artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
high & dry──田中和人 展
会期:2014/11/14~2014/11/30
Gallery PARC[京都府]
田中和人は写真作品を制作しているが、その作風はストレートフォトとは一線を画している。たとえば、色鮮やかなブロック玩具をピンボケで撮影した《blocks》、金箔をフィルターとして用いて青白い風景を撮影した《GOLD SEES BLUE》、カメラの代わりにスキャナーを用いた《after still》などである。それらの作品は、一見しただけでは相互の関係性が見えにくいが、本人いわく「具象と抽象」あるいは「写真と絵画」の「境界」をテーマにしているとのこと。本展では、新作も含め彼のこれまでのシリーズを一堂に展示することにより、田中の一貫した作家性を明らかにした。また、作品をシリーズごとに並べるのではなく、ランダムに配置したが、これにより時系列を超えたシリーズ相互の参照が可能になった。作家自筆の作品相関図もユニークで、作品理解の一助になった。
2014/11/21(金)(小吹隆文)
「アーキテクツ/1933/Shirokane アール・デコ建築をみる」展+「内藤礼 信の感情」展
会期:2014/11/22~2014/12/25
東京都庭園美術館[東京都]
庭園美術館がリニューアルオープン。1933年に建てられた本館は、当時の資料を調査して創建当初に近い姿に復元・改修したという。さらに本館の奥に新館がオープン、杉本博司がアドバイスしたホワイトキューブの展示室が設けられた。内藤礼はこの展示室にわずかに色彩を施した白いキャンバス作品と、小さなオブジェ(鏡の前に立つ木製フィギュア)を設置。それだけでなく、本館に数カ所ある鏡の前にもフィギュアを置いた。フィギュアといっても手足と目らしきものが判別できる程度のプリミティブな人形で、まるで古い館に棲みついた妖精みたい。といったらメルヘンチックすぎるか。作者によると「ひと」だという。
2014/11/21(金)(村田真)
日清・日露戦争とメディア
会期:2014/10/04~2014/11/24
川崎市市民ミュージアム[神奈川県]
そうか、今年は第1次大戦開始から100年目だけど、日清戦争120年、日露戦争110年でもあった。そして来年は第2次大戦が終わって70年。昔は戦争ばかりやってたんだなあ。そんな100年以上も前のふたつの戦争を伝えた複製メディアを紹介するもの。日清戦争のころは戦争錦絵が盛んに描かれたが、木版画なんで平坦、奥行きや立体感に欠けリアリティに乏しい。まだ江戸時代の浮世絵の面影を残してる。それに対して約10年後の日露戦争では石版画が主流となり、陰影の微妙なニュアンスが加わってリアリティが増していく。もちろん写真はすでに普及していたので、どちらの戦争でも記録として活用されていたが。それにしても、カラー写真や映画、大量印刷などさらにマスメディアが発達した第2次大戦においてなぜ、オールドな油絵や日本画による戦争画が組織的に描かれることになったのか、不思議といえば不思議。
2014/11/20(木)(村田真)
宮本三郎の仕事1940's-1950's──従軍体験と戦後の再出発
会期:2014/08/09~2014/12/07
宮本三郎記念美術館[東京都]
コレクションから戦中戦後の作品を展示。いわゆる戦争画は《飢渇》だけ、それも題名からうかがえるように敗色濃いものだが、代表的な《山下、パーシバル両司令官会見図》《香港ニコルソン附近の激戦》といった大作の下絵やスケッチ類、さらに宮本が挿絵を手がけた『週刊小国民』『画報 躍進之日本』なども出ている。敗戦後、戦争画関連の作品・資料は焼いてしまったという画家も多いと聞くが、宮本も複雑な思いはあっただろうけど、少なくとも戦争画に手を染めた事実は消そうとはしなかったようで、ちゃんと残していたのだ。戦後の40年代後半はまだ戦争(画)を引きずっていたのかシックな色合いの絵が多かったが、50年にピエタの構図を借りて戦争体験を総括するかのような《死の家族》を発表。1年たらずの滞欧を経て次第に色彩も形態も開放的になり、50年代後半にはアンフォルメル旋風に影響されたような半抽象画に移行し、このままだと60年代は純粋抽象に突入するのではないか、と気になるところで終わっている。実際は抽象に走ることなくケバいヌード画に展開していくのだが、後半生も含めてやっぱり戦争画ほど目的が明確で、おそらく画家自身もやりがいを感じ、しかも多くの人々の心を動かした画業はないんじゃないかとふと思う。もちろん多くの人々の心を動かすのが必ずしもいいこととは限らないが。とくにひとつの方向に動かすのはね。余談だが、12月6日には天皇・皇后両陛下が鑑賞されたという。戦争画が含まれているから?
2014/11/20(木)(村田真)
プレビュー:震災から20年 震災 記憶 美術
会期:2014/12/16~2015/03/08
BBプラザ美術館[兵庫県]
1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災から満20年を迎えるにあたり、阪神間の複数の美術館で、震災(2011年の東日本大震災を含む)をテーマにした企画展が行なわれる。それらのなかでも筆者が特に注目しているのが本展だ。出品作家は13人と1組。堀尾貞治、榎忠、WAKKUNなど地元作家を中心としたラインアップである。なかでも、古巻和芳+あさうみまゆみ+夜間工房が2007年の「第1回神戸ビエンナーレ」に出品したインスタレーションの再制作バージョン《掃き清められた余白から 2014》には注目したい。震災の記憶をどのように継承するかはわれわれにとって大きな問題だが、本展をはじめとする阪神間・神戸エリアの企画展は、美術がどのような役割を果たせるかを示す試金石となるであろう。
2014/11/20(木)(小吹隆文)