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美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:國府理 「水中エンジン」再始動!!!

会期:2017/04/01

京都造形芸術大学 ULTRA FACTORY[京都府]

2014年に急逝した國府理の《水中エンジン》(2012)は、國府自身が愛用していた軽トラックのエンジンを剥き出しにして巨大な水槽の中に沈め、稼働させるという作品である。動力源となる心臓部が、水槽を満たす水によって冷却されて制御されつつ、部品の劣化や浸水など頻発するトラブルの度に一時停止とメンテナンスを施されて稼働し続ける不安定で脆い姿は、原発に対する優れたメタファーである。何本ものチューブや電気コードを接続され、放熱が生む水流の揺らぎと無数の泡のなか、不気味な振動音を立てて蠢くエンジンは、培養液の中で管理される人造の臓器のようだ。エンジンから「走る」という本来の機能を奪うことで、機能不全に陥ったテクノロジー批判を可視化して行なうとともに、異物的な美をも提示する作品であると言える。
國府の創作上においても、「震災後のアート」という位相においても重要なこの作品は現在、インディペンデント・キュレーターの遠藤水城が企画する再制作プロジェクトにおいて、國府と関わりの深い技術者やエンジン専門のエンジニアらの協力を得ながら、再制作が進められている。解体され、オリジナルの部品が失われた《水中エンジン》を再制作し、再び動態の姿での展示が予定されている。國府自身が悩み手こずった作品を、残された記録写真や映像、展示に関わった関係者の記憶を頼りに再現する、非常に困難な作業だ。4月1日には、再制作の作業現場である京都造形芸術大学内のULTRA FACTORYにて、一般公開とトークが予定されている(15~17時、要予約)。
その後は、「裏声で歌へ」展への出品(小山市立車屋美術館、4月8日~6月18日)、オリジナルが発表された京都のアートスペース虹での展示「國府理 水中エンジン redux 」(7月4日~7月30日)と展開していく。一連の展示やトークイベントを通して、再制作という営為とオリジナルの関係性、不完全さや危険性を内包した作品の動態的なあり方が提起する「自律性」への問い、國府作品の再検証、原発への批評性など、複数のトピックを提起する機会となるだろう。まずは、《水中エンジン》が再び動き出す日を楽しみに待ちたい。


《水中エンジン》再制作の作業の様子


公式サイト:https://engineinthewater.tumblr.com/

2017/02/27(月)(高嶋慈)

プレビュー:裏声で歌へ

会期:2017/04/08~2017/06/18

小山市立車屋美術館[栃木県]

今号のプレビューでも取り上げた、國府理「水中エンジン」再制作プロジェクトの一環であり、同プロジェクトの企画者である遠藤水城がキュレーションするグループ展。時代の「音」、「声」をテーマに、再制作版の國府理《水中エンジン》のほか、大和田俊、五月女哲平、本山ゆかりの3名の現代美術作家による新作、美術館の最寄りの中学校の合唱コンクールの映像、富士山や戦闘機などが描かれ、日清、日露、太平洋戦争など時代を映し出す「戦争柄の着物」が出品される。昨秋、「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2016」において、地域の案山子巡りと同居する形で開催された展覧会「人の集い」に続く、遠藤による連続展覧会「日本シリーズ」の第二弾となっている。現代美術作品に加え、地元中学校の合唱コンクール、戦争柄の着物という資料を並置することで、それぞれの人の営みのなかからどのような視座が浮上するだろうか。

2017/02/27(月)(高嶋慈)

ルノワール展

会期:2017/01/14~2017/04/16

宮城県美術館[宮城県]

昨年、国立新美や名古屋ボストン美術館で見たものと違う別企画だった。第1回印象派展のバレリーナ、古典風、読書する女、周囲の風景と融合する裸婦像ほか、多幸感あふれる女性像を数多く紹介する。また宮城県美のコレクション展示では、東北の画家、勝平得之と小関きみ子を特集する。前者は竹久夢二に触発され、秋田を拠点に素朴な風俗版画を描き、後者は上京して大作の日本画を描くもキリスト教信者として清貧生活を送る。いかにも「東北らしい」作家だ。常設の最後はいつもの独墺作家、シーレ、ココシュカ、ペヒシュタイン他であり、このテーマの充実したコレクションぶりをうかがわせる。

2017/02/26(日)(五十嵐太郎)

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TWS-NEXT @tobikan 「クウキのおもさ」

会期:2017/02/18~2017/03/05

東京都美術館ギャラリーB[東京都]

トーキョーワンダーサイト(TWS)の展覧会やレジデンス・プログラムに参加したアーティストから、青木真莉子、伊藤久也、友政麻理子の3人を選抜した企画展。青木は中央に壇を設けて3面のスクリーンを立て、映像を流しているが、なんか見る気しないなあ。食いつきにくいというか、すっと入っていけないんでね。伊藤は弟の死をきっかけに始めたという人体彫刻を、野原や渋谷の交差点、雪道などさまざまな場所に置いて作者とともに撮影。それらの2ショット写真を壁に並べ、向き合うように実物の彫刻を対置させている。これは明快。友政は床に椅子や机、ブルーシート、ほうき、タライなどを散乱させ、壁に映像を何本か流している。《お父さんと食事》シリーズは、松本やブルキナファソなどさまざまな場所でテキトーなオヤジを見つけ、食事しながら会話する様子を撮ったもの。《あれは、私の父です》は、そこらにあるものを「父」だと言い張るビデオ。どれも1時間前後あるので見てないが、見ないでもおもしろい。これが「食いつき」のいい作品。

2017/02/26(日)(村田真)

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東北芸術工科大学卒業・修了展[東京展]

会期:2017/02/23~2017/02/27

東京都美術館[東京都]

数千いや数万匹の蚊をほぼ原寸大で描写した萩原和奈可の《ユスリカの光》、半円筒状の画面にヘビの抜け殻だけをデカデカと描いた横濱明乃の《呼吸する刻》、高橋由一と東北芸工大の接点を探る久松知子の《三島通庸と語る》、同じく久松知子の《藝術界隈のつくり方》、幅6メートルはありそうな画面いっぱいにバブリーな金魚みたいな泡を描いた小野木亜美の《Babble─想像のはじまり》、料理の絵を20枚の小さな画面にアップで描いてコメントをつけた立石涼子の《すずこバイキング》がすばらしかった。ちなみに最初の3人は日本画専攻の大学院生。

2017/02/26(日)(村田真)