artscapeレビュー
メアリー・カサット 展
2016年10月15日号
会期:2016/06/25~2016/09/11
横浜美術館[神奈川県]
オープニングに行くつもりだったのがズルズル延びて、とうとう最終日の9.11になってしまった。メアリー・カサットといえばベルト・モリゾ、エヴァ・ゴンザレスと並ぶ印象派の女性画家のひとり。3人だけって少ないようだけど、でも19世紀としては多いほうでしょう。20世紀に入っても、フォーヴィスムやキュビスムの女性画家ってだれかいた? ほとんど思いつかない。ってことは印象派と女性画家は比較的相性がよかったのかもしれない。たしかに血みどろの物語画を構築するより身近な日常的主題を印象的に描くほうが、当時の女性画家には合っていたはず。なかでも彼女らにとって重要な主題になるのが子供および母子だ。もちろんそれまでにも子供や母子は描かれてきたけれども、例えば《眠たい子どもを沐浴させる母親》や《母の愛撫》は、伝統的な聖母子像とはまったく違う親密感が漂いまくっていて、むせるほど。その一方、女性像にも変化が見られる。これは解説にも書かれているが、代表作のひとつ《桟敷席にて》では、それまで「見られる」存在だった女性が、ここではオペラグラスで「見る」存在に転換している。でもその向こうの席からハゲおやじが女性を見ている様子も描かれていて、いまだ「見られる」存在であることも示唆している。このハゲおやじが旧約聖書における裸のスザンナをのぞき見た長老ってわけだ。意味合いは大きく変わっても、構図は伝統的な宗教画を踏襲していることがわかる。カサットはアメリカ生まれで、パリに出て画家修業をし、印象派展に参加。しかし作品の大半はアメリカの美術館の所蔵で、フランスの美術館からの出品は花瓶1点を除いて皆無。母国アメリカが買い占めたのか、それとも本場フランスでの評価が低かったのか。
2016/09/11(日)(村田真)