artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
《サムスン美術館リウム》
[韓国]
インドから日本に帰る途中、ソウルの乗り換えで数時間あったので、久しぶりに《サムスン美術館リウム》に立ち寄った。空港から最寄の駅まで、ほとんど地下空間の移動だけでアクセスできるおかげで、冬の厳しい寒さを感じるのは最小限に抑えられた(日本の美術館でこれが可能なところはどれくらいあるだろうか)。開館当初に一度訪れたときは予約制だったはずだが、いまは自由に訪問できるようになった。これはマリオ・ボッタ、ジャン・ヌーヴェル、レム・コールハースという三巨匠が各棟を設計するという夢のプロジェクトであり、収蔵品もクオリティが高い施設だが、企業の美術館だけではない。その後のソウルではザハ・ハディドの《東大門デザインプラザ》やMVRDVによる「ソウル路7017」などが登場し、さらに前衛的なデザインの存在感を高めている。一方、現在の東京は凡庸な開発ばかりで、むしろ昭和ノスタルジーに浸り、逆方向に向いているのではないか。
この美術館が興味深いのは、それぞれの建築家のデザインの特性を考え、ボッタ棟は古美術、ヌーヴェル棟は近現代の美術、そしてコールハース棟は映像、教育、特別展示など、フレキシブルな使い方をあてがっていることだ。また以前にはなかった手法によって、展示がバージョンアップしていた。例えば、ボッタ棟は韓国の古美術や工芸の展示だけに終始するのではなく、一部にマーク・ロスコなどの現代美術を加え、作品による新旧の対話を試みていた。またコミッションワークが効果的に挿入されていた。例えば、鏡面を活用し、黄色い半円群をリングに見せるオラファー・エリアソンの大がかりな空間インスターレションは、古美術の展示が終わり、中央のホールに戻る大階段の上部に設置されている。またカフェでは、リアム・ギリックのカラフルかつグラフィック的なインテリア・デザイン風の作品が、10周年を記念して2014年に増え、空間をより魅力的なものに変えていた。
2018/01/07(日)(五十嵐太郎)
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展
会期:2018/01/06~2018/03/11
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
昨年からアルチンボルド、ブリューゲル、そしてブリューゲル一族と、古典的な美の規範からちょっと外れた画家たちの展覧会が続く。そんなマニエリスム芸術をはじめ、錬金術や天文学など妖しげな学問芸術をこよなく愛した神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の脳内宇宙に迫り、プラハ城内に築いたヴンダーカマー(驚異の部屋)を可能な限り再現してみようという好企画。出品作家はアルチンボルドとブリューゲル(ただし子孫のヤン親子)が有名なくらいで、あとはルーカス・ファン・ファルケンボルフ、ルーラント・サーフェリー、バルトロメウス・スプランガーといったあまり知られていない風変わりな画家たちが多い。いずれも現実にはない情景を細密に描いた幻想絵画で、その妖しさ、いかがわしさがまたルドルフ2世の趣味をよく反映している。
例えばファルケンボルフはバベルの塔や外遊するルドルフ一行を描いた小品、サーフェリーは森のなかに多種の動物を織り交ぜた博物画とでも呼ぶべきシリーズで、これらはアルチンボルドの《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》や、ヤン・ブリューゲル(父)の《陶製の花瓶に生けられた小さな花束》などと同様、この広大で多様な世界(マクロコスモス)を1枚の絵(ミクロコスモス)に閉じ込めようとしたものだといえる。そしてこうした思想が、ルドルフ2世の脳内宇宙ともいうべきヴンダーカマーを支えていたに違いない。出品はこのほか、天文学関連の書籍、望遠鏡、時計、天球儀、大きな貝殻や貴石でつくった杯などにおよんでいるが、いかんせん学芸にウツツを抜かして国政を疎んじたツケが回ったのか、皇帝の死後コレクションは侵略などにより四散してしまった。そのため今回は、日本も含めた各地から寄せ集めなければならなかったという。質的にも量的にも物足りなさを感じる人がいるかもしれないが(実際ルドルフ2世のヴンダーカマーは質量ともにこれをはるかに凌駕していたはず)、むしろよくここまで集めたもんだとホメてあげたい。
