artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
堂島リバービエンナーレ2009「リフレクション:アートに見る世界の今」

会期:2009/08/08~2009/09/06
堂島リバーフォーラム[大阪府]
南條史生をアートディレクターに迎え、彼が手がけた2006年と2008年のシンガポール・ビエンナーレの出品作のなかから、政治的・社会的メッセージ性の濃い作品26点を選んで構成された。キリスト教とイスラム教の衝突をテーマにしたトマス・オチョアや、パレスチナ問題への抗議を過激に訴えたスーハ・ショーマンなど、映像作品が多数を占めており、照明・音響機材に恵まれた会場の特性を生かしたハイクオリティな展示が印象的だった。こと映像作品に関しては、既存の美術館より優れた展示だったと思う。日本ではなかなか見られないハードエッジな作品が多数を占めていたが、こうした作品群がもっと頻繁に紹介されるべきだ。内向き、ナイーブ、草食系、オタク……、知らぬ間にそんな作品ばかりに囲まれていたぬるい自分を実感した。
2009/08/07(金)(小吹隆文)
仏たちの物語

会期:2009/07/11~2009/08/16
MIHOMUSEUM[滋賀県]
釈迦の誕生から大乗仏教のおこり、日本での仏教の広がり、写経、禅など6つのテーマを子ども向けのイラスト、マンガ、ビデオなどを交えて詳細に解説、約70点の資料を展示。特に印象的だったのは白鳳時代の《橘夫人念持仏・後屏飛天拓本》。仏教信仰に篤かったという光明皇后の母、橘夫人の死後、法隆寺に収められた阿弥陀三尊の後屏に描かれたものの拓本。飛天がまとう衣がふわりと風に舞い上がる軽やかな様子がなんとも絶妙で儚げな雰囲気。また、さまざまな時代の写経やそこに込められた人々の思いを紹介するコーナーも興味深い。知識が乏しく写経といってもあまりピンとこなかったけれど、奈良時代には図書寮という役所まで設けて行なわれていた国家的事業だったという写経、書き写された楷書体の美しさと圧倒的な説得力には目を見張るものがあった。
2009/08/05(水)(酒井千穂)
石塚元太良『LENSMAN』

発行所:赤々舎
発行日:2009年5月30日
石塚元太良と石川直樹はどこか似ている。精力的な旅人というポジションに立ち、旺盛な創作意欲で次々に作品を発表している。着眼点がよく、撮影の方法論を的確に設定し、プリントの仕上げや展示も悪くない。にもかかわらず、いつも「物足りなさ」が残ってしまう。ボールを蹴る所まではいいのだが、それがすっきりとしたファイン・ゴールに結びつかないのだ。
このシリーズは、もしかすると石塚の転回点になる作品かもしれないとは思う。「あとがき」にあたる文章に彼が書いているように、今回は「特別どこにも出かけないで目のまえのモノたちを、普段見慣れたモノたちを、僕は次のモチーフとして撮るのだ」という意気込みで撮影された写真が並んでいるからだ。石塚はそのアイディアを、アラスカの石油パイプラインの撮影の終着点、北極圏のデッドホースという土地で思いついたのだという。地球上で最も遠い場所まで出かけていった時に、ふとかつて撮影した晴海のスクラップ工場の眺めを思い浮かべる。そしてさらに記憶をさかのぼって、幼年時、身のまわりのモノたちに違和感を覚えて「自分をつなぎ止めるようによく自分の手のひらを眺めていた」という原体験にまで行きつくことになる。
この方向づけはまっとうであり、彼がようやく写真家としてのスタートラインをきちんと引き直そうとしているのがわかる。だが、結果的にこの写真集から見えてくるのは「物足りなさ」であり「もどかしさ」だ。被写体としてのモノ、ヒト、記号の選択の仕方、その配置、レイアウト──すべて悪くはない。が、すとんと腑に落ちない。これがいま伝えたいものだというメッセージがクリアに焦点を結ばないのだ。どうすればいいのか。もがき続けるしかないだろう。「レンズマン」の旅はまだ始まったばかりなのだから。
2009/08/05(水)(飯沢耕太郎)
染谷聡 展 御獣(おけもの)

会期:2009/08/04~2009/09/05
イムラアートギャラリー[京都府]
お椀のなかから胴体や手足がにょきにょきと生えたモノノケのようなオブジェを中心に、イラストや小品を交えた10数点を展示。いずれも漆芸で、蒔絵や螺鈿、沈金などの技法が凝らされている。モチーフの表面には漫画的な図柄や小品キャラクターを思わせる図像、文字などが散りばめられ、キッチュな匂いがプンプン漂っている。この伝統技法と現代性の融合が染谷の特徴である。また、イラストが出品されたのは今回が初めて。彼の造形がどのように形作られて行くかを別の角度から知ることができ、興味深かった。
2009/08/05(水)(小吹隆文)
銀河観音Sachi&Peace展

会期:2009/08/01~2009/08/16
ZAIMギャラリー[神奈川県]
現代美術とかモダンアートの文脈とはまったく異なる次元でつくられた、「女神の画家」高杉嵯知さんの水墨画と素朴画。作品の内容もさることながら、窓際にも黒い額の絵を立てかけ、かたわらに花を添えるインスタレーションは、まるで葬式みたい。このように展示と本人の存在感で場の空気を変えてしまうマジックは見習いたいもの。
2009/08/04(火)(村田真)


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