artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

大江慶之 個展「Yアトリエ」

会期:2014/11/21~2014/12/20

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

体操服姿のナイーブな少年をモチーフにした立体作品(作家自身を投影?)で知られる大江慶之が、3年ぶりの個展を開催。頭部が鶏や花束の髑髏になった少年(画像)、アゲハチョウの羽根を広げて新聞を読む仕草をする少年、アカエイを持つ少年など、さまざまなポーズの立体作品が展示された。彼の作品は、顔や手足など身体部分の造作が極めて緻密であり、そこに布地製の体操服や運動靴のリアリティが加わることにより、彫刻と人形の要素を兼ね備えた独自の世界をつくり出している。アゲハチョウやアカエイなどの仕上がりも見事で、細部まで一切隙がない。また本展では、彼の作業場の一部を画廊に持ち込み、制作の現場を見せる演出も行なわれた。この演出は評価が分かれるところだが、どこか超然とした作品に人間臭い一面を付与する効果はあったのではないか。

2014/11/28(金)(小吹隆文)

祭り、炎上、沈黙、そして… POST 3.11

会期:2014/11/26~2014/12/07

東京都美術館ギャラリーA[東京都]

3.11後、美術家はなにをなすべきか。おそらく美術家ならだれもが考えたはずの美術家の社会的役割というものを、みずからに問い続ける5人の展示。石塚雅子の絵画はとりたてて3.11を思い出させるものではないし、新しさも感じられないが、にもかかわらず鮮烈な印象を与える。横湯久美の写真も3.11とは無関係に、祖母の死に際してみずから演じた極私的奇態を撮ったもの。だから見てしまう。見る側は別に3.11を意識しないから。

2014/11/28(金)(村田真)

フェルディナント・ホドラー展

会期:2014/10/07~2015/01/12

国立西洋美術館[東京都]

これだけまとまってホドラーを見るのは初めてのこと。自然の景色なのにまるで「左右対称」の号令をかけられたような奇妙な風景画や、独自のリズムでモチーフを繰り返す「パラレリズム」の集団人物像など約100点の展示。初めは土産物用の風景画家から出発し、真逆ともいえる象徴主義に行きついたという画業も、ヨーロッパの屋根裏ともいうべき(いわないか)スイスに生涯とどまって制作したという経歴も、ローカルな場所にこだわることでグローバルな世界に突き抜ける例として興味深い。世代的にはクリムトあたりに近いが、そういえばクリムトも装飾職人から出発し、ヨーロッパの辺境(ウィーン)で生涯をすごした点で似ていなくもない。美術史はたまにスイスとかオーストリアとかベルギーといった小国から、瞠目すべき画家を生み出す。なによりうれしいのは、油絵の醍醐味である豊かな筆触を堪能できたこと。

2014/11/28(金)(村田真)

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高岡美岐展

会期:2014/11/25~2014/11/30

アートスペース虹[京都府]

普段目にするごく身近な風景を主なモチーフにした絵画を発表している高岡美岐の新作展。歩きながら携帯電話のカメラで撮影した沢山の写真を水彩で描き起こし、それらのドローイングの中から選び取ったいくつかの場面を合わせてさらに一枚の油彩画に描き直す、というユニークな制作法を続けている作家だ。今回発表されたのは、作家の制作アトリエから仕事場へ向かう経路を描いた連作。雪の朝、積もった雪で真っ白になったロータリーの光景、同じ朝の道路のカーブなど。生々しい体験を衝動的に写真に残し、後から記憶のイメージへと時間をかけて移し替えていく高岡の制作はその手法もさることながら絵自体にも作家の感情が複雑に描きこまれているから面白い。次はどんな季節のどんな場所が描かれるのかまた楽しみだ。

2014/11/28(酒井千穂)

TRACES 三人の跡──山口和也 展「KAKIAIKKO」

会期:2014/11/22~2014/11/30

trace[京都府]

美術家であり、写真家であり、オルタナティブスペース「trace」の運営者でもある山口和也。彼が精力的に行なっている活動のひとつが「KAKIAIKKO」だ。これは音楽家と1対1でステージに立ち、互いに即興で作品をつくり上げていくものである。本展では、過去2年間に行なってきた「KAKIAIKKO」から絵画6作品と、ドローイングと版画の小品を展示した。生成りのキャンバスに激しいタッチと色彩のせめぎあいを刻み込んだ作品は、ライブの余韻を生々しく伝えており、独立した絵画としても十分魅力的だ。ただ、ライブ時の音楽やノイズ込みで見せることができれば、さらに迫力が増すだろう。山口自身、そうした展開や、過去作品すべてを網羅する展覧会を計画しており、現在多方面にプレゼンを行なっている。彼の理想の展覧会が、一日も早く実現することを期待している。なお、本展は3人の美術家の作品を連続個展形式で紹介する展覧会プログラム「TRACES」の第3弾として行なわれたものだ。

2014/11/25(火)(小吹隆文)