2018/01/06(土)(村田真)
6人の星座 ニコンサロン50周年記念 ニコン・コレクション展
会期:2018/01/05~2018/01/23
銀座ニコンサロン[東京都]
1968年に東京・銀座に開設されたニコンサロンは、数あるメーカー系のギャラリーのなかでも強い存在感を発し続けてきた。基本的には展示専門のスペースなのだが、1976年に伊奈信男賞(その年にニコンサロンで開催された最優秀の展覧会を顕彰)が新設されたのをひとつのきっかけとして、写真収集にも力を入れるようになった。今回のニコンサロン開設50周年を記念する「6人の星座」展では、そのニコンサロンのコレクションの中から選抜して、山村雅昭、深瀬昌久、平敷兼七、鈴木清、田原桂一、山崎博の6人の作品、33点が展示された。
数はそれほど多くないが、会場は張り詰めた空気感に満たされ、それぞれの写真が発する“気”のようなものがしっかりと伝わる素晴らしい展示になった。6人の写真家たちは、一般的にいえばそれほど著名ではないし、日本の写真表現のメインストリームをというわけでもない。だが、作風はそれぞれ違うものの、自らの生と写真家としての営みを見事に合致させ、深みのある作品世界を形成してきた作家たちである。つまり、自分の視点と方法論をきちんと確立した写真家たちということで、一人ひとりの視座が互いに結びついて、ひと回り大きな「星座」として成立しているところに今回の展覧会の見所がある。「日本写真」のエッセンスというべき展示を、今年の初めに見ることができたのはとてもよかった。
ニコンサロンのコレクションを活かした展示は、ほかのかたちでも十分に考えられそうだ。沖縄に根づいて活動を続けた平敷兼七の作品など、もっと別な枠でも見てみたい。なお、本展は2月1日~2月14日に大阪ニコンサロンに巡回する。
2018/01/05(金)(飯沢耕太郎)
YANG FUDONG THE COLOURED SKY: NEW WOMEN Ⅱ
会期:2017/10/18~2018/03/11
エスパス ルイ・ヴィトン 東京[東京都]
吹き抜けの窓を塞いで真っ暗にして、映像を5面スクリーンで見せている。なんだせっかくの空間が生かされず残念、すぐ出てやる! と思ったが、映像が15分少々なので最後までつきあうことに。舞台は海岸、背景に山が見えるが、すべてジオラマ風のスタジオセットで、かつてのコンストラクテッド・フォトを彷彿させる人工的な色合いだ。水着姿の若い女性、生きたウマやヘビ、剥製のシカも登場する。動きはスローモーションだが、映像がスローなのではなく人の動き自体がゆっくりなのだ。5面の映像を交互にランダムに見ていたが、登場人物やモチーフが互いに関連し反響し合っているようで目が離せなくなり、結局予定を大幅に越えて30分くらい見てしまった。見て得したとは思わないけど、損はしなかった。
2018/01/05(金)(村田真)
明治維新150年 幕末・明治 ─激動する浮世絵
会期:2018/01/05~2018/02/25
太田記念美術館[東京都]
浮世絵というと江戸時代の庶民的メディアと思いがちだが、明治以降も盛んに発行されていた。むしろ明治以降のほうが量的には多いかもしれない。江戸時代は基本的に天下太平だったので、役者絵とか名所図会とか春画とかいわゆる趣味的な風俗画が大半を占めていたが、幕末から黒船来航に始まる激動の時代に突入したため、浮世絵のモチーフも横浜の異国人、鉄道や建築などの都市風景、戊辰戦争から日露戦争までの戦争画と激変、激増し、西洋の遠近法や陰影法を採り入れて表現も洋風化していく。そうした浮世絵の近代化の一番の立役者が、チャールズ・ワーグマンに油絵を学んだ小林清親だ。同じワーグマンに学んだ洋画家の高橋由一が、花魁や自然の風景など失われつつあるモチーフを油絵で描き残したのと対照的だ。
2018/01/05(金)(村田真)