artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

太田大八とえほんの仲間たち展

会期:2009/06/20~2009/08/30

佐川美術館[滋賀県]

会場にぎっしりと展示されていた太田大八と15名の作家の絵本の原画。ちょっと詰めこみ過ぎの印象もあり、一つひとつを鑑賞するには狭すぎて、もったいない気がしたが、順番に見ていくうちにだんだんと原画の魅力に引き込まれる。生き生きとした筆跡やコラージュの細やかな表現など、絵本の状態では気づきにくいそれぞれの特徴も確認できる。印刷されてしまうと色彩やその表現の特性の持ち味が消えてしまうことが多いのだと思い知り、複雑な気分にも。夏休みの子ども向けの展覧会だが見にいって良かった。

2009/08/30(日)(酒井千穂)

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第1回所沢ビエンナーレ美術展:引込線

会期:2009/08/28~2009/09/23

西武鉄道旧所沢車両工場[埼玉県]

所沢駅に隣接する巨大な車両工場跡を会場にしたビエンナーレ。天井からは鉄骨の梁や作業用の足場が吊り下がり、床には引込線のレールが残るハードな空間なので、よっぽど存在感の強い作品でないと負けてしまう。そのため彫刻やインスタレーションが過半数を占め、絵画は細長い一室に追いやられている。しかも壁面をホワイトボードで覆ったうえに絵画を展示しているのだ。ここまでケアが必要なら、いっそ絵画はなくてもいいのでないか。ひとり長谷川繁だけが薄汚れた壁に直接絵画を掛けていたが、この展示は成功していたように思う。やはりこういう場所で見せる以上、空間の読み込みや展示の工夫は絶対不可欠だ。その意味で、森淳一の繊細きわまりない彫刻と、飯田竜太の事典を切り抜いた博物学的アートとでもいうべき作品はとても魅力的だが、この空間にふさわしいとは思えない。逆に、広い会場の中央の天井近くにクス玉を吊るし、ひもを手が届く手前の高さまで下ろした豊嶋康子の《固定/分割》は、この空間をよく読み込んだ作品といえる。しかも感心したのは、その手前にガラス球を吊った石原友明の作品、さらにその手前に球根のようなかたちをした戸谷成雄の木彫が置かれていること。つまり一部が球状になった作品が3つ並んでいるのだ。展示ディレクター(そんな人がいるのかどうか知らないが)のセンスが光る。

2009/08/30(日)(村田真)

長澤英俊 展──オーロラの向かう所

会期:2009/07/18~2009/09/23

埼玉県立近代美術館+川越市立美術館[埼玉県]

最初は北浦和の玉近へ。もう何年ぶりだろう、というくらい久しぶりぶり。長澤の作品は、もの派に似てトリッキーなところがあったり、日本的なものを感じさせる部分もあるが、むしろ構造力学への依存が強く、しかも詩的で物語性にあふれ、日本人には珍しくエレガントだ。天蓋つきのベッドのような《バグダッドの葡萄の木》、壁の上方にとりつけられた1畳部屋みたいな《詩人の家》に惹かれる。多摩美のインテリアデザイン出身と聞いてなんとなく納得。大宮から埼京線に乗って川越に行き、バスで市立美術館へ。まだ新しい美術館で、初の訪問となる。ここにはタイトルにも使われた大作《オーロラの向かう所》がある。なかに入るとほとんど真っ暗だが、目が慣れてくると広い展示室に大理石の列柱が見えてくるというインスタレーション。でもジェームズ・タレルのように純粋な視覚効果をねらった科学的探究とは異なり、神秘のベールをかぶっている。もう1カ所、遠山記念館にも足を伸ばしたかったが、カネも時間もないので断念。

2009/08/30(日)(村田真)

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青木淳 夏休みの植物群

会期:2009/08/01~2009/09/05

TARO NASU[東京都]

建築家・青木淳の個展。建築家の展覧会といえば、真っ白い建築模型が定番だが、青木淳はあくまでも現代美術としての作品を発表したようだ。会場の床にはサッカーボールを生やした植木鉢や白いリングを組み合わせたユニット、壁には茫漠とした平面作品。現代美術の定番どおり、いささか素っ気ない空間に仕上がっていたが、これは鑑賞者に思わせぶりな謎掛けをしておいて煙に巻くだけの旧来のアートのルールにのっとったというより、むしろ分析的・分解的な傾向を強調するための工夫なのだろう。青木淳といえば、4つの円を組み合わせたリングユニットを積み上げて建造物を支えるリング構造体で知られるが、それらを六角形の集積によって成り立つサッカーボールと並置することで、空間を構成する最小限の単位を意識させようとしていたからだ。それが現代美術のミニマルな傾向と共振していることはまちがいないが、同展が示唆していたのは建築から現代美術への飛躍にとどまらない。植木鉢は、そうした最小単位を人工的な自然として社会に定着させようとする野望の現われのように見えた。

2009/08/29(土)(福住廉)

浜寺の家 住宅完成見学会+小さな作品展

会期:2009/08/29~2009/09/06

浜寺の家[大阪府]

建築家の中尾彰良が設計した個人宅が、堺市の閑静な住宅街に完成、お披露目会が催された。ユニークなのはその内容。邸内に10人の作家による絵画、家具、絵本、詩などが配置され、住宅展示会+展覧会として公開されたのだ。ちなみに作品は施主のコレクションでも中尾のコレクションでもなく、この催しのために集められたとのこと。他人の家を覗くのは興味深いものだが、建築家が設計した建物ならなおさらだ。テレビ番組の渡辺篤史の気持ちになって、隅々まで舐めるように観察させてもらった。しかも美術展まで行なわれているのだから、その面白さは何倍にも膨らむ。他の建築家も同様の催しを行なっているのだろうか。だとしたら、今後もどんどん出かけたいものだ。

2009/08/29(土)(小吹隆文)