artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
リッタ・パイヴァラネン「River Notes」
会期:2015/04/11~2015/05/02
フィンランドの写真家たちの作品は、日本人にはとても親しみを感じるものが多い気がする。YUMIKO CHIBA ASSOCATESで、同じくフィンランド人の写真家、アリ・サールトの展示に続けて開催された、リッタ・パイヴァラネンの「River Notes」展を見て、あらためてそう思った。
パイヴァラネンは1969年生まれ、ヘルシンキ在住の女性アーティストで、森の中に布の帯を張り巡らして撮影する作品を制作し続けている。川に沿って歩き回って、「最も良い視点」を探し求め、古着や古布をつなぎ合わせた長いリボンのようなオブジェを、樹々の枝に結びつけたり、垂れ流したり、花のように開いて「縫い付け」たりする。春や秋の、葉が落ちて「風景のかたちや構造がより見えるように」なった季節を選び、布の色を周囲の風景と調和させ、時には防水ズボンを履いて川の中に入り込んでベスト・ポジションを探すことで、作家と自然との一体化がより強まっているように感じる。その自然との間に細やかな共感を育てていく姿勢が、日本のアーティストたちとも共通しているように感じられるのだ。
フィンランドの写真家たちは、ヘルシンキ芸術デザイン大学出身者たちの「ヘルシンキ・スクール」の存在が広く知られるようになって、世界的に注目を集めつつある。写真集や展覧会を通じて、積極的に自分たちのスタイルをアピールしていく姿勢は、日本の若い写真家たちにも参考になるのではないだろうか。
2015/04/11(土)(飯沢耕太郎)
他人の時間 TIME OF OTHERS
会期:2015/04/11~2015/06/28
東京都現代美術館[東京都]
グローバル社会だからこそ露呈してきた「他人」との時間的・空間的隔たり感をいかに埋め、どのように接続していくか。そんなテーマに、日本、シンガポール、オーストラリアの4人のキュレーターが選んだアジア太平洋地域のアーティスト18人が向き合った。フィリピンのキリ・ダレナの《消されたスローガン》は、50-70年代のデモの写真からスローガンを消したもの。デモというのはスローガンの内容よりデモ自体の形式に訴求力があるということがわかる。インドネシアのサレ・フセインは、独立運動が起こった30年代の写真を元に描き起こした絵を100点ほど出品。写真を絵に描くのは、声を出して歴史を読むのにも似た行為かもしれない。ここに河原温が出ているのはいささか唐突だが、「日付絵画」シリーズは(ほかのシリーズもそうだが)まさに「他人の時間」を表現したものだろう。いま挙げた作品はすべてモノクローム。色彩もテーマも人選も華やかさに欠けるなあ。
2015/04/10(金)(村田真)
山口小夜子 未来を着る人
会期:2015/04/11~2015/06/28
東京都現代美術館[東京都]
山口小夜子といえば、ぼくの頭のなかでは70-80年代の「西武ーパルコ文化」のファイルの近くに、三宅一生や山口はるみなどとともに乱雑に積み重なったたまま、忘れかけていた。晩年(といっても50代だが)アーティスト志向を強めていたのは聞いてたけど、まさか現代美術館で再会するとは思わなかったなあ。展示は、彼女の少女時代に親しんだ人形、絵本、雑誌などから、杉野ドレメ時代の作品、モデル時代のポスターや映像、寺山修司や天児牛大らとのコラボレーションの記録、森村泰昌、宇川直宏、山川冬樹らによる小夜子に捧げる新作までじつに多彩。こんなモデル、もう出ないかなあ。
2015/04/10(金)(村田真)
操上和美「セルフポートレイト」
会期:2015/04/10~2015/05/10
B GALLERY[東京都]
アーティストの中には、ひとたび作品ができ上がったら、もうそれらをまったく顧みることのないタイプと、何度となくその作品のヴァリエーションを作り続けるタイプがいるようだ。マン・レイやルネ・マグリットなどは、同じテーマを飽くことなく変奏し続けたのだが、操上和美にもそんな所がある。だが、むろん彼らは同じ場所に留まってくり返しているのではなく、絶えず変わり続けていく、そのきっかけとして自作を利用しているのではないかと思う。
今回の新宿・B GALLERYでの操上の個展のタイトルは「セルフポートレイト」だ。だが「自写像」だけが並んでいるわけではない。彼が1970年代から撮影し続けてきたおびただしい数の広告写真や肖像写真、それらをアトランダムに選んで組み合わせ、その上にジャズのインプロヴィゼーションのように色や形を自由に重ねていく。俳優、女優、歌手、アーティストなどの著名人がモデルになっていることが多いのだが、彼らの社会的なステータスは潔いほど無視され、完全に”素材”として再利用されている。自分自身による自作の再解釈という側面はむろんあるのだが、純粋に遊び(プレイ)を楽しみながら作っているのが、むしろ気持ちのよいヴァイブレーションをともなって伝わってくる作品が多かった。
会場に展示されているのは19点だが、おそらくそこまで絞り込むためには、膨大な量の試作が積み上げているのではないだろうか。その厚みと凄みは、展覧会にあわせて刊行された同名の写真集(造本は本展の共同制作者といってよい町口寛)からもヴィヴィッドに感じとることができた。
2015/04/10(金)(飯沢耕太郎)
奈良礼賛~岡倉天心、フェノロサが愛した近代美術と奈良の美~
会期:2015/04/11~2015/05/24
奈良県立美術館[奈良県]
明治初期にアーネスト・フェノロサと岡倉天心により行われた調査により、その価値を再評価された正倉院宝物や仏教美術を中心とする奈良の文化財。本展ではその事実を基軸に、奈良の文化財に着想を得た狩野芳崖や横山大観らの絵画、彫刻、美術工芸品など112点を紹介している。本展を見る前は、展覧会タイトルから歴史画や風景画が並んでいるものと思っていたが、実際はそうした作品以外に模造・模写も数多く出品されており、筆者自身はむしろ後者に感心した。竹内久一、山田鬼斎による仏像の模造、横山大観、菱田春草、寺崎廣業らによる仏画の模写、小松松民、六角紫水らの工芸品模造、それらが持つ高い技巧と表現力に魅了されたのだ。他には、平櫛田中による岡倉天心の肖像《五浦釣人》、狩野芳崖の傑作《悲母観音》の下絵、芳崖と天心のスケッチやメモ書きなども興味深かった。敢えて僭越な物言いをするが、本展は予想外の拾い物である。
2015/04/10(金)(小吹隆文)