artscapeレビュー

LOST “number” UPDATE part.1

2015年06月15日号

会期:2015/05/28~2015/06/03

ギャラリー エスパス・ビブリオ[東京都]

『number』は1972~75年にかけて、東京造形大学写真専攻の学生たちを中心にして発行されたミニマガジン(全11冊)である。学内がバリケード封鎖されて授業ができなかったので、高梨豊の乃木坂の事務所に毎週集まって「自主ゼミ」をおこない、コピー印刷(8号からはオフセット印刷)の小冊子を刊行していた。今回のギャラリー エスパス・ビブリオの展示には、川島敏生、島尾伸三、瀬野敏、西原敏弘、上松恵武、梅津秀の6人のメンバーが参加していた。
彼らの仕事は、1966年にアメリカ・ニューヨーク州ロチェスターのジョージ・イーストマンハウス国際写真美術館で開催された「コンテンポラリー・フォトグラファーズ 社会的風景に向かって」展を起点とする「コンポラ写真」の枠組みに入るように見える。当時、フォトジャーナリズム、広告写真、芸術志向の写真などの既成の写真表現のあり方を否定し、写真を撮り続ける根拠を自らの生と現実とのかかわりを「記録」していくことに求める若い写真家たちの営みが大きく広がりつつあった。たしかに、会場に並んでいるのは、「コンポラ写真」の典型といえそうな、日常をやや距離をとって見つめたスナップショット群である。だが、40年の時を隔てて見ると、一人ひとりのアプローチの違いも見えてくる。今は所在不明になってしまったという上松恵武の、群衆から特異な身振りの人物を嗅ぎ当てていく能力の高さや、グループの中で中心的な役割を果たしていた島尾伸三の、軟体動物のように伸び縮みする視覚のあり方など、若い写真家たちの中に芽生えつつあった個人的な体内感覚が、それぞれの写真の中からあぶり出されてくるように感じるのだ。彼らの仕事が、その後の写真表現とどんな風につながっていったのか、あるいは断絶したのか、より細やかな検証が必要になってくるだろう。
なお会場近くのギャラリーThe Whiteでは、川島敏生、島尾伸三、瀬野敏、西原敏弘が参加した「LOST “number”UPDATE part.2」展が開催され、彼らの現時点での写真を見ることができた。また展覧会にあわせて、5月29日には飯沢耕太郎×ホンマタカシ、31日には高梨豊×大日方欣一によるトークイベントが開催された。


「LOST “number”UPDATE part.2」展

2015/05/29(金)(飯沢耕太郎)

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