artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
プレビュー:アール・ブリュット☆アート☆日本
会期:2014/03/01~2014/03/23
ボーダレス・アートミュージアムNO-MAなど近江八幡市重要伝統建造物保存地区の8会場[滋賀県]
江戸時代以来の古い街並みで知られる滋賀県近江八幡市の重要伝統建造物群保存地区。同地区に存在するボーダレス・アートミュージアムNO-MAは、日本のアール・ブリュットを語るうえで欠かせない拠点施設だ。その活動はアール・ブリュット作品と現代アート作品を共に展示するのが特徴で、障害者と健常者などさまざまなボーダーを乗り越えていくことをテーマにしている。同館の開館10周年を記念して、同館と近隣の町家など8カ所を会場にした大規模な展覧会が催される。出品作家は、澤田真一、松本寛庸、伊藤喜彦、今村花子など、日本のアール・ブリュットを代表する面々がずらり。また、台湾のアール・ブリュット作品が特別出展される他、日比野克彦も参加し、総勢35作家・500点以上が集う一大展覧会となる。
2014/02/20(木)(小吹隆文)
MOTOKI「FIRST EXHIBITION SUMO」
会期:2014/02/07~2014/03/08
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
面白い「新人」が登場してきた。独学で写真作品を制作・発表していたMOTOKIは、50歳代の女性写真家で、2児の母親、弁理士としての顔も持っているのだという。この「SUMO」というシリーズは、昨年、靖国神社の奉納相撲をたまたま見て「裸体の力士が戦う姿は神聖であり、神秘的」と感じたことをきっかけにスタートした。たしかに古来相撲は神事としての側面を持ち、巨大な体躯の力士たちが四股を踏み、塩をまき、互いに組み合う姿は、ある種の宗教的な儀式を思わせる。MOTOKIはその様子を、写真の画面の大部分を黒の中に沈め、ブレの効果を多用することで、象徴的な画像として表現した。その狙いはうまくいって、独特の静謐な雰囲気を醸し出す魅力的なシリーズとして成立していると思う。
思い出したのは、奈良原一高が1970年に刊行した写真集『ジャパネスク』(毎日新聞社)である。奈良原は1960年代前半にパリを拠点としてヨーロッパ各地に滞在し、65年の帰国後にこのシリーズを構想した。禅、能楽、相撲、日本刀などの伝統的な日本文化のエッセンスを、むしろ欧米からの旅行者のようなエキゾチックな視点でとらえている。MOTOKIのこの作品は、もしかすると新たな『ジャパネスク』として大きく育っていく可能性を秘めているのではないだろうか。相撲だけでなく、広く他の被写体にも目を向けて、日本文化の「かたち」を視覚的に再構築していってほしいものだ。今回の展示が彼女の初個展だそうだが、すでにインドに10年間通い続けて撮影した「野良犬」のシリーズなどもあり、意欲的に作家活動を展開していくための条件は整っているのではないかと思う。
2014/02/19(水)(飯沢耕太郎)
中里和人「光ノ気圏」
会期:2014/02/17~2014/03/01
巷房[東京都]
闇の向こうから光が射し込んでくるトンネルのような場所は、写真の被写体として魅力があるだけではなく、どこかわれわれの根源的な記憶や感情を呼び覚ますところがある。太古の人類が洞窟で暮らしていた頃の感情や、母親の胎内からこの世にあらわれ出てきたときの記憶が、そこに浮上してくるというのは考え過ぎだろうか。中里和人は、これまでも都市や自然の景観に潜む集合記憶を、写真を通じて探り出そうとしてきたが、今回、その格好の素材を見つけだすことができたのではないかと思う。
中里が撮影したのは、千葉県の房総半島中央部と新潟県十日町市に点在する素掘りのトンネルである。泥岩や凝灰岩などの柔らかい地層を掘り抜いて、川と川とを結ぶ水路を確保し、田んぼに水を引くことを目的としてつくられたトンネルが、この地方にたくさん残っていることを偶然知り、2001年頃から撮影を続けてきた。水が今でも流れているトンネルと、乾いてしまったトンネルとがあるのだが、いずれも岩を削り取った鑿の痕が生々しく残っており、どこか有機的で生々しい生命力を感じさせる眺めだ。そこに射し込む光もまたきわめて物質性が強く、闇とのせめぎあいによって、たしかに「太古の風景、未来の時空と自在に往還できる」と感じさせるような力を発している。
