artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
生誕110年 片岡球子 展
会期:2015/04/07~2015/05/17
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー[東京都]
国立近代美術館で、繊細な美とは違う日本画を開拓した、片岡球子展を見る。彼女が、一度見たら忘れられない球子スタイルを確立する以前の作品、晩年の裸婦のシリーズ、日常的に描いていたスケッチなどの資料も興味深いが、やはり1950、60年代に才能を開花させたときのパワーが凄まじい。改めてその軌跡をたどると、過去作を引用するポストモダンほか、現代美術の動向と並走しているような印象を受ける。
2015/04/15(水)(五十嵐太郎)
上田義彦「A Life with Camera」
会期:2015/04/10~2015/07/26
916[東京都]
日本の写真の最前線で活動している上田義彦にとって、回顧展というのはやや早すぎるような気もする。だが、それだけの厚みと量を備えた仕事をしてきたということが、今回の「A Life with Camera」を見てよくわかった。
それにしても、かなり破天荒な展示ではある。天井が高い916の会場全体を使って、いろいろなフレームに入れた約240点の写真がアトランダムに並んでいる。大きさ年代もバラバラ、これだけ盛りだくさんの展示も珍しいだろう。1982年、フリーの写真家としてスタートした24歳の時に撮影したモンテカルロバレエ団の写真から、近作まで、内容的にも技法的にも極端に引き裂かれた写真が一堂に会している。コマーシャルの仕事からプライヴェートなスナップまで、あらためて上田義彦という写真家の仕事の、幅の広さと志の高さがしっかりと伝わってきた。
これだけ多様な写真が並んでいると目移りがしてくる。それでも、上田のある意味特異な「眼差し」のあり方が浮かび上がってきた。彼自身が、展覧会のリーフレットに寄せた文章で書いているように「不器用」には違いない。それでもその都度、被写体に生真面目に向き合い、その時の自分の物の見方を問い直しつつ、ぎりぎりの所まで追い込んで、手抜きせずに作品を仕上げていく。そのために、時折、作品化への意欲が空回りしてしまうこともあるようだ。シャープネスの極致のような細部へのこだわり、厳密な画面構成が際だつ作品もあれば、光と大気の感触だけしか伝わってこないピンぼけの作品もあるのはそのためだろう。おそらく、その過剰な表現意識を自然体でコントロールできるようになった時に、上田の写真家としての文体が完全に確立するのではないだろうか。そのサンプルになりそうな作品(たとえばフランク・ロイド・ライトの落水荘の写真)を見ることができたのが収穫だった。
なお、展覧会にあわせて羽鳥書店から同名の写真集が刊行されている。装丁は中島秀樹。300点を超える作品をおさめた、文字通りの集大成となる大判ハードカバー写真集である。
2015/04/15(水)(飯沢耕太郎)
佐藤翠 展「スプリング・クローゼット」
会期:2015/04/08~2015/04/14
伊勢丹新宿本店5階アートギャラリー[東京都]
クローゼットを中心に靴箱やジャケットやネックレスを描いたシリーズ。クローゼットは富士山型に棚を描いて奥行きをつくり、パープルやピンクを基調とする絵具の滴りが吊るされた服とともに垂直性を強める一方、画面上方のバーが水平性を確保して絵画構造を補強している。また服の柄が装飾性を強調し、画面に華やぎを与えている。靴箱は棚板が何枚か水平に走り、そのあいだにいろいろなハイヒールがさまざまな向きで置いてあるのだが、これがまたすばらしい。でも小品は「ついでに描きました」感が漂っていないか?
2015/04/13(月)(村田真)
肉筆浮世絵 美の競艶 ─浮世絵師が描いた江戸美人100選─
会期:2015/04/14~2015/06/21
大阪市立美術館[大阪府]
アメリカ・シカゴの日本美術収集家ロジャー・ウェストン氏が所蔵する肉筆浮世絵から、厳選した約130点を紹介している。浮世絵版画が量産品であるのに対し、肉筆浮世絵は1点物で希少性が高く、130点もの作品が揃う機会は極めて貴重だ。また、本展では江戸初期から明治に至る肉筆浮世絵の流れを通観することができ、その点でも高い評価が与えられる。さらに、浮世絵は上方で発生し江戸で発展した歴史的事実を踏まえ、上方の絵師をしっかりとフォローしているのも本展の特徴。その初期浮世絵ではダイナミックな線描が用いられ、女性美の基準が後世と明らかに異なるなど、興味深い事実を知ることもできた。こうした名品が国内に残っていないのは残念だが、外国人が日本美術を深く愛し、大切に保存してくれたことに感謝したい。
2015/04/13(月)(小吹隆文)
西山裕希子「You」
会期:2015/03/28~2015/04/12
Gallery PARC[京都府]
西山裕希子はこれまで、ロウケツ染めの技法を用いて、主に女性像や、女性像と組紐などの紋様を組み合わせた平面作品を発表してきた。今回の個展では、染織をベースにしつつ、「うつす」行為や「トレース」がはらむズレへと作家の関心が移ってきたことが伺える。
この関心の変化は、元々、ロウケツ染めの技法に内在していたものだ。ロウケツ染めでは、「うつす」「なぞる」プロセスが幾重にも介在する。まず下絵をトレーシングペーパーになぞり、布に線をうつし、線の周りをロウでなぞり、ロウとロウの隙間に染料を染み込ませることで、残された隙間が線として顕在化する。こうした何重もの「うつす」プロセスを経ることで、元々の線は微細なズレをはらんでいく。
今回の個展では、ロウケツ染めの平面作品に加えて、銀塩写真をガラスにプリントした作品や、鏡やガラスの映り込みを利用したインスタレーションが展示されている。また、絵画の起源として有名な「恋人の影を壁になぞる女性」の図像を文字通りトレースしたドローイングもある。特に、写真をガラスにプリントした作品では、銀を含んだエマルジョンをガラスに塗って像を定着させる際にズレが生じ、像にわずかな歪みをもたらす。被写体はいずれも光が差し込む窓辺であり、それ自体が透明なガラスにプリントされ、透過光の差し込むガラス壁に置かれることで、天気や時間帯によってさまざまな陰翳の表情を見せ、美しい。
線のトレース、「うつす」行為がもたらすズレ、オリジナルからの距離の増幅、映像を生み出す光源としての光、光の痕跡としての写真、ガラスや鏡への映り込み、反射や鏡像……「うつす」を軸に多様な試みが展開され、インスタレーション空間の中で文字通り乱反射のように響き合う個展だった。過渡的ではあるが、それぞれの分岐が今後、どう展開されていくのかが楽しみである。
2015/04/12(日)(高嶋慈)