artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

山本二三展

会期:2014/08/04~2014/09/23

静岡市美術館[静岡県]

山本二三は『未来少年コナン』、『天空の城ラピュタ』、『じゃりん子チエ』、『時をかける少女』など、日本アニメの有名な作品の美術を手がけた第一人者だけあって、また夏休みの終わりということで、会場は混雑していた。彼は建築を学んでおり、背景画が興味深い。なかでも、『もののけ姫』のシシ神の森は入魂の力作だった。それにしても、絵画ならば、1/1なので、大きい作品を描きたければ、そのまま大きいキャンバスを使えばよいが、アニメの場合、映画館のスクリーンで大きく伸ばしても、絵として耐えられるよう小さなセル画に細部を緻密に描く手技に感心させられる。

2014/08/30(土)(五十嵐太郎)

劉敏史「存在と匿名」

会期:2014/08/02~2014/08/31

流山市生涯学習センター1階小ギャラリー[千葉県]

劉敏史(ユウ・ミンサ)は高度な思考力と実践力を合わせ持った写真作家である。その実力は2005年にビジュアルアーツフォトアワードを受賞した「ユピクヰタスキアム(果実)」のシリーズや、2009年にAKAAKAで展示された「─270.42℃ My cold field」でも、存分に発揮されていた。
今回、流山市生涯学習センターで展示された新作「存在と匿名(self, others, incognito)」は、仮面をつけた人物のポートレイトのシリーズである。劉は会場に掲げられたコメントで「制作や創作の結果としての作品を目指すのではなく、ただ「なる」ということに結実した作品を手にできないか」と書いている。また自己と他者、内面と外面の関係を突き詰めた結果として「これ程身近にありながら一向に把握することのできない自己という現象とそれ以外のもの。それならばいっそ隠してしまえと目を伏せた」とも書く。このような思考を経て、仮面という両義的な装置に辿りついたというのは充分に納得できることで、結果的に日常的な場面でありながら、どこか異界にするりと抜け出てしまうような怖さを秘めたポートレイト群が出現してきた。ただ展示されている数が、仮面そのものを撮影した写真も含めて14点とまだ少ないので、これから先、さらに大きく発展していく可能性を秘めたシリーズといえるのではないだろうか。
これらの作品の被写体となっているは流山の市民なのだという。どうやら撮影から展示に至るプロセスは、演出家の小池博史との共同作業のようだが、それが今後どんなふうに展開していくのかも楽しみだ。

2014/08/30(土)(飯沢耕太郎)

TWS-Emerging 2014

会期:2014/08/09~2015/02/01

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

これまでTWS本郷で開かれてきた「エマージング展」が渋谷に移った。オフィスとレジデンス施設も青山から撤退したし、都知事が交代してからいろいろ変動があるようだ。ともあれ今回は絵画2人、立体1人の3人展。清水香帆は、競技場のようにも見える左右対称や回転対称の幾何学的形態を、少しずらして薄塗りで描いている。衣真一郎は反対に、風景らしきものをコテコテと厚塗りで仕上げている。本田アヤノは、いかにもこの世にひとつしかなさそうなポップで表現主義的な立体を、四つ同じようにつくって並べている。みんなそれぞれ違うけど、みんなちょっと表現主義的で、抽象とか具象とかにわけられないし、みんな少しずつ既視感があって、なんとなくみんな似てる。

2014/08/29(金)(村田真)

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長野陽一「大根は4センチくらいの厚さの輪切りにし、」

会期:2014/08/19~2014/09/05

ガーディアン・ガーデン[東京都]

長野陽一は1998年に沖縄・奄美諸島に住む10代の少年・少女のポートレイトのシリーズを、「人間の街」プロジェクトの一環としてガーディアン・ガーデンで展示した。今回の展示はそれから16年を経て、かつて同会場で展覧会を開催した写真家の「その後」をフォローする「セカンド・ステージ」という枠での企画になる。会場には78点の料理写真が整然と並んでいた。
長野が料理写真を本格的に撮影するようになったのは、2002年に創刊された雑誌『ku:nel』で料理のページを担当するようになってからだ。試行錯誤の末、彼が見出していったのは「料理の美味しさだけでなくその背景にある人やストーリーが撮りたい」ということだった。たしかに、普通、料理写真といえば、最終的に出来上がった時の形状をしっかりと読者に伝わるように撮影することにこだわったものが多い。長野の料理写真も、たしかにそれがどのような「見かけ」なのかを正確に写し取っている。だが、決してそれだけではなく、彼の写真には料理がどのような状況で、どんな風に作られてきたのか、そのプロセスを読者にいきいきと伝える力が備わっているように思える。その秘訣が何なのかを答えるのは、けっこうむずかしい。だが、どの写真を見ても、その場にある光(自然光、白熱灯、蛍光灯など)を使い、余分な要素をカットしてシンプルに、しかも素っ気ない感じを与えないように愛情を込めて撮影することで、料理写真でもその「行間」を読み取らせることが可能になるのではないだろうか。
料理写真も「撮られた理由や実用性を切り離して一枚の絵としてみると、ポートレイト写真と似ている」というのが、長野が長年にわたる模索を経て導きだした結論だ。たしかに、彼の写真は「一枚の絵」としての強度、完成度がとても高い。しかも写真の見せ方に、それぞれの料理の個性や性格を「ポートレイト写真」としてしっかり捉えようとしている様子がうかがえる。この方向性を、さらに究めていってほしいものだ。

2014/08/29(金)(飯沢耕太郎)

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中島麦 BECOME THE RESIDENT of KITAHAMA N BLDG. produced by infx

会期:2014/08/01~2014/08/27(予約制オープンアトリエ)、2014/08/28~2014/08/31(オープンアトリエ)、2014/09/01~2014/09/15(アトリエ展示公開)

KITAHAMA N BLDG.[大阪府]

画家の中島麦が、大阪・北浜の商業ビル地階の空きテナントに自身のアトリエを一時移転させ、1カ月半にわたりオープンアトリエと公開制作と作品展示を行なった。何もないまっさらな空間に画材や備品が持ち込まれ、日々制作を積み重ねるうちに、壁面には作品が、床には絵具の染みが広がっていく。一作家の創造の過程をこれほど長期間にわたり公開するケースは稀であり、場所が交通至便な大阪市内中心部だったことも幸いしたのであろう。入口付近の壁面は来訪者がサインを記したカードで埋め尽くされ、多くの人に支持されていたことが窺えた。と言っても、事前に大々的な告知を行なったわけではない。SNSによる口コミの輪が徐々に広がっていったのだ。このイベントの成功を機に、大阪市内中心部で同様の催しが広まることを期待する。

2014/08/28(木)(小吹隆文)