中里のカメラワークは的確に被写体の魅力を捉え切っているが、欲を言えば写真のプリントにもより強い手触り感がほしかった。
2014/02/18(火)(飯沢耕太郎)
新野洋 展「幻想採集室」
会期:2014/02/18~2014/03/08
YOD Gallery[大阪府]
野山の花や実などを採集・観察し、それらを型取りして樹脂成型したパーツを組み合わせて、架空の昆虫オブジェを制作する新野洋。本展の新作はどれも球形で、作風を一新したと思われた。しかし、ディテールをよく見ると、それらは6本足の昆虫の集合体であり、作品の本質は変わらないことがわかる。このような作品が生まれたのは、彼が以前住んでいた住宅地から、京都と奈良の県境に位置する山村へと移住したことが大きく影響している。より濃密な自然に囲まれた地域に住むことで、相互関連的な自然界の姿を反映した造形が出現したのだ。新たな制作環境を得た新野が、今後どのように作品を発展させるのか楽しみだ。
2014/02/18(火)(小吹隆文)
カタログ&ブックス│2014年2月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
torii
シリーズ[torii]は、「日本の国境の外側に残された鳥居」を撮影した下道基行の代表作のひとつ。前作写真集「戦争のかたち」(リトルモア)から8年、韓国光州ビエンナーレ2012での新人賞受賞や東京都現代美術館での企画展「MOTアニュアル2012/風が吹けば桶屋が儲かる」などで話題になった本シリーズが写真集になります。未発表も含む30点の写真、他にも台湾日記や取材メモなどフィールドワークの記録も掲載。シリーズの集大成。装丁は新進気鋭のデザイナー橋詰宗氏、プリンティングディレクターは熊倉桂三氏。[Michi Laboratoryサイトより]
うさぎスマッシュ 世界に触れるアートとデザイン
社会がより複雑化した21世紀に入り、デザインも大きな変化を遂げています。絶え間なく消費される「新しさ」を生むデザインとは異なり、社会に対する人々の意識に変化を与えるデザインが、今より重要性を増しているといえます。東京都現代美術館での展覧会「うさぎスマッシュ─世界に触れるアートとデザイン」では、そのようなデザインの実践に焦点を当て、高度に情報化された現代社会の様々な出来事を取り上げ、私たちの手にとれる形にデザインして届ける国内外のデザイナー、アーティスト、建築家、21組の表現を紹介します。[フィルムアート社サイトより]
福永敦展「ハリーバリーコーラス─まちなかの交響、墨田と浅草」ドキュメント
今回福永が注目するのは、東京下町の代名詞、墨田と浅草エリア。そこで集めた音を素材に、アサヒ・アートスクエアの空間を、合唱のような「音声」で満たされた体験型インスタレーション作品に変換します。この土地の様々な地域性や、ときに時代性が混じり合う、多様な文化の音風景があなたの前に立ち上がります。[Asahi Art Squareサイトより]
犬のための建築
犬のための建築は、今や人間にとって最も身近なパートナーとなった犬の尺度で建築(環境)を捉えなおすことで新たな建築の可能性を模索するとともに、人と犬との新しいコミュニケーションのかたちを提案するプロジェクトです。...本書では作家による作品解説の他、制作過程のアイディア、そして実際につくることができる図面やつくり方も掲載。また、原研哉氏と、本プロジェクトを共同企画した米投資会社のImprint Venture Lab代表取締役のジュリア・ファング氏、そして参加作家のひとりである藤本壮介氏の3人による鼎談も収録。藤本氏の作品「NO DOG, NO LIFE!」の制作秘話も明かされます。[TOTO出版サイトより]
福島第一原発観光地化計画
本書は、標題のとおり、二〇一一年の三月に深刻な事故を起こした福島第一原子力発電所の跡地と周辺地域を、後世のため「観光地化」するべきだ、という提言書です。「観光地化」とは、ここでは、事故跡地を観光客へ開放し、だれもが見ることができる、見たいと思う場所にするという意味で用いています。遊園地を作る、温泉を掘るという短絡的な意味ではありません。[本書「福島第一原発観光地化計画とは」より]
2014/02/17(月)(artscape編集部)