artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
松本秋則展「風の演奏会」
会期:2014/02/03~2014/02/12
ストライプハウスビルM、Bフロア[東京都]
竹と和紙とモーターだけを使ったサウンドオブジェ。昨秋にもストライプハウスギャラリーで個展を開いたばかりだが、今回はギャラリーではなく、地下と半地下の2フロアを使った大規模なインスタレーションを見せている。じつはここにも再開発の波が押し寄せていて、ビルの空いたスペースを使って思い切った展示をしてもらおうとのことらしい。半地下は通りに面した窓から自然光が差し込むが、地下はわずかな照明で影を生かした展示になっている。コンピュータを使わずタイマーで動きと音を制御しているせいか、コロコロコロ……サラサラサラ……という自然音が優しく響く。
2014/02/12(水)(村田真)
わが愛憎の画家たち──針生一郎と戦後美術
会期:2015/01/31~2015/03/22
宮城県美術館[宮城県]
宮城県美術館「針生一郎と戦後美術」展を鑑賞する。仙台出身の批評家の活動を軸に、展覧会を構成する面白い試みだ。針生のノートや、彼が企画した展覧会の内容なども紹介する。それぞれの絵画のキャプションが、彼の批評から抜粋したものなので、通常の展覧会とは違い、じっくり読み込む楽しみがある。文章こそが、重要な展示になるからだ。全体としては、社会との関わりから切り込む言説なので、具象系の絵画が多い。展示された作品のなかでは、麻生三郎が別格の作家だと思う。
2014/02/12(木)(五十嵐太郎)
松原健「反復」
会期:2014/02/07~2014/02/28
MA2 Gallery[東京都]
大森克己の「sounds and things」とともに、東京都写真美術館の「第6回恵比寿映像祭」(2月7日~23日)の関連プログラムとして開催された本展は、松原健にとっては同ギャラリーでの2年ぶりの個展となる。松原は、これまでも「人々の記憶が泌み込んだ写真や動画」にこだわり続けてきたが、今回の新作展ではそれがより多彩に、技術的にもより高度に洗練された形で実現されていた。
2階の会場に展示されていた「Hotel Continental Saigon」と「Potsdamer Platz」は、ベトナム、ホーチミン・シティの歴史的なホテルとドイツ・ベルリンのポツダム広場を背景に撮影された古写真と、同じ場所の最近の映像とを対比させる作品。1階の作品「Round Chair」では、水が入った複数のグラスが丸椅子の上に置かれ、その底でガラスの器が割れたり、少女が川の流れの中を遡ったりといった映像が揺らめく。これらの作品を通じて、松原はキェルケゴールの「反復と追憶とは同一の運動である、ただ方向が反対であるというだけなのである」というテーゼを、観客へ問いかけようとする。哲学的な作品だが、本やグラスや椅子のような日常的な事物を効果的に使うことで、こけおどしの重苦しさは注意深く避けられている。むしろ誰もが自らの記憶の奥底にあるイメージと重ね合わせることができるような、親しみやすい仕掛けが凝らされていると言えるだろう。
松原の作品のクオリティの高さは特筆すべきだと思うが、残念なことに日本の現代美術、写真関係者の反応は鈍い。むしろ近年はアメリカやヨーロッパでの展覧会が相次ぎ、評価が高まりつつある。日本のアート・シーンでは、どうしても若手に目が行きがちだが、彼のように長く、コンスタントに作品を発表し続けてきた中堅作家もきちんとフォローしていくべきではないだろうか。
2014/02/09(日)(飯沢耕太郎)
大森克己「sounds and things」
会期:2014/02/06~2014/03/09
MEM[東京都]
大森克己は音に敏感な「耳のいい」写真家だと思う。1994年に「写真新世紀」で優秀賞を受賞してデビューするのだが、そのときの作品はロック・バンドと一緒にヨーロッパや南米をツアーした旅日記だった。障害者のバンドを題材にした『サルサ・ガムテープ』(1998)という作品もある。音楽にかかわる人々や現場を撮影することが多いというだけでなく、大森は被写体を無音の事物として画面に凍りつかせることなく、それらをその周囲を取りまくノイズごと受け入れようとする姿勢が強いのではないだろうか。
その傾向は、今回のMEMでの個展にもはっきりと表われていた。「シューベルト 未完成交響曲の練習/うらやすジュニアオーケストラ」(2013)、メトロノームと管楽器を手にした少年を撮影した「black eyes and things」(2013)といった、音楽に直接的に関係する作品だけでなく、「耳を塞ぐ、そして耳を澄ます」(2013)、「呼びかけの声」(2013)といった「sounds」をはっきりと意識したタイトルの作品もある。むろん、視覚的な媒体である写真で聴覚的な体験をストレートに表現するのは不可能だが、大森はあえて色、形、光、空気感などを総動員して、画面から「聞こえない」音を立ち上がらせようとする。それを肩肘張らず軽やかにやってのけるのが、大森の写真術の真骨頂と言えるだろう。
今回の展示作品は新作が中心だが、2004年頃から折に触れて撮影してきた写真も含まれている。このところ、震災後の桜を撮影した『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー、2011)など、特定のテーマでまとめた作品を発表することが多かった大森だが、彼の写真行為のベースが、このような日々のスナップショットの積み重ねであることがよくわかった。
2014/02/09(日)(飯沢耕太郎)
嵯峨芸術大学第42回制作展
会期:2014/02/05~2014/02/09
京都市美術館[京都府]
京都では恒例の各大学の卒業制作展のシーズン。2月に入り、最初に始まったのは京都嵯峨芸術大学の制作展で、京都市美術館に芸術学部4回生、大学院生、短期大学部2回生、専攻科生の作品が展示された。同大学の芸術学部は、日本画、油画、版画、彫刻、工芸、メディアアートからなる造形学科と、イラストレーションや生活デザイン、観光デザイン、グラフィック、映像などを学ぶデザイン学科の二学科に分かれている。展示は全般に私が期待していたより低調な印象で、また、昨年も同様に感じたのだが、どちらかというと造形学科よりも観光デザインや生活デザインなど、デザイン学科の学生たちの作品のほうがコンセプトや完成度においても目を引いた。若い人たちのイマジネーションや創作意欲について思うことが多かった会場。面白かったのはメディアデザイン学科・川上達弘の《The cubes 子ども達のための総合的知育玩具の提案》。大きなキューブに取り付けられた赤、青、黄、白、緑の5色の「引出し」を開けるとそれぞれに小さな玩具が入っていたり仕掛けが組まれているという作品なのだが、視覚や触覚、好奇心などの感覚だけでなく記憶のイメージも刺激するから子どもだけでなく大人も魅せられる。実際そこで、くまなく引き出しを開閉していた年輩の鑑賞者を見かけたのだが、そんな光景も楽しい作品だった。
2014/02/09(日)(酒井千穂)