2021年09月15日号
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artscapeレビュー

太田三郎 個展「POST WAR 69 戦争遺児」

2014年10月01日号

会期:2014/08/11~2014/08/23

コバヤシ画廊[東京都]

「切手」で知られる太田三郎の個展。タイトルにあるように戦争遺児たちの肖像の切手作品を発表した。
それぞれのモノクロ写真と名前、そして戦後69年の「69」が記されている点は共通している。異なっているのは、切手シートの下欄に書かれた個人的なエピソード。太田が彼らに取材した内容が短い文章で的確にまとめられている。
心ならずも戦争遺児として戦後を生き抜いてきたそれぞれの歴史。そこには陰惨な差別への憤りや親の愛への渇望、戦争への憎しみが凝縮している。なかには、現在の悪化する日中韓関係や集団的自衛権の是非について言及している者もいる。当人の顔が切手に印刷されているので、あたかも当人がこちらに語りかけているように錯覚するほどだ。戦争体験者の声が、切手に載せられて、こちらに確かに届けられているのだ。
興味深いのは、この作品において太田本人の作家性が最小限まで切り詰められている点である。太田は、特定の彼らの声を特定のあなたへ届ける媒介物としての作品をつくってはいるが、しかし、制作者としての存在を主張しているわけではない。むしろ、両者の関係性を演出しつつも、両者が交通する瞬間には身を隠す、いわば「消滅する媒介者」なのだ。
歴史という関係性は途切れやすく、傷つきやすい。戦争遺児に関わらず、戦争体験者の声が届けられる機会は希少である。そのとき、アートに可能なことは限られてはいるが、太田の作品はひとつの有効なモデルを示した。

2014/08/21(木)(福住廉)

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