artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

森山大道「DAIDO IN COLOR」

会期:2015/12/15~2016/01/30

AM[東京都]

森山大道といえば、モノクロームのコントラストを強調したストリート・スナップというイメージが強いが、じつは初期からカラー写真もかなりたくさん撮影している。1960年代~70年代に「朝日ジャーナル」や「週刊プレイボーイ」(篠山紀信と交互にヌード作品を掲載していた)に発表された写真はほとんどがカラーだし、それらをまとめて蒼穹舎から『COLOR』(1993)、『COLOR2』(1999)という2冊の写真集も刊行している。2000年代以降、デジタルカメラを主に使うようになってからは、むしろカラー写真の比率のほうが大きくなりつつあるように見える。
今回、東京・明治神宮前のアートスペース、AMでまとめて展示された、150点あまりの作品を見ると、森山にとってのカラー写真はモノクロームとはやや異なった意識で撮影されているようだ。森山自身は「モノクロームには、印象性、象徴性、抽象性があるけれど、カラーには、ポップでクリアーでジャンク、いい意味でペラペラな感じがある」と語っているが、たしかにカラー写真のほうが、被写体の色や「ペラペラな」質感にヴィヴィッドに反応しているように感じる。特に目につくのは、飲食店街などに氾濫する紫がかったピンク色や、丸みを帯びたエロチックなフォルムに対するエキサイトぶりで、モノクロームと比較すると、森山のフェティッシュな嗜好が剥き出しで表出しているのが興味深い。1960年代から70年代を中心に80年代の作品まで、バラバラな順序で並んでいたが、年代ごとに彼のカラー写真の変遷を追う展示も見てみたいものだ。


© Daido Moriyama / courtesy art space AM

2016/01/24(日)(飯沢耕太郎)

THE COPY TRAVELERS exhibition「ストーブリーグ2016」

会期:2016/01/15~2016/02/01

Division、VOU[京都府]

京都を拠点に活動する若手作家、上田良、迫鉄平、加納俊輔によるユニット「THE COPY TRAVELERS」。ユニット名に「COPY」と冠されているように、カメラやコピー機、スキャナーといった複製装置を用いて、既成のイメージを再利用したコラージュを「複製」する行為を作品化している。
彼らの活動は、「コピー」、「コラージュ」、「共同作業(コレクティブ)」という、三つの軸から考えることができる。風景写真やグラビアアイドルの写真、布やベニヤ板の一部など、種々雑多な素材が切り抜かれてコラージュされ、コピー機にかけられて、一枚の平面として提示される。暴力的で視認不可能なほど切り刻まれ、接合された画像の群れに、記号化されたマンガのようなドローイング(上田)が描き重ねられる。また、切り抜かれていない一枚の写真や立て看板が画面内にしばしば写され、撮影されたものの再撮影という反復性とともに、画中画のような入れ子構造を形づくる。この入れ子構造は、平面作品の画面中央に、写真の額装マットのような矩形のフレームが切り抜かれ、その「窓」の中に別のイメージがはめ込まれていることと対応している。この「窓」は、カメラのフレームやPCモニター上のウィンドウといった視覚の制度を示唆する。
切り刻み、接合し、穴や切れ目にねじ込み、重ね合わせ、押し付ける。可塑性のあるものとしてイメージを扱う手つきは、フォトショップなど画像加工ソフトによって画像の編集が容易になった時代的感性だ。ではなぜ、コピー機というアナログな装置が用いられているのか。それは、コラージュされた素材の重なり合いが、表面のみ機械的にスキャンされることで、瞬時にして一枚の平らな画面に変換されるからだろう(この平面への「圧縮」という性質は、例えば、シールやテープの貼られたベニヤ板の写真を、実物のベニヤ板の表面に貼り、物理的な表面とレイヤーの乖離によって認識を混乱させる加納作品と通底している)。加えてコピー機の場合、完全にはコントロール不可能なノイズの混入という即興性がある。影の写り込み、押し付けた布や紙の皺、ビニールの反射、手を動かしたときのブレや歪み……。いわば彼らは、DJが次々とレコードを取り替えながら、スクラッチによってノイズ混じりの新たな音を即興的に生成させていくように、不鮮明化、皺、反射光や影といった情報の変形を加えながら、コピー台の上で次々とイメージを編集していくのだ。

2016/01/24(日)(高嶋慈)

はじまり、美の饗宴展 すばらしき大原美術館コレクション

会期:2016/01/20~2016/04/04

国立新美術館[東京都]

歴史をたどりながら、大原美術館のコレクションを紹介する。最初期には倉敷の小学校で日本初のオリエント展示を行なっていたのが興味深い。東京で西洋美や国立近美のハコができる前からいち早く活動を開始し、長く継続しつつも保守化せず、新機軸を打ち出す。興行としての企画展ではなく、常設で勝負できる美術館だ。

2016/01/23(土)(五十嵐太郎)

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未来を担う美術家たち 18th DOMANI・明日展 文化庁芸術家在外研修の成果

会期:2015/12/12~2016/01/24

国立新美術館[東京都]

文化庁による芸術家の海外派遣、研修の成果を示すもの。巨大な壁画の木島孝文、近くから見ると俗で遠くから見るとバロック化する古川あいか、力強い造形の松岡圭介、新国立競技場を描いてほしかった風間サチコ、いつもと違う作風で福島の状況を示す栗林隆などが印象的だった。

写真:上=木島孝文、下=古川あいか

2016/01/23(土)(五十嵐太郎)

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ジェネレーションY:1977

会期:2016/01/23~2016/01/31

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

ファッション通販ZOZOTOWNを運営する前澤友作社長が集めたコレクションのうち、自分と同世代のペインター3人の作品を公開している。エイドリアン・ゲーニー、ジョナス・ウッド、リネット・ヤドム・ボアキエの3人で、いずれも1977年生まれ。ちなみにタイトルの「ジェネレーションY」とは、ジェネレーションX(1960年代から70年代なかばまでの生まれ)の次の世代という意味。それぞれ2~4点、計9点の出品だが、いわゆるペインタリーな具象の大作が多く見ごたえがある。とくに身近な日常風景をフラットに描いたジョナス・ウッドの作品は、一見ホックニーを想起させるポップな表現だが、絵画という形式に対する意識はきわめて高い。室内の壁、床、天井が織りなす垂直・水平線や、四辺いっぱいの大きな窓枠を画面の骨組みに据え、画中画や窓ガラスに映った鏡像によってイメージを重層化させる手法は見事というほかない。河原温やミニマルアートのコレクションも豊富というから、いずれ公開されるのを楽しみにしたい。

2016/01/22(金)(村田真)