artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
水野悠衣個展 One Scene
会期:2014/09/16~2014/09/21
KUNST ARZT[京都府]
モザイク映像のようなイメージの色面で構成された抽象絵画作品が展示されていた。一点ずつのイメージには実際にモチーフとしたものがあるそうなのだが、水野はその具体性を削ぎ落とした表現に取り組んでいる。麻紙、水干絵具、雲母、胡粉など、日本画の手法で描かれているこのシリーズ、画面に描かれたひとつずつの要素は並列しているが、等間隔のグリッド状というわけでもなく、反復や連続のなかに、図と地を想像させる余地があり、物事が移り変わっていく時間の連想を掻き立てるのが素敵だ。画材の特性も活きた趣きとあじわいのある美しい作品だった。
2014/09/19(金)(酒井千穂)
海老優子展「鳥が鳴いたら3」
会期:2014/09/09~2014/09/21
ギャラリーモーニング[京都府]
海老優子が近年より発表している同名タイトルのシリーズ3回目の個展。屋外の風景、ベッドや洞穴、高い山や塔のある光景などをモチーフにした海老の絵画作品は、夢と現実の間を彷徨うような雰囲気が印象深く、記憶に焼きつく。今回発表された作品はキャンバスではなく紙に描いたもので、継ぎ足した紙がギャラリーの三壁面の左右上下に展開し、風景が物語のように連なるという大きなインスタレーションであった。曲がりくねった山道に人物や動物などは描かれておらず、余白部分も多いその作品は静寂さを湛えているが、ところどころの大きく流れるような筆致とかすれた絵の具の色も不安定な表情で、部分ごとにもこちらの意識を引き寄せる。離れてみると視線は道の先へと導かれるのだが、遠望の開放性とはうらはらに緑濃い三方の山に囲まれた閉塞性という正反対の効果も同時に感じる作品だった。静謐だが、不穏な兆しを連想させる不思議な魅力。今後もこのシリーズが気になる。
会場風景
2014/09/19(金)(酒井千穂)
リー・ミンウェイとその関係展
会期:2014/09/20~2015/01/04
森美術館[東京都]
台湾出身でニューヨーク在住のアーティスト、リー・ミンウェイの個展。と思ったらジョン・ケージ、イヴ・クライン、小沢剛らの作品もある。リーひとりじゃ埋めきれなかった、というわけではなく、リーの作品をよりよく理解するための助っ人として参加してるようだ。裏返せばリーの作品だけじゃ理解に苦しむってことらしい。彼の作品は「リレーショナルアート」とか「関係性の美学」とか呼ばれるもので、観客が参加することで初めて成り立つ作品だが、作品を完成させることより、そのプロセスで人々と会話したり、さまざまな関係性を築くことを目的とする。たとえば《プロジェクト・繕う》では、観客が持ち込んだ衣類をアーティストやホストが会話しながら繕い、壁面の糸とつなげていく。この場合、衣服を繕うことが目的ではなく、繕う行為をきっかけに相手とコミュニケーションし、そのつながりを視覚化してみせることが重要なのだ。また《ひろがる花園》は、細長い容器に差した花を観客が受け取り、それを帰り道に見知らぬ人にあげるというもの。こうして未知の人と知り合い、友だちの輪が広がっていく……と書きながらむなしい気分に襲われる。いったいだれがそんなゲームに参加するのだろう。見知らぬ他人とコミュニケーションしたい人間なんているのか? よっぽど寂しいのかノーテンキなのか、いずれにせよぼくはお友だちになりたくないなあ。まあそれは趣味の問題だからいいとして、興味深いのはこういう「作品」を美術館で紹介する時代になったということだ。そもそもリレーショナルアートなんてものは、美術館という制度内では実現できない生のコミュニケーションを求めて外の世界に広がりを見せてきたはず。それがちゃっかり美術館に収まってしまうというのはいかがなものか。だいたい美術館でのコミュニケーションなんて出来レースみたいなもんだし。こんな展覧会を企画した美術館も美術館だが、そんな話に乗ったアーティストもアーティストだ。ま、それだけにチャレンジングな企画だっていえないこともないけど。
2014/09/19(金)(村田真)
ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎
会期:2014/09/13~2014/11/09
上野の森美術館[東京都]
1870年設立のボストン美術館においてはじめて開催された日本美術展は、アーネスト・フェノロサが企画した「HOKUSAI AND HIS SCHOOL(北斎と一門)」展だったという。当時はまだ美術館の所蔵品はなく、日本美術の収集家、ウィリアム・ビゲローをはじめ地元のコレクターたちから作品を借用していた。その後、ビゲローのコレクションはボストン美術館に寄贈され世界屈指の日本美術コレクションの一角をなすことになる。現在、ボストン美術館所蔵の葛飾北斎の作品は、肉筆画およそ150点、版画1,200点、絵本・絵入り本360点で、本展にはそのなかのおよそ140点が出品され、うち約85%はビゲロー・コレクションからのものである。風景版画の傑作《冨嶽三十六景》21図や《諸国瀧廻り》8図全揃、花鳥版画数点、《百物語》全5図など、本展の見所をあげれば枚挙にいとまがない。
圧巻の描写力、鋭い表現力、自在な構成力、北斎の魅力のほどはいまさら言うまでもないが、本展であらためて感じたのは浮世絵という形式に特有の美しさであった。浮世絵には規定のサイズがある。大判なら約25×37センチ、中判なら約18.5×25センチ。もともと手にとって観るもので、壁に掛けて眺めるものではない。限られた小さな画面に描かれた図像は、紙の感触や版木の表情、輪郭の墨の濃淡、顔料の重なり具合などと相まって凝縮されたひとつの世界をつくりだす。それを観る者は手のなかにおいて味わうのである。
日本美術はフェノロサによって再発見された。しかし浮世絵は、西欧におけるジャポニスムの立役者であったにもかかわらず、そこから除外された。岡倉天心は「社会下層の新美術」とし、永井荷風は「特別なる一種の芸術」として、浮世絵を「美術」とは区別した。賛否はともかく、浮世絵はそれほどまでに独特の世界を築き上げたとはいえないだろうか。「画狂人」とも「画狂老人」とも自ら称したという北斎。彼はその狂おしいほどの情熱を注ぎ、この小さな箱庭のような世界を他に類のない域にまで押し上げたのである。[平光睦子]
2014/09/19(金)(SYNK)
小西紀行「人間の行動」
会期:2014/08/23~2014/09/27
アラタニウラノ[東京都]
相変わらずシャキシャキッと一筆書きみたいに描かれた人物を中心に、背後に水平(または斜めの)線が走り、ベーコンの絵のように室内空間であることが暗示される。以前は背景は黒一色が多かったような気がするのに、画面の隅に壁掛け時計や光の射す窓といった情景描写も入ってきた。人物も椅子に座る人、3人くらい重なる人、寝転ぶ人などポーズが多様化している。この先どこへ行くのか、どこまで行くのか。
2014/09/18(木)(村田真)