artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
原真一「トロリ」
会期:2014/08/23~2014/09/27
山本現代[東京都]
まるで綿か砂糖菓子のようにフワリ、トロリとした触感の大理石彫刻。すごいのは、大理石の固まりを上から彫っていってアヤトリする手を彫り出した彫刻。大理石でアヤトリを彫るか? アンビリーバボーな発想と超絶技巧にあきれる。大きな固まりの内部をくりぬき、表面にいくつか穴をあけた彫刻も見事というほかない。穴をのぞくと、内部はアニッシュ・カプーアの作品のように暗闇になっていて、かなり不気味。つまり量塊感はあるのに内部は空虚感に満たされているということだ。石の彫刻は彫れば彫るだけ重量が減り、持ち運びやすくなる。まさかそのためにここまで彫ったんじゃないだろうけど、でも彫れば彫るほど壊れやすく、持ち運びに注意しなければならなくなる。彫刻家のジレンマだ。
2014/09/18(木)(村田真)
川俣正 プロジェクトドキュメント 東京インプログレス 2010-2013
会期:2014/07/26~2014/09/27
MISA SHIN GALLERY[東京都]
東京スカイツリーが完成する前後に、おもに隅田川沿いの3カ所に制作した物見台のドローイングやマケットを展示。これらの物見台は外見こそ木材に覆われているものの、何人もの人が乗っても壊れないように、また数年間は建ち続けていられるように内部は鉄骨で補強されている。スカイツリー本体に比べりゃ屁みたいなもんだが、それまでの川俣のストリート系インスタレーションと比べれば、大きさも強さも破格。もっともドローイングやマケットではあまり違いがわからないが。ちょっと目を上げると、壁や柱に木を組んだ「鳥の巣」が何点か。
2014/09/18(木)(村田真)
河合晋平博物館 ヴォルガノーチル展
会期:2014/09/17~2014/09/30
高島屋大阪店ギャラリーNEXT[大阪府]
ロールパン、スプーン、ビニール製のチューブ、電球など、身の回りのものを素材に用い、”芸術環境に生息し進化する生命体に見立てた「存在物」という作品を発表し続けている河合晋平。今回新たな「生命体」として、廃棄ビデオテープのロールを用いた「存在物」《ヴォルガノーチル》が大阪の百貨店内のギャラリーで発表された。今展は関西テレビと障碍者支援施設「みずのき」による「廃棄テープリサイクル&アートリユースプロジェクト」という企画の展覧会で、作品の素材となったビデオテープは、同テレビ局がかつて放送映像の保存に使っていた廃品であった。アンモナイトやオウムガイなどの化石を思わせる《ヴォルガノーチル》267点が整然と壁面に並列した空間は、タッチライトで作品各々が光るのも奇麗で、おしゃれなショールームさながらの統一感がある。それだけに遠目にはどれも同じように見えるのだが、近づいてみるとそれぞれのロールの襞や着彩の様子は微妙に異なるのが分かる。標本や図鑑を眺めるようで見れば見るほど各々を見比べるのが面白くなる作品だった。数の多さもさることながら、一点一点、細部の表現に徹底的にこだわる河合の制作。毎回、感心というよりもあきれるほどだが、その職人的な制作への姿勢もかっこいい。次にどんな「存在物」が誕生するのかまた楽しみだ。
2014/09/17(水)(酒井千穂)
島尾伸三「Lesions/ じくじく」
会期:2014/09/16~2014/09/27
The White[東京都]
島尾伸三の展覧会を見るのはかなりひさしぶりだ。ここ数年,以前の精力的な出版、展示活動のペースがやや鈍っているように感じていたのだが、今回の東京・神保町のギャラリー、The Whiteでの個展を見て、いかにも彼らしい独特の肌触りを備えた写真の世界が健在なのを確認することができた。
今回の出品作は、2007年から雑誌『野性時代』に、武田花と交互に隔月で連載していたシリーズを中心に選ばれている。タイトルの「じくじく」というのは、武田の「うじうじ」というタイトルに「対抗して」つけたものだという。「どうしてなのか、いつだって気分が高揚しないまま旅行を終えてしまいます。夕焼けさえ地獄の炎に見えるのです」という展覧会に寄せたコメントを読んでも、眼前の光景の片隅へ片隅へと視線を誘う、ひねりを効かせたカメラワークからも、島尾がたしかに瘡蓋から膿が「じくじく」と滲み出てくるような日常性に、徹底してこだわりつつシャッターを切っていることがよくわかる。だがそれらの写真を見続けていると、その自虐的な視線が何かを突き抜けて、軽やかな涅槃のような領域に達しつつあるのではないかとも思えてくる。島尾の写真は、自分で思っているほどネガティブなものではなく、見る者に奇妙な安らぎを与えてくれるのではないだろうか。今回は旅の写真が多いので余計そう感じるのかもしれないが、ある被写体から次の被写体へと、自然体ですっと眼が動いていく感触が、とても心地よく伝わってきた。
残念ながら展示には間に合わなかったのだが、12月頃に同名の「カラー240ページ」の写真集が刊行される予定だという。出来栄えが楽しみだ。
2014/09/17(水)(飯沢耕太郎)
The Act of Painting
会期:2014/09/16~2014/09/30
Casaさかのうえ[神奈川県]
Casaさかのうえは、慶応大学日吉校舎の坂の下(坂はもっと下まで続くので名称は「さかのうえ」)の脇道を入った場所に建つ、1軒家の小さなギャラリー。展示空間の前には中庭があり、オフィス空間も階段を効果的に使って広々と見せるなど、なかなかユニークな建築だ。ここで展示しているのは、オランダのマーストリヒトを中心に活動する「The Act of Painting」という抽象絵画のグループ。そのなかに日本人の中村眞弥子がいるため、日本にも巡回することになったという。日本展には門田光雅も加わり、計16人が参加。ギャラリーは5坪程度の小さな空間ながら天井は高く、おまけに下方に窓があったりするので、みんな見上げる高さに作品を展示している。これが具象だと難があるが、抽象の小品だと違和感がない。再び抽象が注目を集めているのは世界共通の現象だろうか。
2014/09/16(火)(村田真)