りのないバランスで構成されていて、全体的にとても見応えのある内容。もっとゆっくり見たかった。

2009/08/07(金)(酒井千穂)