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戦後70年 もうひとつの1940年代美術──戦争から、復興・再生へ

2015年12月15日号

会期:2015/10/31~2015/12/23

栃木県立美術館[栃木県]

戦後70年の今年、何本か開かれた戦争画を中心とする1940年代展の最後を飾る展覧会。ちょっと遠いけど、思い立って行ってみた。凡庸なタイトルからは見えない同展の特徴は、地元栃木出身の作家と女性画家が多いこと。いわば美術史では非主流の画家たちによる戦中・戦後の美術の見直しといえる。地元作家では清水登之、川島理一郎、小杉放菴らが出ているが、とくに清水登之は《突撃》《擬装》《江南戦跡》《題名不詳(待機)》といった戦争画が出品され、同展の核となっている。女性画家が比較的多いのは、同展が2001年に開かれた「奔る女たち──女性画家の戦前・戦後 1930-1950年代」を発端としているからだが、とはいってもあまり目立たないのは女性画家による戦争画がほとんどないからだ。もっとも戦争画の定義を広げれば、銃後の労働者を描いた長谷川春子、吉田ふじを、朝倉摂、南洋の風俗を描いた赤松俊子(丸木俊)らの作品も戦争画に含まれるかもしれない。女性画家が増えるのは敗戦後1940年代後半のことになる。戦争画ではほかに、極端な俯瞰構図で描かれた吉田博の《急降下爆撃》、上空からパラシュート部隊を捉えた中村節也の《降下図(某国初期パラシューター)》、なぜか敗戦の年に第一次大戦を描いた中村研一の《第一次大戦青島攻撃図》などが珍しい。また、鶴田吾郎の《早春の日光三山》や向井潤吉の《雪》など、戦争画を描いた画家による戦後ののどかな、しかし暗い風景画も印象深い。驚いたのは戦争をモチーフにした着物がつくられていたこと。軍人の顔や日の丸が入った《東郷乃木肖像柄一つ身》、横山大観が献納した戦闘機をあしらった《大観飛行機献納柄一つ身》など、照屋勇賢かと思った。

2015/11/18(水)(村田真)

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