artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

佐々木真士展──大河のうた──

会期:2016/01/26~2016/01/31

ギャラリー恵風[京都府]

大学卒業と同時にインドを旅し、同地の厳しい自然環境とそこで暮らす人々の悲喜こもごもに魅了された佐々木真士。以来、彼は約2年に一度のペースでインドに出かけ、同地を題材にした作品を描き続けている。現地では徹底的に写生にこだわり、幾日も同じ場所に座って描き続けるという。その姿に興味を抱き、声をかけ食事に誘う現地人もいるのだとか。写真を元に制作する作家が多くなった昨今、彼のスタイルはオールドファッションとも言える。実際、佐々木の作風は線描を基本とする正攻法の日本画だ。しかし、五感から得た感興を画面に描ききっているため、作品にはエキゾチシズムを超えた説得力がみなぎっている。これまでの作風は俯瞰の視点と色味を抑えた壮麗さが特徴だったが、新作では人物や群衆を近距離の視点で描き、鮮烈な色彩美を前面に押し出すようになった。この変化が今後どのように昇華されていくのか注目したい。

2016/01/26(火)(小吹隆文)

奥山由之「BACON ICE CREAM」

会期:2016/01/22~2016/02/07

パルコミュージアム[東京都]

奥山由之は1991年東京生まれ。2011年の第34回写真新世紀で優秀賞を受賞し、広告、ファッションの分野で最も若い世代の写真家の一人として注目を集めつつある。今回のパルコミュージアムでの個展「BACON ICE CREAM」は、本格的なデビュー写真展であり、展覧会にあわせて同名の写真集(PARCO出版)も刊行された。
「この世界の色、かたち、光ぜんぶ。」を、軽やかに採集し、まき散らしていく写真群にはまったく迷いがなく、ポジティブなエネルギーが溢れ出ている。途中に冷蔵庫の扉を設置して、そこから次のパートに進んでいく会場インスタレーションや、写真のプリントを何枚か重ねあわせてクリップ止めした展示のアイディアなども、なかなか気が利いている。彼が業界で重宝がられる理由もよくわかる気がした。
ただ、写真そのものにはどこか既視感がつきまとう。あえて銀塩カラー写真の柔らかみのある手触り感を強調していることもあって、デジタル世代の割にはノスタルジックな雰囲気が漂っている。ストップモーションで被写体を止める手法や、ハレーションの表現が、どこかHIROMIXを思わせるところがあると思ったら、なんとHIROMIX本人が写真新世紀で優秀賞に選んでいた。1990年代にHIROMIXや蜷川実花が打ち出していった、現実世界との親和性、幸福感を基調とする写真表現が、意外なかたちでより若い世代に受け継がれているということだろうか。才能の輝きは疑い得ないので、次はさらなる大胆なチャレンジを期待したいものだ。

2016/01/26(火)(飯沢耕太郎)

阿部淳『1981』(上・下)

発行所:VACUUME PRESS

発行日:2015/12/31

阿部淳、野口靖子、山田省吾が共同運営する大阪の出版社、VACUUME PRESSから刊行されてきた阿部淳の写真集も、これで8冊目と9冊目になる。今回は阿部が大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校・大阪)を卒業した年である1981年に撮影した写真群を、2冊組の写真集にまとめて刊行した。
阿部は専門学校在学中から現在に至る路上のスナップ写真を撮影し続けているのだが、そのあり方がこの時期からほとんど変わっていないことを、あらためて確認できた。被写体になっているのは大阪の街の雑然としたたたずまいと、そこを行き交う人物たち、そこここに溢れ出し、増殖するモノの群れなのだが、阿部が鋭敏に反応しているのは、むしろそれらのあいだに漂う不穏な気配なのではないかと思う。建物やヒト(ゴーストのようだ)やモノは、固定した意味づけから遊離して、何か訳のわからない異物と化し、光と闇のあわいを漂いはじめる。川田喜久治の路上の写真にも同じような感触があるが、阿部のほうがより重力を脱した浮遊性が強いのではないかと思う。
阿部はこのところ、『2001』(2013)、『プサン』(2014)と、過去に撮影した写真群を再プリントして写真集として刊行し続けている。撮影時から時間を経て、写真を見る目が変化し、あらためて新たな気づきがあるという意味で面白い試みだと思う。ただ、そろそろ新作が出てきてもいい時期ではないだろうか。旧作と新作を対比させて提示するというのも面白いかもしれない。

2016/01/26(火)(飯沢耕太郎)

メンヘラ展 Dream

会期:2016/01/20~2016/02/03

TAVギャラリー[東京都]

初めて訪れる阿佐ヶ谷のギャラリー。1階の店舗を利用したものだが、ガラス窓もそのままで、あまりギャラリーっぽく改装してないため作品展示は難しそう。逆に開放的なので入りやすいという利点もある。今回は2014年から継続的に開いてきた「メンヘラ展」の6回目。メンヘラってメンタルヘルスの略語に「er」をつけた造語だそうで、精神的に病んでる人のことらしい。知らなかった。中心になってるのは自身もメンヘラで東京藝大生の、あおいうに。彼女によれば「メンヘラに『夢を与える』、メンヘラが『夢を与える』という意味付けで、『メンヘラ展Dream』と名付けました」。出品はあおいのほか、あさか、あろ沢、廃寺ゆう子ら、名前からしてフツーじゃない。いずれも双極性障害や抑鬱、強迫性障害などを抱えているという。作品はいわゆるアウトサイダー・アート的な逸脱が見受けられるが、一方で作品としてしっかり見せようとしている人が多く、アートとしての意識は高い。

2016/01/25(月)(村田真)

森山大道写真展

会期:2016/01/23~2016/02/20

東京芸術劇場5階ギャラリー1[東京都]

AMでの「DAIDO IN COLOR」展の余韻がまだ冷めないうちに、東京・池袋の東京芸術劇場5階ギャラリー1で「森山大道写真展」が始まった。2月6日~6月5日にはパリのカルティエ現代美術財団で、近作による「DAIDO TOKYO 」展が開催予定で、このところの森山の展示活動には加速がついてきたようだ。
本展は「光と影」、「網目の世界」、「通過者の視線」の3部構成で、それぞれ特徴がある三つのシリーズを組み合わせて森山の作品世界を再構築している。1982年の写真集『光と影』(冬樹社)の掲載作30点を並べた「光と影」は、オーソドックスな回顧展の趣だが、「網目の世界」のパートでは初期の「ニューヨーク」や「アクシデント」などのシリーズからピックアップした作品18点を、シルクスクリーンで大きく引き伸してプリントし、壁紙状に反覆された目のイメージの上に重ねて展示している。「通過者の視線」のパートは2009~2015年に池袋や新宿の路上で撮影された新作をインクジェット・プリントで出力して、グリッド状に構成しており、森山のカラー写真の表現の、現時点での到達点を見ることができた。
以前の森山は、どちらかというと写真集の刊行を目標、あるいは区切りとして作品を発表していたのだが、このような展示を見ると、その意識が展覧会のほうにややシフトしてきているように思える。会場のレイアウトにあわせて、写真の数や並べ方を自在にコントロールすることで、観客を巻き込んでいくようなヴィヴィッドな展示空間を実現している。ただ、これだけ展覧会が続くと、作品を前にして新鮮な衝撃を感じるのはむずかしくなってくるだろう。写真集と写真展を両輪としつつ、新たな発表の形式を模索していく時期に来ているのかもしれない。

2016/01/25(月)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00034076.json s 10119470