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美術に関するレビュー/プレビュー

VOCA展2017 現代美術の展望─新しい平面の作家たち

会期:2017/03/11~2017/03/30

上野の森美術館[東京都]

絵画中心の展覧会だが、今回は絵画からちょっと外れた作品に見るべきものが多かった。例えば益永梢子は、平坦に彩色したキャンバスを切り取って丸めて6個の透明のアクリルボックスに詰め込み、アクリルの表面にも彩色したりドローイングしたりしている。絵画の断片の集積であると同時に、それ自体が絵画としても成立している。東畠孝子は壁に木材を組んで棚をつくり、そこに本(古本、画集、アルバム、楽譜など)を並べ、観客が自由に手にとって読めるようにした。これも1冊1冊の本が平面の積み重ねであると同時に、本棚全体がひとつの絵画として見られるのだ。
写真を使った作品では、加納俊輔、Nerhol、村上華子の試みが、いずれも既知のシリーズではあるけれど斬新だ。特にNerholの作品は、連続撮影した200枚のポートレートを重ねてカッターで彫り込んだ6点セット。写されたモデルは同一人物なのに、それぞれ表情が異なって見えるだけでなく、そこには(撮影)時間の推移も刻まれている。また、これも平面の集積であると同時に、レリーフ作品としても捉えることができる。今回いちばん感心したのは、ごちゃごちゃした猥雑な都市風景を白黒で描き、一部分をくりぬいてそこからカラー映像を見せた照沼敦朗の作品だ。描写の密度といい、孤高の世界観といい、ずば抜けている。これに比べれば、VOCA賞の幸田千衣の「風景画」は薄い。どうしたんだろう。テーマ自体が絵具を塗る行為と共振しているように感じられた以前の「水浴図」と比べても、退行してないか。

2017/03/16(木)(村田真)

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金氏徹平展 記号は記号ではない

会期:2017/03/11~2017/03/30

上野の森美術館ギャラリー[東京都]

10年前に「VOCA展」に出品した金氏の個展。VOCA賞や奨励賞など、これまで20年余りで100人以上が受賞しているが、受賞しながら消えていった作家もいれば、金氏のように受賞しなかったけど伸びた作家もいる。そもそも「VOCA展」に一度も推薦されずに売れっ子になった作家も多いはず。今度それを検証してみたらどうだろう? 選考委員(推薦委員も)がいかに慧眼か、または節穴かがわかるはず(あ、だから検証しないのか)。余談はさておき。金氏はいくつかの作品を出しているが、なかでも目を引いたのは、色のついた液体が滴る画像を板に貼り、輪郭に沿ってカットしたものを組み合わせた作品。この液体のイメージは絵具を思わせ、それがいくつも組み合わさることで絵画を表わしているのかもしれない。床置きの立体もあれば壁掛けのレリーフもあり、2次元のイメージと3次元の物体を錯綜するトリッキーな効果を生み出している。リキテンスタイン風のユーモアとアイロニーが効いている。

2017/03/16(木)(村田真)

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野村浩「Doppelopment」

会期:2017/03/11~2017/04/22

POETIC SCAPE[東京都]

次々に新しいアイディアを思いついて、観客を楽しませてくれる野村浩。今回、東京・目黒のPOETIC SCAPEで開催された新作展でも、ユニークなシリーズを発表した。
一見、女の子たちを撮影した普通のスナップ写真なのだが、よく見ると、女の子の顔かたちや服装が同じなので双子なのだということがわかる。でも、どこか違和感がある。写真を見ているうちに、じわじわと野村の意図が呑み込めてくる。このシリーズは、一人の女の子を、少し場所をずらして撮影した画像を合成した「偽スナップショット」なのだ。じつは、野村は二卵性の双子の片われなのだという。今回の作品が、その出自から発想されたものであることは間違いないが、それにしてもうまくできている。自宅だけでなく、近所の公園、運動会、お祭りなどで撮影されているのだが、それらの場所とタイミングの設定が絶妙なのだ。スナップショットの撮り手としての能力がよほど高くないと、なかなかこれだけのクオリティを備えた写真を揃えるのはむずかしいのではないだろうか。見ていて、牛腸茂雄の『SELF AND OTHERS』(1977)のなかの、あの印象深い双子の女の子たちの写真を思い出した。むろん、そのあたりも充分に計算済みのはずだ。
タイトルの「Doppelopment」というのは野村の造語で、自分の分身を見る幻覚=「Doppelgänger」と、写真の現像を意味する「Development」を組み合わせている。このあたりのネーミングのセンスのよさも野村ならではだ。なお、展覧会にあわせて、写真集『Doppelopment Hana & Nana / Another daughter in the photos』(プリント付きの限定20部特別エディションあり)も刊行された。

2017/03/16(木)(飯沢耕太郎)

アート+コム/ライゾマティクスリサーチ 光と動きの「ポエティクス/ストラクチャー」

会期:2017/01/14~2017/03/20

NTTインターコミュニケーション・センター[ICC][東京都]

メカニカルな光のダンスが楽しめる。吉岡徳仁がマテリアルの自然/性質を引き出すのに対し、タイトルどおりの内容であり、デジタル技術を用いた光の表現の現在を示す。かといって、オラファー・エリアソンのような科学アートとも違う。

2017/03/15(水)(五十嵐太郎)

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草間彌生 わが永遠の魂

会期:2017/02/22~2017/05/22

国立新美術館[東京都]

初期から制作意欲が衰えない現在までを一気に見せる。さすがにほとんどの作品は知っているので、過去のインスタレーションによる展示を再現した空間がよかった。彼女の基本的なスタンスは変わらないが、初期の日本美術特有の暗さが、ある時期から吹っ切れて、明るくなったことにより、世界的な作家に飛躍したことがわかる。

2017/03/15(水)(五十嵐太郎)

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