artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
MOTコレクション
会期:2015/11/07~2016/02/14
東京都現代美術館[東京都]
たまにしか見ないけど、コレクション展もここ数年ずいぶん変わってきたなあ。入ってすぐのアトリウムには、大友良英らによるサウンド・インスタレーション。その奥では「戦後美術クローズアップ」として、中西夏之、池田龍雄、桂ゆき、中村宏ら50-60年代の作品を展示しているが、部屋の中央に仮設壁を建てたり思い切ったことをやっている。第2部では「フランシス・アリスと4つの部屋」と称して、アリスのほかボルタンスキー、河原温、塩見允枝子らの思索的な作品を並べ、最後の部屋では高柳恵里や豊嶋康子らの作品らしからぬ作品を「標本」のように陳列しているのがおもしろい。常設展示に工夫を凝らし、いろいろ試みるのはとてもいいことだと思うんだけど、でも常設展示を逸脱して企画展示になっている。いやそのこと自体は評価するとして、しかし常設展示ならではの「いつものヤツ」が「いつもの場所」にないことの欠落感、喪失感も同時にあなどるべきではないような気がする。これは単にお約束の作品に会いたいというレベルの話ではなく、わが国の首都最大の美術館にいまだ近現代美術のスタンダードが常設されていないということだ。
2015/11/20(金)(村田真)
“TOKYO”──見えない都市を見せる
会期:2015/11/07~2015/02/14
東京都現代美術館[東京都]
東京が「TOKYO」としてグローバルに注目を集めたのは80年代から。YMOをはじめとするカルチャーの拠点としてTOKYOが世界に発信していた時代がたしかにあったけど、バブルの崩壊とともに萎縮してしまったのはご存知のとおり。いままた「世界のTOKYO」を目指そうというのは、2020年の東京オリンピックを見据えての広告代理店的発想か。
2015/11/20(金)(村田真)
オノ・ヨーコ──私の窓から
会期:2015/11/08~2016/02/14
東京都現代美術館[東京都]
オノ・ヨーコ。もう80すぎなのに、毀誉褒貶まみれなのに、なんだろうこの透明さは。いまさら純粋っていうんじゃないし、もちろん存在感がないっていうんでもない。でも存在感を消そうとしてるみたいな作品ではある。禅の公案みたいなインストラクションにしろ、ガラス板に弾丸を撃ち込んだ《穴》にしろ、漆椀に水を入れ、前に歴史上の人物や友人たちの名前を記した《私たちはみんな水(東京ヴァージョン)》にしろ、なんていうか、美術が職人技だった時代に憧れたリベラルアーツみたいな、つねに上空飛行しているような作品。手の痕跡を感じさせないからでしょうか(文字は例外ですね)。
2015/11/20(金)(村田真)
三宅砂織/山本優美「Why did I laugh tonight?」
会期:2015/10/31~2015/12/06
Gallery OUT of PLACE TOKIO[東京都]
Gallery OUT of PLACE TOKIOで陶芸家の山本優美と二人展を開催している三宅砂織が用いているフォトグラムも古い技法だ。写真の発明者の一人である、イギリスのウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが、すでに1830年代に「フォトジェニック・ドローイング」と称して実験を試みている。
ただし、三宅の手法は印画紙の上に物体を置いて光に曝し、そのシルエットを写し取る通常のフォトグラムとは異なっていて、透明な素材にドローイングしたものを「ネガ」として使用し、それにガラスやプラスチックのオブジェをまき散らすように配置してプリントするものだ。最終的な発表の形態は印画紙なのだが、画像の見かけは絵画作品そのものである。それでもスナップ写真を素材にしてドローイングしている場合が多いのと、モノクロームに仕上がるので、写真作品と見えなくもない。その絵画と写真の折衷というあり方が、独特の雰囲気を醸し出していた。
今回の展示では、前回の展示に比べると大きな作品が増えてきている。大判の印画紙を4枚繋ぎ合わせているものもある。以前は作品が小さかったので、親密な印象を与えるものが多かったのだが、画面が大きくなってダイナミックな躍動感が出てきた。同一の「ネガ」から何枚かプリントしたり、裏焼きにしたりした作品もあり、以前よりも絵画的な要素が強調されているようにも見える。三宅の作品における写真的要素と絵画的な要素は、せめぎ合いつつ、ヴァリエーションを増やしていくのだろう。その上で、今回何点か出品されていた「花」のシリーズのように、特定のテーマに絞り込むことも考えられそうだ。
2015/11/19(木)(飯沢耕太郎)
戦後70年 もうひとつの1940年代美術──戦争から、復興・再生へ
会期:2015/10/31~2015/12/23
栃木県立美術館[栃木県]
戦後70年の今年、何本か開かれた戦争画を中心とする1940年代展の最後を飾る展覧会。ちょっと遠いけど、思い立って行ってみた。凡庸なタイトルからは見えない同展の特徴は、地元栃木出身の作家と女性画家が多いこと。いわば美術史では非主流の画家たちによる戦中・戦後の美術の見直しといえる。地元作家では清水登之、川島理一郎、小杉放菴らが出ているが、とくに清水登之は《突撃》《擬装》《江南戦跡》《題名不詳(待機)》といった戦争画が出品され、同展の核となっている。女性画家が比較的多いのは、同展が2001年に開かれた「奔る女たち──女性画家の戦前・戦後 1930-1950年代」を発端としているからだが、とはいってもあまり目立たないのは女性画家による戦争画がほとんどないからだ。もっとも戦争画の定義を広げれば、銃後の労働者を描いた長谷川春子、吉田ふじを、朝倉摂、南洋の風俗を描いた赤松俊子(丸木俊)らの作品も戦争画に含まれるかもしれない。女性画家が増えるのは敗戦後1940年代後半のことになる。戦争画ではほかに、極端な俯瞰構図で描かれた吉田博の《急降下爆撃》、上空からパラシュート部隊を捉えた中村節也の《降下図(某国初期パラシューター)》、なぜか敗戦の年に第一次大戦を描いた中村研一の《第一次大戦青島攻撃図》などが珍しい。また、鶴田吾郎の《早春の日光三山》や向井潤吉の《雪》など、戦争画を描いた画家による戦後ののどかな、しかし暗い風景画も印象深い。驚いたのは戦争をモチーフにした着物がつくられていたこと。軍人の顔や日の丸が入った《東郷乃木肖像柄一つ身》、横山大観が献納した戦闘機をあしらった《大観飛行機献納柄一つ身》など、照屋勇賢かと思った。
2015/11/18(水)(村田真)