artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

「そこまでやるか」壮大なプロジェクト展

会期:2017/06/23~2017/10/01

21_21 DESIGN SIGHT[東京都]

グッドデザイン賞の二次審査の後、「そこまでやるか」展の内覧会に顔を出す。なるほど、それぞれに極めるベクトルの方向は違うが、タイトルどおりのコメントを入れたくなる過激なプロジェクト群である。ブツの凄みでは、やはり石上純也の最小幅1.35m×高さ45m、屋根なしの中国の礼拝堂のプロジェクトに驚く。模型も1/10で、天井いっぱいにつくられている。展覧会の全体としては、クリスト、ジョルジュ・ルース、ダニ・カラヴァン、西野達などのわかりやすいアート・プロジェクトも入れて、初心者にもやさしい内容だった。

写真:左上から=石上純也、ダニ・カラヴァン 右上から=西野達、ジョルジュ・ルース、ヌーメン/フォー・ユース

2017/06/22(木)(五十嵐太郎)

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東京墓情 荒木経惟×ギメ東洋美術館

会期:2017/06/22~2017/07/23

CHANEL NEXUS HALL[東京都]

「東京墓情」の「墓情」はいうまでもなく「慕情」の洒落だが、荒木経惟の作品世界をとてもうまく指し示す言葉だ。荒木は東京の下町の三ノ輪の出身だが、生家の前には「投げ込み寺」として知られる浄閑寺があり、身寄りのない遊女を供養した総霊塔は、子供時代の「インディアンの砦」だったという。また、彼が被写体としての花を意識するきっかけになったのは、1973年に浄閑寺の墓場の花を白バックで撮影したのがきっかけだった。つまり、「墓」のある眺めは、荒木の原風景であり、そこからごく自然に、東京を「墓場」に見立てる発想が湧いてきたのではないだろうか。「3・11」後のざわついた状況のなかで、彼はモノクロームの「東京墓情」シリーズを撮影し始める。そして、それらは旧作を加えて2016年にパリのギメ東洋美術館で開催された「Tombeau Tokyo」展で初めて公開されることになった。今回のCHANEL NEXUS HALLでの展示は、そのダイジェスト版というべきものだった。
とはいえ、東京での「東京墓情」展には、花と人形とオブジェを構成した新作のカラー作品と、ギメ東洋美術館の日本の古写真コレクションから荒木自身が選んだという15点の写真があわせて展示され、展覧会としてはまったく別な印象を与えるものになっていた。特に興味深いのは、幕末から明治中期にかけて撮影されたフェリーチェ・ベアト、日下部金兵衛、小川一真らの着色プリントの世界と、荒木の写真との意外なほどの近さである。これらの「横浜写真」は、主に日本を訪れた外国人旅行者のためのお土産用写真として撮影・販売されていたものだ。当時の日本の風景や日本人の風俗は、外国人のエキゾチシズムを喚起するテーマだったのだが、荒木の写真にも日常を異物化する視点があり、それが古写真と奇妙なかたちで共鳴しているように思える。
それにしても、今年に入って荒木の活動には再び加速がついてきている。同時期にタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムでは「写狂老人A 17.5.25で77齢 後期高齢写」展(5月25日~7月1日)が、新宿のエプサイトでは「花遊園」展(6月10日~6月29日)が開催された。今年は10くらいの展覧会企画が同時進行しているという。それらをつなぎ合わせていくと、荒木の作品世界の新たな切り口が見えてくるのではないかという予感がある。

2017/06/21(水)(飯沢耕太郎)

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プレビュー:メガメガキラキラ 日常組 西村正徳展

会期:2017/07/01~2017/08/31

三田市総合文化センター 郷の音ホール[兵庫県]

山上から下界に向かって大声で叫ぶことができる巨大メガホン(音量測定器付き)や、無数の穴から光が漏れる巨大な児童用傘といった、観客参加型の大型彫刻作品などで知られる西村正徳。兵庫県三田市にアトリエを構える彼が、地元のホールの10周年を記念して大規模個展を行なう。彼は金属を用いた作品も制作しているが、老若男女を問わず人気を博すのは、やはり観客参加型の作品だろう。それらはテントシートを素材とするソフトスカルプチャーで、アートの知識を持たない人でも気軽に参加でき、素直に驚きや感動の声を上げられる。アートフェスや画廊ではなく、より幅広い層の人々が集う公共ホールで、彼の作品がどのような反響を巻き起こすのか。いまから楽しみだ。

2017/06/20(火)(小吹隆文)

プレビュー:拡がる彫刻 熱き男たちによるドローイング 植松奎二 JUN TAMBA 榎忠

会期:2017/07/04~2017/09/28

BBプラザ美術館[兵庫県]

植松奎二(1947~)、JUN TAMBA(1952~)、榎忠(1944~)が1カ月ごとに個展を行なう。ベテランたちの競演はそれだけで十分そそられるが、本展のキモは別のところにある。彫刻とドローイングの概念を拡張することだ。一般的に彫刻は立体、ドローイングは平面だが、空間を支持体と考えれば彫刻をドローイングと解釈でき、ドローイングも彫刻足り得る可能性があるのではないか。そのような野心的試みを、経験豊富な3作家の手で実現しようというのだ。神戸の小さな美術館から新たな空間概念が提唱されるかもしれない。ちょっと大げさかもしれないが、それだけの期待をかけるに値する展覧会だ。なお本展は関連イベントも充実しており、植松奎二による1978年のパフォーマンスの再現、JUN TAMBAが2003年に制作した巨大ドローイング(22m×19m)の再公開、榎忠の祝砲パフォーマンスなどが会期中に行なわれる。

2017/06/20(火)(小吹隆文)

アルチンボルド展

会期:2017/06/20~2017/09/24

国立西洋美術館[東京都]

これはおもしろかった。これまで国立西洋美術館で見た展覧会のなかでもベスト3に入る。いやベスト1といってしまってもいい。西洋美術館は昨年の「クラーナハ展」でも100人の中国人による模写を展示したり、最近ずいぶん企画力が増しているが、本展でもアルチン親分の作品はもちろんのこと、ミラノで影響を受けたであろう大先輩レオナルドの素描もあれば、魚類や鳥類を克明に描いた博物誌もある。また、アルチンが仕えたルドルフ2世のヴンダーカマーの紹介や、そのコレクション・アイテムである貴石を削った器に金銀細工を施した鉢も数杯来ていて、マニエリスム愛好家には見逃せない展覧会に仕上がっている。
さて、肝心のジュゼッペ・アルチンボルドは、「四季」「四大元素」のシリーズをはじめ、書物で構成された《司書》、樽やボトルを積み上げた《ソムリエ(ウェイター)》、肖像画を天地逆にすると静物画に見える《庭師/野菜》や《コック/肉》など、真筆の油絵だけで12点、帰属や追従も含めると約20点も来ている。これだけの数のアルチン作品が来るのはおそらく最初で最後だろう。驚くのは、12点の大半がヨーロッパの美術館に収まっているなかで、2点がデンバー美術館の所蔵であること。なんでまたロッキー山脈の山奥に……。もっと驚いたのは《ソムリエ(ウェイター)》が、近現代美術を集めている大阪新美術館建設準備室の所有になること。そもそもこの絵、初めて見るし、なぜか大阪新美術館のウェブサイトを見ても「主要作品」に載っていない。なのに同じサイトの「貸出中」の作品リストには載っているのだ。アルチン親分は「主要」ではないというのか。ともあれ、アルチンボルドと同時代を生きたブリューゲルと同じ時期に上野で作品が見られるというのは奇跡的なこと。

2017/06/19(月)(村田真)

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