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美術に関するレビュー/プレビュー

CCC展覧会企画公募 NCC2016 第8回入賞展覧会企画 新宅睦仁「コンビニ弁当の山」、大門光「ガンマ」

会期:2016/01/12~2016/02/13

静岡市クリエーター支援センター[静岡県]

静岡へ。しりあがり寿、小崎哲哉とともに審査を担当したCCCのニュークリエイターズコンペ2016の企画コンペで選ばれた作家の展覧会を見る。まず新宅睦仁は、コンビニで大量廃棄される弁当を積んだ富士山の大きな絵と酒の水面により、儀式的な空間を演出する。ただ、絵にもっと迫力が欲しかった。もうひとつが大門光による「ガンマ」展。マンガの絵と言葉の文法を解体しながら、世界を変えていく試みだ。奥に進むにつれて、だんだん絵画が崩れていくようなインスタレーションとして興味深い。絵の支持体の扱い、色などもユニークである。ただ、理論的、手法的な探求としては、まだこの先があるように思う。

写真:上=新宅睦仁、下=大門光

2016/01/16(土)(五十嵐太郎)

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鎌倉からはじまった。1951-2016 PART3:1951-1965「鎌倉近代美術館」誕生

会期:2016/10/17~2016/01/31

神奈川県立近代美術館鎌倉[神奈川県]

鎌倉館最後の企画展「鎌倉からはじまった。1951-2016」のいよいよ最終回。開館した1951年から65年までに開かれた展覧会の出品作品から、萬鉄五郎《日傘の裸婦》、古賀春江《窓外の化粧》、松本竣介《立てる像》、麻生三郎《自画像》など100点近い絵画、彫刻を選んで公開している。今日はクロージングパーティーがあるので中庭はすごい人だかり。考えてみれば、現館長の水沢勉さんが生まれたとき(1952年)すでに美術館はあったのだから驚きだ。いや、これは驚くべきことだろうか。ヨーロッパでは開館100年、200年の美術館なんてザラにあるから珍しくもないが、近代美術館としてはやはり驚いていいかもしれない。なにしろニューヨーク、パリに次ぐ世界で3番目の近代美術館なのだから。でもそれより驚くべきは、この65年間で歴代館長は7人、学芸職は館長も含めてのべ31人しかいなかったこと。こんなに少数精鋭で安定した美術館はほかにないんじゃないか。

2016/01/16(土)(村田真)

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ボッティチェリ展

会期:2016/01/16~2016/04/03

東京都美術館[東京都]

彼の師フィリッポ・リッピ、彼の弟子にしてライバルになったフィリッピーノも併せて紹介し、海外から多くの作品を集めている。ただ、ボッティチェリの描く顔はひときわ優美で、比べると違いが明快だ。ベタだが、愛される顔を描けることは重要なのだ。

2016/01/15(金)(五十嵐太郎)

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ボッティチェリ展

会期:2016/01/16~2016/04/03

東京都美術館[東京都]

去年Bunkamuraで「ボッティチェリとルネサンス展」をやったばかりなのに、またかよ。でも去年の展覧会がボッティチェリの紹介より、画家の活躍を支えていたフィレンツェという都市の経済や文化の紹介に重きを置いていたのに、今回は周辺の画家たちの作品も展示されるとはいえ、基本ボッティチェリの展覧会になっている。ボッティチェリといえば聖母子像がよく知られ、今回も何点か出ているが、なかでも《聖母子(書物の聖母)》と《聖母子と洗礼者聖ヨハネ》は、ほとんど死んだような聖母マリアの表情といい、いまだ中世を思わせる装飾的な背景といい、とても美しい。メディチ家3代の肖像に画家の自画像も入った有名な《ラーマ家の東方三博士の礼拝》は、30人を超す群像表現なので大作だと思い込んでいたが、縦1メートル強と意外に小さい。これもよく画集などで見かける《書斎の聖アウグスティヌス》は、もともと教会の壁に描かれたフレスコ画を切り取ったもの。運ぶのが大変そうだ。古代ギリシャの伝説の画家アペレスの失われた作品を復元しようとしたのが《アペレスの誹謗(ラ・カルンニア)》だが、前景の人物(誹謗、不正、無知などの擬人像らしい)がなにを意味しているのかわからないうえ、背景の細かい浮き彫り彫刻ばかりが目につき、違和感テンコ盛り。《磔刑のキリスト》は十字形に切り抜いた板にキリストを描く試みで、「シェイプト板絵」か。ほかにも画家の師であるフィリッポ・リッピ、ポッライオーロ、ヴェロッキオらの作品もあって、けっこうお腹いっぱい。

2016/01/15(金)(村田真)

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川田喜久治「Last Things」

会期:2016/01/08~2016/03/05

PGI[東京都]

川田喜久治は2000年代以降、以前にも増して精力的に作品を制作し、発表し続けている。2002~2010年の写真は「World’s End(世界の果て)」、2011~2012年の写真は「2011──Phenomena(現象)」というタイトルでまとめられ、それぞれフォト・ギャラリー・インターナショナル(現PGI)で展示された。そしてその「最後の項」として提示されたのが、今回の「Last Things(最後のものたち)」のシリーズである。
目の前の事象を「滅び」の相の下に捉えていく視点は、最初の写真集である『地図』(美術出版社、1965)以来一貫している。だが、そのメランコリックで瞑想的なイメージの強度は、近作になればなるほどより増してきているようにも感じる。川田は1933年生まれなので、80歳を越えてから、なお新作を次々に発表しているわけで、その創作意欲の高まりは特筆すべきものといえるだろう。
2000年以降の3シリーズを比較すると、微妙な変化も生まれてきている。今回の「Last Things」は、デジタル画像の加工や合成のテクニックがやや過剰なほどに使われていた前作と違って、ストレート写真への回帰が目につく。それだけではなく、天体現象と地上の現実を対比させる導入部は旧作の「The Last Cosmology」(1996)を思わせるし、「気まぐれ Los Caprichos」(1972~75)や『ルードヴィヒII世の城』(朝日ソノラマ、1979)につながる写真もある。つまり「Last Things」には、どことなく彼の写真家としての軌跡を辿り直しているような趣があるのだ。
今回の発表で三部作の一応の区切りはついたようだが、川田自身はこれで終わりという考えは毛頭ないようだ。さらに次のステップへとたゆみなく歩みを進めていく、そんな覚悟が充分にうかがえる意欲的な展示だった。

2016/01/15(金)(飯沢耕太郎)