artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

「逆転移」リギョン展

会期:2014/10/31~2015/01/07

銀座メゾンエルメス8階フォーラム[東京都]

光をテーマとした大がかりな空間のインスタレーションであり、何度も訪れて見慣れたレンゾ・ピアノの建築を劇的に変容させる。ガラスブロックを通じて入る太陽光がキラキラ反射する作品は、昼に見たほうが良いかもしれない。もう一方は、白い面が強い電光で照らされるために、部屋に入ると、一瞬空間の輪郭がわからなくなる。ただし、一部、面にひびが見えなければ、完璧だった。

2014/12/03(水)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00028292.json s 10106214

高松次郎ミステリーズ

会期:2014/12/02~2014/11/22

東京国立近代美術館[東京都]

高松次郎がイジられてる。タイトルからして高松らしくないし。導入はだれでもわかる「影」シリーズから。子どもの影を二重に描いた《No.273(影)》や、立てかけた板の裏から光を当てた《光と影》などの後に、観客が自分の影で遊んだり写真を撮ったりできる「影ラボ」が続く。まだ序盤なのに、ここまで遊ぶか。仮設壁を取っ払った大きな展示室には、60年代の「点」「遠近法」シリーズ、70年代の「単体」「複合体」シリーズ、そして98年の死まで続く絵画が一堂に並べられ、中央に設えた高松のアトリエと同じサイズ(意外と小さい)の物見台からすべてを見渡せる仕掛け。なるほど、こうして見ると、あれこれ手を替え品を替えやってきた仕事が「点」ではなく「線」で結ばれることが了解できるのだ。高松次郎の「ミステリーズ」を解きほぐす試みと見ることもできる。さすが、イジリがいのあるアーティストだ。ただ残念なのは、作品が60-70年代に偏りすぎて、80-90年代を費やした絵画がきわめて手薄なこと。もちろん現代美術への貢献度からすればこれで「正解」かもしれないが、しかしそんなに高松の絵画はイジリがいがないのか。

2014/12/01(月)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00028659.json s 10106600

IN SITU-1

会期:2014/09/13~2015/01/04

エスパス ルイ・ヴィトン東京[東京都]

エスパス・ルイ・ヴィトンで公開制作していたソ・ミンジョンの作品が完成した。いつもの歴史的な記憶を抱えた建物の1/1再現ではなく、東京の風景に触発された非実在的な建物が破壊する瞬間のインスタレーションである。今回はとくに、軽やかなエスパスの空間との呼応、また閉じたホワイトキューブではなく、まわりの風景が一緒に見えるのが素晴らしい。ソ・ミンジョンの死んだ鳥の旧作もエスパスで、それを爆破する映像の新作を一階のスクリーンで展示する。また展示とは別に、入り口付近では、The icon and the iconoclastsのプロジェクトで、フランク・ゲーリー、シンディ・シャーマン、川久保玲らがデザインしたバッグも置いていた。

2014/11/30(日)(五十嵐太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00027808.json s 10105375

下瀬信雄『結界』

発行所:平凡社

発行日:2014年10月30日

1996年から銀座、新宿、大阪のニコンサロンで7回にわたって展示され、2005年には伊奈信男賞を受賞した下瀬信雄の「結界」のシリーズが、写真集として刊行された。あらためて、日本の自然写真の系譜に新たな領域を切り拓いた、重要な作品であることがはっきり見えてきたのではないかと思う。
下瀬は4×5判のカメラで、しかもモノクロームフィルムで草木や昆虫、小動物などを撮影する。撮影場所はすべて彼が暮らす山口県萩市の周辺であり、少し足を伸ばせば誰でも目にすることができる被写体だ。だが、「画面手前から奥の広がりまでをシャープに写すことができる」大判カメラによって捉えられた眺めは、不思議な驚きを与えてくれるものとなった。そこに人間界と自然との、此岸と彼岸との、さらにいえば日常と神の領域との境界──「結界」がありありと浮かび上がってくるからだ。下瀬は、そのことを写真集のあとがきにあたるテキストで次のように述べている。
「自然と対峙することで、少しずつわかってきたことがあった。よくみれば、地面の落ち葉の雑然とした降り積もり方にも、その間を縫って伸び上がろうとする新芽のすがたにも何かの必然性があり、私が手を加えてはいけない神聖なものの気配がしてきたのだ」(「結界を結ぶ」)
このような認識は、下瀬の仕事が単純に写真を通じて自然を描写するのではなく、その背後に潜む原理を探り出そうとする思想的、哲学的な営みに達しつつあることをよく示している。しかもそれは、かつて「科学者になろう」と考えていたという彼が、長い時間をかけて育て上げてきた博物学的な知識に裏付けられている。巻末の「『結界』被写体と撮影地」という作品リストを見ると、「ヤマハゼ」、「ヒメオドリコソウ」、「ハナニラ」、「ハキリバチ」、「ヤママユガ」、「シロオニタケ」といった植物、昆虫、菌類などの種名が正確に記されていることに気がつく。まさに「科学者」の目と詩人の魂の融合であり、日本の自然写真の源流というべき田淵行男の仕事を継承、発展させたものといえるのではないだろうか。

2014/11/30(日)(飯沢耕太郎)

国立現代美術館ソウル館、「MMCA Hyundai Motor Series 2014:イ・ブル」展

会期:2014/09/30~2015/03/01

国立現代美術館ソウル館[韓国、ソウル市]

《国立現代美術館ソウル館》(2013)は、景福宮隣のギャラリー街にある文化的な環境に囲まれていることから、高さを抑え、既存の近代建築をリノベーションしながら、谷口吉生風のモダンな空間を継ぎ出したものだ。動線はややわかりにくい。が、展示は充実していた。まず、吹抜けを利用して、レアンドロ・エルリッヒによる船と仮想水面のインスタレーションが展開する。「イ・ブル」展は2つの新作だった。カンパネラ『太陽の都』に着想をえた、鏡の断片を床に散りばめた大空間と、ブルーノ・タウトのクリスタルのユートピアを参照した、天井から逆さ吊りの巨大インスタレーションである。いずれも、これまで彼女が得意とした手法を、さらに劇的に展開している。コレクションの他は、バウハウスにおけるオスカー・シュレンマーのメカニカルな身体運動や衣装、グロピウスのトータルシアターなどの特集展示、金壽根らの作品を含む、韓国の近代建築のアーカイブ展示、数学的なアートなど、盛りだくさんだった。国立美術館に建築がちゃんと入っているのが羨ましい。

左上:レアンドロ・エルリッヒの作品の展示風景
左下:オスカー・シュレンマーの作品の展示風景
右:「イ・ブル」展の展示風景

2014/11/29(土)(五十嵐太郎)