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美術に関するレビュー/プレビュー

大エルミタージュ美術館展 オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち

会期:2017/03/18~2017/06/18

森アーツセンターギャラリー[東京都]

超一流は少ないけど、一流はけっこう来ている。ホントホルストの生々しい対作品《陽気なヴァイオリン弾き》と《陽気なリュート弾き》、メツーの意味深な《医師の訪問》、ヨルダーンスの過剰すぎる《クレオパトラの饗宴》、テニールス2世の謎めいた《厨房》、フラゴナールとジェラールのちょっとエッチな《盗まれた接吻》、廃墟おたくロベールの《運河のある建築風景》と《ドーリス式神殿の廃墟》、おなじみクラーナハの《林檎の木の下の聖母子》など、物語性があって楽しげで明晰な絵画が多い。それに、なんかずいぶん見やすいなあと思ったら、画面にガラスの張られていない作品が多いことに気づく。ざっと数えると、ガラスの張られている作品は、85点中13点だけ。8割以上はわずらわしいガラスなしで見られるのだ。エルミタージュ美術館の英断、というより窮状がしのばれる。

2017/03/17(金)(村田真)

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風と水の彫刻家 新宮晋の宇宙船

会期:2017/03/18~2017/05/07

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県三田市にアトリエを構えるベテラン作家、新宮晋(1937~)は、風や水などの自然エネルギーを受けて動く彫刻作品で国際的に知られている。彼は東京藝術大学を卒業したあとに渡ったイタリア(1960~66)で、風で動く作品の魅力に気付いたという。その後世界各国の公共空間などに約160点の作品を設置している。また、欧米の諸都市を巡る野外彫刻展「ウインドサーカス」や、作品設置を通して世界各地の少数民族と交流する「ウインドキャラバン」など、アートプロジェクトにも熱心に取り組んできた。本展では美術館をひとつの宇宙船に見立てて、18点の作品を展示している。また、過去のプロジェクトの紹介や模型の展示も行なわれた。空調の風や微弱な対流を受けて動く作品はとても優雅で、時が経つのを忘れて作品に見入ってしまう。また、館内に専用のプールを設けて設置した水で動く作品も、予測のつかない動きと光の反射が美しかった。本展の会場、兵庫県立美術館は、安藤忠雄が設計したことで知られている。その巨大な空間は時としてアーティストや学芸員を悩ませるが、本展の展示構成は本当に見事だった。安藤も喜んでいるだろう。

2017/03/17(金)(小吹隆文)

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小出麻代「うまれくるもの」

会期:2017/03/10~2017/04/09

あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]

2015年に旧公民館を活用して開館した、兵庫県尼崎市のアートセンター「あまらぶアートラボ A-Lab」。そのオープニング展「まちの中の時間」に出展した3作家、ヤマガミユキヒロ、小出麻代、田中健作には、展覧会終了後に約1年かけて同市でフィールドワークを行ない、2016~17年に順次個展を行なうことが、あらかじめプログラムされていた。本展はそのひとつである。今回小出が発表した作品はインスタレーションと言葉(詩)で、3つの部屋と廊下にそれぞれ1点ずつ展示されていた。素材は、印刷物、紙、サイアノタイプ(青写真)、照明、鏡、シリコン製の家型オブジェなどである。本展の印象を一言で述べると「残響のよう」であった。空間に素材としての物質はあるものの、それらの存在感は控えめで、むしろ純化されたエッセンスが充満しているように感じられたからだ。もともと小出はポエティックな表現を得意としている、今回もその資質が十分に発揮されたと言えるだろう。美しい音楽や詩を聞いたあとのような、繊細な余韻に浸れる展覧会だった。

2017/03/17(金)(小吹隆文)

シャセリオー展 19世紀フランス・ロマン主義の異才

会期:2017/02/28~2017/05/28

国立西洋美術館[東京都]

西洋美術館はある時代のトップではなく、2番手3番手に焦点を当てるのがうまい。クロード・ロランがそうだったし、ラ・トゥールもホドラーもクラーナハもそうだ。シャセリオーもまさに2番手3番手の代表格(?)。彼の絵をひとことで形容するなら、新古典主義とロマン主義と象徴主義を足して3で割ったような。も少し近づいていうと、新古典主義やロマン主義からは2歩遅れ、象徴主義からは1歩先んじていたような。彼はアングル門下で古典主義を学び、ロマン主義に転じたものの、わずか37歳で死去。ラファエロ、カラヴァッジョ、ゴッホ、モディリアーニらと同じく早逝の画家だ。おもしろいのは、なんかギュスターヴ・モローに似た絵があるなと思ったら、その隣に本物のモロー作品があったりして、シャセリオーがモローに似ているのではなく、モローがシャセリオーに似ていることがわかるのだ。もう少し長生きしたら、さらにどのような展開が待っていただろう。

2017/03/16(木)(村田真)

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日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念 スケーエン:デンマークの芸術家村

会期:2017/02/10~2017/05/28

国立西洋美術館[東京都]

Skagenと書いて「スケーエン」と読むそうだ。デンマークの北部にある漁村で、ここに19世紀末から20世紀初頭にかけて画家や詩人、作曲家が集まり、国際的な芸術家村として知られたという。そのスケーエンに集った画家たちによる59点の作品が紹介されている。ま、はっきりいってド田舎だけに、農村リアリズムっていうんでしょうか、ジュール・ブルトンやバスティアン・ルパージュ風の写実的な風景画ばかり。しかも北方に位置するため光を渇望するせいか、白を多用するのが特徴だ。さわやかだけど、それだけ。だいたいヨーロッパもアメリカも日本も、時代を問わず、田舎に行くほどリアリズムが尊ばれるのはなぜだろう。なにか普遍的な法則があるのかもしれない。

2017/03/16(木)(村田真)

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