artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
アルチンボルド展
会期:2017/06/20~2017/09/24
国立西洋美術館[東京都]
単に彼の作品を並べるだけではなく、ミラノ時代の作品、ハプスブルグ宮廷における活躍と有名な四季や四元素シリーズの誕生、「驚異の部屋」や博物学の影響、自然観察の背景、カリカチュアとの関連、彼のフォロワーなど、多角的な側面から彼の仕事を位置づける。いまから遡って位置づけると、シュルレアリスムの先駆であり、メタ絵画と言うべきアルチンボルドも、やはり時代が生み出した画家なのだ。
2017/06/28(火)(五十嵐太郎)
切断芸術運動というシミュレーション・アート展
会期:2017/06/25~2017/07/06
東京都美術館[東京都]
グループ展の公募で選ばれた企画で、彦坂尚嘉が多くの若手作家と提示するアートの新しい手法が「切断」だ。やり方は、びっくりするくらいストレートでシンプル。すなわち、作品の左右、あるいは上下を二つに切断し、入れ替えるだけなのだが、これを絵画、写真、彫刻など、さまざまな媒体で展開している。その結果、生成される作品は、確かに凡庸な原形であったとしても、強烈な異化効果をもたらす。
2017/06/28(火)(五十嵐太郎)
小林健太「自動車昆虫論/美とはなにか」
会期:2017/06/03~2017/08/12
G/P GALLERY[東京都]
小林健太は、1992年神奈川県生まれの、最も若い世代に属する写真作家である。2016年のG/P GALLERYでの初個展「# photo」では、都市の光景や身近な人物たちを撮影した画像をphotoshopで加工したり、ビデオ作品として出力したりする作品を発表した。現実をデジタル的に変換していく手続きそのものが、「グラフィック・ユーザー・インターフェース」(複雑な操作を直感的に扱うことができるインターフェース)に日常的に接してきた彼自身の生の経験と分かち難く結びついており、結果的にのびやかでナチュラルな画像として出現してくる。最初からデジタル・ツールを自在に使いこなすことができた世代に特有の写真表現のあり方が、いままさに拓かれつつあるといえそうだ。
その小林の新作は、ユニークな発想の作品群だった。都市を走り回る自動車を昆虫に見立てるアイデアは、特に目新しいものではないが、小林は特にアリのような「群知能」を持つ昆虫に注目する。彼らは「個体は単純な反応で動くが、群れになったときには強大な知性を発揮」し、蟻塚のような巨大な建築物をつくり上げる。自動車も同じで、一台一台は知性を持たないが、アリのように都市にはびこってその風景や環境を変質させていく。そんな「自動車昆虫」のあり方をどう表現するのかについてはまだ模索中のようで、会場には大きく引伸ばした道路標識や、昆虫標本を思わせる自動車の写真のほかに、土を焼いてグリッド状に敷き詰めたオブジェなども展示してあった。思考の広がり具合を、どのように作品に落とし込んでいくのかについてはさらに試行錯誤が必要だろう。海外のギャラリーや写真フェスティバルからも参加依頼が来ているようだが、いまは制作と発表のペースを加速していく時期なのではないだろうか。
2017/06/28(水)(飯沢耕太郎)
植田志保展 色のすること「接触」
会期:2017/06/27~2017/07/02
LADS GALLERY[大阪府]
植田志保の作品は透明水彩の軽やかさを活かした抽象画で、風景あるいは光や水の戯れのようにも見える。筆者は過去に何度か彼女の個展を見てきたが、今回はいままで見たなかで最も広い会場だった。そのせいか作品のサイズが大きく、それらがずらりと並ぶ様は圧巻だった。これならさらなる大作(100号以上とか)にトライしても大丈夫ではないか。いずれにせよ本展は、筆者がいままで勝手に抱いていた作家像に変更を迫るものだった。また展示構成も秀逸で、長い壁面に2種類のサイズの作品を一列に並べる一方、小品は奥の壁面にまとめてランダムに配するなど、メリハリが効いていた。湯澤美菜(精神科医)と倉持陽介(スパイラルガーデンギャラリー担当)が寄稿したテキストのパネルも、デザイン・配置共に申し分なく、展覧会のグレードを上げるのに寄与していた。
2017/06/27(火)(小吹隆文)
今西佳菜展
会期:2017/06/27~2017/07/02
LADS GALLERY[大阪府]
身の回りの日用品をモチーフにした木彫作品をつくる今西佳菜。作品の特徴は、普通なら美術作品に選びそうもないありふれた品を選んでいることと、適度なユルさが感じられるデフォルメと彩色だ。以前の個展ではレリーフ作品を壁面に配置していたが、本展では床や台座に置くタイプの立体がメインとなり、作品の魅力が一層高まった。ちなみに今回の作品のモチーフは、自転車、掃除機、傘、シャツ、湯たんぽ、下着など彼女の愛用品と思しきもののほか、動物をモチーフにした作品もあった。作品にはまだまだ改良の余地があるかもしれないが、磨けば光る可能性が感じられる作家である。今後も精進して個展を続けてほしい。
2017/06/27(火)(小吹隆文)