artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

星野高志郎 百過事展─記録と記憶─

会期:2016/09/13~2016/09/25

Lumen gallery、galleryMain[京都府]

本展会期中に73歳の誕生日を迎えたベテラン作家の星野高志郎。これまでの活動を振り返る回顧展を、隣接する2つのギャラリーで開催した。作品は彼が活動を開始した1970年代から最近作までのセレクトで構成され、学生時代の石膏像なども含まれていた。そして作品以上に充実していたのが資料類で、ポスター、DM、印刷物、写真、映像、記事が載った新聞や雑誌、メモ、ドローイングなど多岐にわたる。さらに私物が加わることにより、会場は1日では見尽くせないほどの物量と混沌とした雰囲気に。美術家の回顧展であるのと同時に、一個人の年代記でもある風変わりな仕上がりであった。筆者はこれまでに星野の個展を何度も見てきたが、彼がこれほどの記録魔だとは知らなかった。資料のなかには貴重なものが含まれており、作品では1974年に富士ゼロックスのコピー機を用いて制作した《ANIMATION?》などレア物も。美術館学芸員や研究者が見たら、きっと大いにそそられたであろう。

2016/09/13(火)(小吹隆文)

第6回公募 新鋭作家展二次審査(プレゼンテーション展示公開)

会期:2016/09/06~2016/09/19

川口市立アートギャラリー・アトリア[埼玉県]

来年の「新鋭作家展」に向けた公募の第2次審査で、1次審査通過者8組(2人の辞退者を除く)によるプレゼンテーション展示を一般公開している。ストリートアートみたいにテンポラリーなフレスコ画を目指す河田知志、日常品をセメントで固めて鋳型をつくって並べる大場さやか、自分を他人に演じさせながら本人と対話する藤井龍、世界地図を立体的につくって水没させる熊野陽平などどれも力作ぞろい。でもこの「新鋭作家展」、いい作品をつくればおしまいというのではなく、市民とともに展覧会をつくりあげていくことを目標とする注文の多い公募展なので、市民が介入する余地のあるプランを選んだ。入選したのは、川口の夜のネオンを背景に影絵をつくって撮影する佐藤史治+原口寛子、新聞紙を鉛筆で塗りつぶし星雲を浮かび上がらせる金沢寿美の2組。これから1年かけて市民も交えて作品=展覧会をつくっていくというから、アーティストもキュレーターも楽じゃない。

2016/09/12(月)(村田真)

「imagine」展ほか

会期:2016/04/23~2016/09/19

ペギーグッゲンハイム美術館[イタリア、ヴェネチア]

ペギーグッゲンハイム美術館の「imagine」展はイタリアの1960年代美術を紹介する。ファビオ・マウリ、ロ・サビオ、ピストレットの過去作を学ぶ。続いて、パラッツォ・ベンボのビエンナーレ関連展示へ。アイゼンマン、日本建築設計学会・西尾圭悟のキュレーションによる10の日本現代住宅展、高崎正治などを鑑賞する。

写真:左・右上=「imagine」展 右下=パラッツォ・ベンボのビエンナーレ関連展示

2016/09/12(月)(五十嵐太郎)

ACCROCHAGE

会期:2016/04/17~2016/11/20

Punta della Dogana[イタリア、ヴェネチア]

プンタ・デラ・ドガーナ「ACCROCHAGE」展へ。シュプレマティスムを下敷きとしたソル・ルウィットの図と地の反転による巨大な黒い円や三角など、全体的に幾何学的作品が多く楽しめたが、最後に見たピエール・ユイグの「ヒューマンマスク」が衝撃の映像だった。お面・鬘・洋服で女装した猿が、被災地の福島の廃屋で佇む作品である。これを見て笑っている西洋人もいたのだが、なんとも居心地の悪さを感じさせる内容だった。

2016/09/12(月)(五十嵐太郎)

メアリー・カサット 展

会期:2016/06/25~2016/09/11

横浜美術館[神奈川県]

オープニングに行くつもりだったのがズルズル延びて、とうとう最終日の9.11になってしまった。メアリー・カサットといえばベルト・モリゾ、エヴァ・ゴンザレスと並ぶ印象派の女性画家のひとり。3人だけって少ないようだけど、でも19世紀としては多いほうでしょう。20世紀に入っても、フォーヴィスムやキュビスムの女性画家ってだれかいた? ほとんど思いつかない。ってことは印象派と女性画家は比較的相性がよかったのかもしれない。たしかに血みどろの物語画を構築するより身近な日常的主題を印象的に描くほうが、当時の女性画家には合っていたはず。なかでも彼女らにとって重要な主題になるのが子供および母子だ。もちろんそれまでにも子供や母子は描かれてきたけれども、例えば《眠たい子どもを沐浴させる母親》や《母の愛撫》は、伝統的な聖母子像とはまったく違う親密感が漂いまくっていて、むせるほど。その一方、女性像にも変化が見られる。これは解説にも書かれているが、代表作のひとつ《桟敷席にて》では、それまで「見られる」存在だった女性が、ここではオペラグラスで「見る」存在に転換している。でもその向こうの席からハゲおやじが女性を見ている様子も描かれていて、いまだ「見られる」存在であることも示唆している。このハゲおやじが旧約聖書における裸のスザンナをのぞき見た長老ってわけだ。意味合いは大きく変わっても、構図は伝統的な宗教画を踏襲していることがわかる。カサットはアメリカ生まれで、パリに出て画家修業をし、印象派展に参加。しかし作品の大半はアメリカの美術館の所蔵で、フランスの美術館からの出品は花瓶1点を除いて皆無。母国アメリカが買い占めたのか、それとも本場フランスでの評価が低かったのか。

2016/09/11(日)(村田真)

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