artscapeレビュー

高木こずえ「琵琶島」

2014年09月15日号

会期:2014/07/31~2014/09/16

キヤノンギャラリーS[東京都]

高木こずえは2012年に「琵琶島」と題する高さ12メートル、約300枚の写真から成るという巨大コラージュ作品を完成させた。東京工芸大学の本館に設置されたこの「琵琶島」は、でき上がってみると「遠い過去の遺跡のような、見知らぬ物体」に思えてきたのだという。今回、東京・品川のキヤノンギャラリーSでの「琵琶島」展は、その後日譚とでもいうべきもので、コラージュ作品「琵琶島」を形成する「あらゆる写真を観察し想像し再現することで生み出された写真」である。もともと「琵琶島」を制作するきっかけになったのは、高木が長野県北部の同地にある遺跡発掘調査にかかわったことであり、今回の試みはそうやってでき上がった作品の「再発掘」の試みといえそうだ。
今回の「琵琶島」は6層の写真群を下から上に積み上げる形になっていた。「1─「琵琶島」の制作に使われた写真、2-1をコラージュしていく過程で現れた断片の写真、3-完成した「琵琶島」の部分の写真、4-1、2、3から「琵琶島」の世界を想像し、それを再現しようと試みる中で生まれたモノたちの写真、5-1、2、3から想像したイメージを再現した写真、6-1~5を、油絵の具によって写し取った絵画の写真」という6つのパートが積み重なっているのだ。つまり、今回の「琵琶島」展はあるイメージが生成、定着していくプロセスを辿り直しつつ、さらなる未知の世界を探求しようという意欲的な試みで、床から天井まで貼り巡らされた6層、約300枚の写真で構成されていた。
プリントの大きさが同一であること、グリッド状の規則正しい積み上げ方、インクジェット・プリントの生っぽい色味とペーパーのつるつるとした質感など、これでいいのかと思う所はないわけではない。だが、たとえば「観察し想像し再現する」プロセスで突然出現してきた「お面」を思わせる男女の顔のイメージなど、「再発掘」が高木に与えた衝撃を追体験することができた。2011年に東京から故郷の長野県諏訪市に拠点を移してからの高木の活動は、考古学、民俗学、人類学などの知的な探求を取り込んで拡大していった。それがいま豊かな成果を生み出しつつあることがよくわかった。

2014/08/02(土)(飯沢耕太郎)

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