artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

アーバン/グラフィティ・アート展

会期:2009/08/14~2009/08/25

Bunkamura Gallery[東京都]

UKのグラフィティ・アートを集めた展覧会。セックス・ピストルズのジャケットで知られるジェイミー・リードの《Union Jack God Save the Queen》をはじめ、バンクシーやニック・ウォーカーなどによるシルクスクリーン、およそ100点が展示された。ステンシルの導入以来、グラフィティはヴィジュアル・イメージの度合いが増すとともに、商業的な価値も高めていったが、同展に展示されたグラフィティ・アートはまさしく「アート」に比重を置いたグラフィティだった。逆にいえば、そこに「ストリート」の野蛮な香りを求めることがかなわないほど、今日のアーバンはアート化されているということなのだろう。

2009/08/25(火)(福住廉)

松田修「オオカミ 少年 ビデオ」

会期:2009/08/20~2009/09/19

無人島プロダクション[東京都]

今春、東京藝大の大学院を修了した新進気鋭のアーティスト、松田修の初個展。というと、いかにも小賢い理論派の美術家によるクールな作品を連想してしまいがちだけれど、松田の魅力はその対極にある。彼の作品は、何よりもまず、徹底的に下品である。その潔さが心地よい。といはえ、エロとグロと暗い笑いが渾然一体となった作風が、多くの鑑賞者の目を背けさせてしまいがちなのは事実だ。けれども、それらはたんにお下劣なネタを披露するだけのアートではなく、むしろ万人にとって興味があるエロをとおして、鑑賞者の無意識に働きかけるための戦術なのだ。中年サラリーマンの頭から抜け落ちた髪が鼻孔の鼻毛と通じ合うドローイングに見られるように、松田が掘り起こそうとしているのは、「私」と「もの」がそれぞれ異なりながらも、どこかで通底する次元だが、それは凡庸な日常生活の影に隠れているため、ほとんど知覚することはない。しかし、松田本人を被写体とした静止画像をつなぎあわせた断続的な映像を見ると、滑らかな時間性に穿たれた裂け目からその根源的な地平がありありと浮かび上がってくるのがわかる。「おれ」と「おまえ」が果てしなく循環する円環的な原型。その系譜を辿るとすれば、現代美術の伝統より、むしろギャグ漫画の帝王である赤塚不二夫にたどり着く。おしりから昆布が出てきて慌てふためくおっさんに、バカボンのパパは昆布の先端を結んで輪にしてしまい、「また食べなさい!! 口から食べるとおしりから出てくるのだ 出たらまた食べてまた出たら食べるのだ いつまで食べてもキリがないのだ!!」と喝破するが、松田修と赤塚不二夫はおそらく同じ地平を見通しているにちがいない(バカボンについては『文藝別冊 赤塚不二夫』の19頁を参照)。

2009/08/24(月)(福住廉)

松本陽子/野口里佳「光」

会期:2009/08/19~2009/10/19

国立新美術館[東京都]

絵画と写真、2人の女性アーテストによる2人展。松本に「光は荒野のなかに輝いている」(1992~93)というシリーズがあり、野口にも「太陽」(2005~08)というシリーズがあるなど、一応「光」というテーマがゆるく設定されているが、実際には2人の独立した回顧展といってよい。
野口は1990年代の「フジヤマ」(1997)から近作の「虫と光」(2009~)まで、意欲的に作品の幅を広げ、ライトテーブルを使ったインスタレーション(「白い紙」2005)や、島袋道浩との共同制作のビデオ作品(「星」2009)などさまざまな手法にチャレンジしはじめている。ちょうど伊島薫の太陽の作品を見た後だったのでより強く感じたのだが、照明を暗く落とした部屋に、スポットライトをあてて作品を見せる「太陽」のインスタレーションなどを見ると、野口と伊島の世代では、展示の意識と仕上げにかなり差がついてしまっているように感じる。90年代以降、印刷媒体からギャラリーや美術館での展示に作品の最終的な発表の媒体が変わったことの影響とその消化のあり方の違いが、端的にあらわれてきているのだ。
もう一つ松本の作品を見ながら考えたのは、同じく「光」を扱うにしても、絵画と写真ではその見え方が違ってくるということ。絵画は「光」を現在形で、その生成や変化の相でとらえることができるのに対して、写真はどうしても過去形、「かつてあった出来事」としてしか定着することができない。それを何とか「生まれつつある」形で提示するために、野口はさまざまな工夫を凝らしている。ブレ、ボケ、滲み、ハレーション──論理的で明晰な構造を備えた野口の作品にそのような「揺らぎ」が付加されているのはそのためなのだろう。

2009/08/23(日)(飯沢耕太郎)

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涼音堂茶舗「電子音楽の夕べ」

会期:2009/08/22~2009/08/23

法然院 方丈[京都府]

毎年、法然院方丈で開催されている「電子音楽の夕べ」。辺りが暗くなると無数の蛍が闇の中を飛んでいるかのような幻想的な光景が出現する「浄土庭園」での粟倉久達による光のインスタレーションは、「銀河鉄道の夜」をイメージしたもの。併設の茶席空間では障子をスクリーンにデザインユニット「東京食堂」の映像作品が上映される。面白いのは、開演の頃になると外からさまざまな虫の鳴き声が聞こえてくること。電子音と虫や風の音が合わさっていくライブと、伝統技術を継承しながら現代美術の接点として活動する作家たちが創りあげる空間は、会場である法然院自体の風情もさることながら、音楽イベントという枠にとどまらない魅力に溢れていて毎回、次回の開催が待ち遠しくなるほどスゴい。

2009/08/22(土)(酒井千穂)

絵画の、あつみ

会期:2009/07/25~2009/08/23

練馬区立美術館[東京都]

コレクションを基礎とした企画展示。絵画というと「なにが描かれているか」という表面のイメージばかり気になり、「どこに描かれているか」という厚みをもった物質的側面は無視されがち。その「厚み」に注目した興味深い展示だ。絵具をこってり盛り上げた油絵をはじめ、キャンヴァスの裏側、日本画の表装や油絵の額縁なども見せているが、最大の目玉は、美術館ファサードを覆うガラス面に描いた吉田暁子の作品だ。ガラスに和紙を貼って色を塗り、オバケみたいなものを現出させている。ガラスは物質性が希薄なので厚みを感じさせないが、向こう側の風景も採り込むことができるから、いちばん厚みがある(奥行きが深い)とも言えるだろう。

2009/08/22(土)(村田真)