artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2017 W.A.モーツァルト作曲 魔笛 全2幕

会期:2017/03/18~2017/03/19

神奈川県民ホール[神奈川県]

ともすれば、子どもだましで、コミカルな学芸会風の装置になりがちなこの演目に対し、闇と光、回転するリング群だけで構成された舞台美術は、驚くべきシンプルなものだが、佐東利恵子らのダンスとナレーションを増量している。おそらく正統なオペラファンには目障りかもしれないが、こうした実験がなければ、今回の演出にわざわざ勅使川原三郎を起用した意味がない。美しい舞台で、指揮や歌もよかった。

2017/03/19(日)(五十嵐太郎)

「愛しきものへ 塩谷定好 1899─1988」

会期:2017/03/06~2017/05/08

島根県立美術館[島根県]

2016年の三鷹市美術ギャラリーでの展覧会「芸術写真の時代 塩谷定好展」に続いて、島根県松江市の島根県立美術館で「愛しきものへ 塩谷定好 1899─1988」展が開催されている。同美術館に寄贈された作品を中心に、7部構成、全313点という大回顧展である。大正末から昭和初期にかけての絵画的な「芸術写真」のつくり手として、塩谷が技術だけではなく高度な創作力においても、抜群の存在であったといえる。
今回、特に印象深かったのは、一枚のプリントを仕上げるにあたっての塩谷の恐るべき集中力である。『アサヒカメラ』(1926年6月号)掲載の「月例写真第4部」で米谷紅浪が一等に選んだ《漁村》は、彼の初期の代表作のひとつだが、島根半島の沖泊で撮影された、海辺の村の集落の俯瞰構図で捉えた写真のネガから、塩谷は何枚も繰り返しプリントを焼いている。それらの写真群は、印画紙を撓めて引き伸ばす「デフォルマシオン」や油絵具(塩谷はそれに蝋燭の煤を加えていた)で加筆する「描起こし」の手法を用いることによって、彼の理想のイメージに少しずつ近づけられ、ついに10年後に傑作《村の鳥瞰》として完成する。今回の展示は、塩谷のプリント制作プロセスが明確に浮かび上がってくるように構成されており、その息遣いが伝わってくるような臨場感を覚えた。この時代のピクトリアリズム(絵画主義)的な傾向は、1930年代以降に全否定されるのだが、もう一度見直すべき魅力が備わっていることは間違いない。日本の「芸術写真」の再評価を、さらに推し進めていくべきだろう。
塩谷が生まれ育った鳥取県赤碕(現・琴浦町)には、回船問屋だった生家を改装した塩谷定好写真記念館も2014年にオープンした。その近くの大山の麓の伯耆町には、よき後輩であった植田正治の作品を展示・収蔵する植田正治写真美術館もある。山陰の風土と彼らの写真との関係についても、再考していく必要がありそうだ。

2017/03/19(日)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00038760.json s 10134194

舞台芸術創造事業 ストラヴィンスキー「兵士の物語」

会期:2017/03/18

東京文化会館[東京都]

革命や戦争で資産が奪われ、十分なメンバーを集めにくいなか、巡回公演で稼ぐことを考えてつくられた作品である。なるほど、シンプルなアンサンブルと演者陣だった。語り手に能楽師を入れ、台詞、設定、背景を日本化した演出によって、欲望をめぐる兵士と悪魔の駆け引きが描かれる。

2017/03/18(土)(五十嵐太郎)

シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異才

会期:2017/02/28~2017/05/28

国立西洋美術館[東京都]

37歳の若さで亡くなったが、シェイクスピアなど文学の世界観、異国趣味を取り入れつつ、ギュスタブ・モローほか、象徴主義に大きな影響を与えた画家である。最後のパートは、パリの会計検査院の階段室で彼が制作したものの、破壊によって失われた巨大壁画や礼拝堂壁画など、建築装飾を紹介する。

2017/03/18(土)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00038900.json s 10134677

第5回 荘内教会保育園 幼児画展

会期:2017/03/15~2017/03/19

鶴岡アートフォーラム市民ギャラリー[山形県]

山形県鶴岡市にやってきました。夜の講演の前に街の文化施設をいくつか見て回る。そのひとつがこのアートフォーラム。設計した小沢明は山形市にある東北芸術工科大学の元学長で、槇文彦アトリエの初期のお弟子さんだそうだ。といわれればぼくでもなるほどと思う。正方形を基本としたオフホワイトの建築は、築12年になるのに新品同様に美しい。でも新品同様に感じるのは建築が美しいからだけでなく、あまり使われた形跡がないからでもある。館内には大きな正方形のギャラリーが2つあるが、ひとつは「幼児画展」を開催中で、もうひとつは閉鎖中。カフェも土曜の午後4時というのに閉店だ。ギャラリーもカフェも閉じていれば人は来ないし、人が来なければ閉じてしまう。負のスパイラルではないか。ところでこの「幼児画展」、タダだから入ってみたら、0歳児、1歳児、2歳児……と年齢ごとに分けて展示しているのだが、おもしろいことに3歳児からいっせいに顔らしきかたちが表われ、5歳、6歳と年齢を重ねるごとに絵がつまらなくなる(ありきたりになる)のだ。まあそのくらいのことは本で読んだりして知ってはいたが、まさか鶴岡でこんな見事な実例が見られるとはね。このアートフォーラムのすぐ近くには、妹島和世設計の文化会館が建設中で、すでにフランク・ゲリーばりの異容が姿を現わしている。あとは中身を充実させることだな。

2017/03/18(土)(村田真)