artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

DAN FLAVIN

会期:2017/02/01~2017/09/03

エスパス ルイ・ヴィトン 東京[東京都]

ダン・フレイヴィンの作品をこういう場所で見られるなんて想像もしなかったな。フレイヴィンは60年代から蛍光灯を使ったシンプルな作品で知られるミニマリズムのアーティスト。作品は、長さの異なる7、8本の白色蛍光灯を左右対称に並べた《V・タトリンのための“モニュメント”》4点を中心とする計7点。この《V・タトリンのための“モニュメント"》は、きわめてシンプルな構成ながら、その形状からビルや樹木や人間や、十字架さえも想起させずにはおかない。これは偶然だろうが、窓の外を見ると、ビルも木も人も、あまつさえ教会の十字架も目に入ってくるのだ。この内と外、現実とアートとの交感はじつに快い。
ところで、こんな場所で見られるとは思わなかったと最初に述べた理由は2つあって、ひとつはこんな「オシャレ」な場所でという意味。余分なものを排除したミニマルアートと、ファッションブランドのルイ・ヴィトン社が頭のなかで結びつかなかったのだ。でもそれを結びつけたのは、単なる蛍光灯をアート作品として認めて購入したLV財団の慧眼にほかならない。もうひとつは、この展示空間が南向きに大きく窓の開けたつくりになっているので、壁にとりつける発光作品など見るに耐えないのではないかと思ったからだ。たしかに使いにくそうではあるけれど、大きな仮設壁2面を設けて昼間でも見やすい展示になっている。これが夜間ならもっと見栄えがするに違いない。日が暮れてからもういちど行ってみたくなった。

2017/03/02(木)(村田真)

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ワンダーシード2017

会期:2017/02/25~2017/03/26

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

若手作家による10号以内の小品を5万円以下で販売する展覧会。小池都政になってからいつまで続くかわからないけれど、こういう芸術支援策は続けていってもらいたいものだ。とはいえ、石から玉を探す(磨く)のは至難の業だけどね。今回も玉はわずかながらもあったけど、例えば池上怜子、津川奈菜、濱口綾乃、浜口麻里奈はすでに卒展かどこかで見たことがある。新しい才能なんて毎年そんなに大量発生するわけじゃない。だからおもしろい。

2017/03/02(木)(村田真)

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Tranquility─静謐─

会期:2017/03/10~2017/03/26

六本木ヒルズ A/Dギャラリー[東京都]

ガラスの松宮硝子、木彫の平山紗代、ドローイングの勢藤明紗子、切り絵の悠という4人展。と書くと共通性のない4人に聞こえるが、実物を見ると一目瞭然、みんなじつに繊細な仕事をしているのだ。特に松宮はガラスを面でも固まりでもなく、線のように扱って立体化し、勢藤はこれ以上ないくらい超極細ペンで装飾模様を展開している。もう見ていてハラハラするほど繊細きわまれり。

2017/03/02(木)(村田真)

佐伯慎亮『リバーサイド』

発行所:赤々舎

発行日:2016/12/08

佐伯慎亮(しんりょう)は1979年、広島県生まれ。2001年に第23回キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞した。最初の写真集『挨拶』(赤々舎)を刊行したのは2009年だから、本作はほぼ7年ぶりの新作写真集ということになる。
切れ味の鋭い日常スナップという点においては前作と変わりがないのだが、そのあいだに結婚して3人の子供ができ、奈良に移り住み、近親者の死などの経験を重ねたことで、写真に深さと凄みが増してきた。もともと、彼の写真は「呼び込む」力が強いのだが、この写真集を見ると、まさにありえないような場面が写り込んでいる写真が異様に多い。例えばラストの写真、子供が崖の上の岩場のような場所に立っていて、その横に奇妙な顔のような形の白い石がある。石の頭の部分に手の影が映っているのだが、その手が誰のものなのか、なぜそこに写っているのか、どうも釈然としないのだ。そのような、奇跡としか思えない瞬間が写真集のあちこちに散在している。このような写真は、単純に神経を研ぎ澄まし技術を磨いたところで、そう簡単に撮ることができるものではない。佐伯は、たしか若い頃に真言宗の僧侶の修行をしていたはずだが、その時に身につけた感知力、認識力が、写真家の営みとして開花しつつある。
とはいえ、写真集を全体として見れば、オカルト的な歪みや捻れなど微塵も感じさせない、気持ちのいい、穏やかな雰囲気の写真が並んでいる。大竹昭子が写真集の帯に寄せた文章で「恩寵」という言葉を使っているが、たしかにそんな宗教的な気分もないわけではない。佐伯は確実に、現実世界を独特の視点から切りとる業を身につけつつある。

2017/03/02(木)(飯沢耕太郎)

草野庸子「EVERYTHING IS TEMPORARY」

会期:2017/03/01~2017/03/13

QUIET NOISE arts and break[東京都]

草野庸子は1993年、福島県生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、2015年に第37回キヤノン写真新世紀で優秀賞(佐内正史選)を受賞している。今回の個展は写真集『EVERYTHING IS TEMPORARY(すべてが一時的なものです)』(Pull the Wool)の刊行に合わせてのもので、カフェ・ギャラリーの壁面に大小の写真を撒き散らすように展示していた。
このところ、若い写真家たちが、フィルム使用のアナログカメラの写真を発表することが多くなってきている。デジタルカメラとともに育った彼らにとって、アナログのノイズの多いプリントが逆に新鮮に見えるのだろう。くっきりと、シャープに事物を捉えるよりも、コンパクトカメラや「写ルンです」の、ややふらつき気味のフレーミングのほうが、「せつなさ」や「はかなさ」を定着するのに向いているように思えるのかもしれない。草野の写真にも、まさに「EVERYTHING IS TEMPORARY」という感情が、過不足なく写り込んでいる。白木の枠で壁面を囲って、その中に写真を並べたり、モノクロームとカラーの写真を併置したりするなど、作品のインスタレーションにも工夫が凝らされていた。
ただ、このままだと、「日々の泡」をすくい取っただけのありがちな写真で終わりそうだ。展示作品には花の写真が目につく。ジョエル・マイヤーウィッツの『ワイルド・フラワーズ』(1983)のように、日常の場面で花の姿を目にすると、かなり意識的にシャッターを切っているように見える。そのあたりに焦点を絞って作品化することも考えられるだろう。何を伝えたいのかをより明確に研ぎ澄ますとともに、意欲的に表現の領域を拡張していってほしい。

2017/03/02(木)(飯沢耕太郎)