artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

笹岡啓子「PARK CITY」

会期:2014/12/02~2015/12/23

photographers' gallery[東京都]

笹岡啓子は2009年に写真集『PARK CITY』(インスクリプト)を刊行した。彼女が生まれ育った広島を、爆心地近くの公園を中心に広がる「PARK CITY」と見立てて撮影したモノクロームのシリーズで、2010年に日本写真教会新人賞を受賞するなど高い評価を得た。今回のphotographers' gallery と隣接するKULA PHOTO GALLERYの展示では、このシリーズを踏まえて、さらにそこから先の展開が企てられていた。
photographers' galleryでは、写真集に収録されていた作品のモノクロームプリント11点とともに、新作のカラー作品3点が展示された。さらにKULA PHOTO GALLERYにも、カラー作品3点がより大きなサイズで展示されていた。広島平和記念資料館の展示物を眺めている観客(すべて学生など若い世代)を撮影した新作は、内容的には前作をそのまま踏襲している。だが、カラーになることで、いつともどこともつかない時空に宙吊りにされたように感じる前作と比較して、よりリアルな空気感が増したことは間違いない。もう一つ興味深いのは、展示されている原爆投下時の記録写真が、当然ながらモノクロームのまま写っていることだ。そのことによって、1945年/2014年という二つの時間の断層が、よりくっきりと形をとって見えてきたように思う。
笹岡が今回の展示作品を撮影するきっかけになったのは、『photographers' gallery press no.12』の特集「爆心地の写真1945-1952」の編集にかかわったためではないだろうか。刊行されたばかりの同誌に掲載された写真やテキストとあわせて見ると、現地調査の成果を踏まえつつ作品化していることがよくわかる。

2014/12/15(月)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2014年12月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

赤瀬川原平の芸術原論 1960年代から現在まで

著者:ウィリアム・マロッティ、菅章、松岡剛、水沼啓和、山下裕二
発行:千葉市美術館、大分市美術館、広島市現代美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
デザイン:大岡寛典事務所
発行日:2014年10月28日
価格:2,300円(税別)
サイズ:257 x 180 x 34mm 、442頁

2014年10月28日から千葉市美術館での開催を皮切りに全国を巡回する同名の展覧会のカタログ。展覧会オープンの前々日に逝去した赤瀬川原平の60年代から晩年にいたるまでの50年あまりにわたる美術活動を一望する大著となっている。ネオ・ダダ、読売アンデパンダン、ハイレッド・センター、千円札裁判、櫻画報、超芸術トマソンと路上観察学会、ライカ同盟など、その活動は多岐にわたり、さまざまなジャンルを飛び越え、世間を挑発し続けた。篠原有司男、中西夏之、谷川晃一、末井昭、荒俣宏、南伸坊など、彼とともに時代を生き、影響を与えあった豪華な顔ぶれによる証言も収録。

現代美術史日本篇 1945-2014

著者:中ザワヒデキ
デザイン、発行:アートダイバー
発行日:2014年11月21日
価格:1,500円(税別)
サイズ:210 x 257 x 7mm、136頁

2004年に東京都現代美術館で開催された「MOTアニュアル2004私はどこからきたのか/そしてどこに行くのか」での著者の出品作《現代美術史日本篇》を下敷きに、その後の美学校での講義を経て、震災後の動向までも含めた改定版が発行された。方法主義という独自の視点で現場から見続けた中ザワヒデキによる「日本現代美術史」。

LIXIL BOOKLET 科学開講!京大コレクションによる教育事始

企画:LIXILギャラリー企画委員会
編集:石黒知子+井上有紀
AD:祖父江慎
デザイン:柴田慧(コズフィッシュ)
発行:LIXIL出版
発行日:2014年12月15日
価格:1,800円(税別)
サイズ:210 x 205 x 5mm 、77頁

2014年12月5日から大阪のLIXILギャラリーでスタートした同名の展覧会のカタログ。京都大学総合博物館所蔵の明治期に日本の近代化の過程で科学教育のために輸入・製造された実験器具、模型、標本、掛図を紹介している。

2014/12/15(月)(artscape編集部)

ホイッスラー展

会期:2014/12/06~2015/03/01

横浜美術館[神奈川県]

ホイッスラーは肖像画家のイメージが強いが、日本の影響を受けた風景画をかなり描いており、そうした作品群を見ることができた。彼が内装を手がけたピーコック・ルームの映像的な空間再現はおもしろい手法である。展示の最後では、ジョン・ラスキンが作品を酷評し、ホイッスラーが勝訴した事件が紹介されていたが、裁判の結果だけでなく、歴史の審判もホイッスラーの方に軍配をあげるだろう。これは批評家が新しい表現を認められなかった時代の転換も象徴している。

2014/12/14(日)(五十嵐太郎)

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波濤──柿沼瑞輝 展

会期:2014/12/08~2014/12/28

ヨシミアーツ[大阪府]

DMの画像を見て、これは実際に見てみたいと思った。絵具がグチャグチャに塗られ、滴り落ち、投げつけられ、ところどころロープを張ったりバーナーで焼いたりしている。一見アンフォルメル絵画のようでもあるが、感覚的にはどこかポップで、デ・クーニングよりラウシェンバーグに、今井俊満より大竹伸朗に近い。あえて分ければ、これは抽象絵画ではなく、むしろグラフィティだ。

2014/12/12(金)(村田真)

山部泰司展「溢れる風景画2014」

会期:2014/12/16~2014/12/28

ラッズギャラリー[大阪府]

東西線新福島駅で降りて中之島近くのラッズギャラリーへ。山部泰司は80年代に花のイメージを画面いっぱいに広げた絵画で注目され、少しずつ変化して葉っぱのような抽象形態になり、一時は画面が金箔に覆われていたが、近年は樹木の生い茂る風景画に移行している。おもに関西で発表しているため数年に一度しか見る機会がないので、そのつど画風が大きく変わったように感じるが、基本的に植物をモチーフにしている点ではブレがない。風景画も数年前から続けているらしく、今回は赤茶色の線描で描き込んでいて、一見昔の銅版画を思わせる。小品には青色の線描もあって、こちらは西洋陶磁器の絵付けみたいだ。しかしよく見るとそんな懐古趣味的なものではなく、地面が水面というか水流のようになっていて、レオナルド・ダ・ヴィンチの洪水の素描、山水画、津波まで連想させる。というより、山部がレオナルドと山水画と津波をつなげたというべきか。また、水が雨になって地に降り注ぎ、樹液となって木を駆け上るという自然のサイクルも示唆しているのかもしれない。タイトルの「溢れる風景画」とは、水や樹木のあふれる風景画であると同時に、想像・創造あふれる風景画でもあるだろう。

2014/12/12(金)(村田真)