artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
第6回恵比寿映像祭 トゥルーカラーズ
会期:2014/02/07~2014/02/23
東京都写真美術館[東京都]
注目したのは、カミーユ・アンロによる《偉大なる疲労》(2013)。インターネット上から博物学的ないしは宇宙論的なイメージを渉猟し、それらを再構成することで創世記の神話を物語った。
複数のウィンドウが重なるディスプレイを画面に導入したり、ヒップホップのラッパーに神話を唄わせたり、いかにも今日的な映像の質が興味深い。いかなる物語であれメディアが時代にそぐわなくなれば伝達力を急速に失ってしまうことを思うと、おそらく神話の最適化を図ったのだろう。
ただ、問題なのはその内容の大半をすでに覚えていないことだ。確かに映像というメディアにリアリティはある。けれども、その一方で氾濫する映像はたちまち忘却の彼方に消え去ってしまう。イメージは辛うじて残るかもしれないが、言葉や意味はほとんど残らない。
おそらく作者はそのことを重々承知しているのだろう。皮肉に富んだ作品のタイトルは、編集作業に費やした膨大な時間と労力に加えて、報われにくい映像の特性をも暗示しているように思われた。
2014/02/21(金)(福住廉)
イメージの力──国立民族学博物館コレクションにさぐる
会期:2014/02/19~2014/06/09
国立新美術館 企画展示室2E[東京都]
とても刺激的な展覧会だった。大阪・千里万博公園の国立民族学博物館が収蔵する34万点もの民族資料から、約600点を選りすぐって展示している。「プロローグ─視線のありか」のパートに並ぶ世界各地のマスクから、「第1章 みえないもののイメージ」「第2章 イメージの力学」「第3章 イメージとたわむれる」「第4章 イメージの翻訳」「エピローグ─見出されたイメージ」と続く展示は、圧巻としか言いようがない。目玉が飛び出し、口が裂け、体のあちこちが極端にデフォルメされたマスクや神像は、リアルな再現性からはほど遠いものだ。にもかかわらず、それらは魂の奥底に食い込み、始源的な記憶を引き出してくるような強烈なパワーを発している。これらのコレクションを見たあとは、並みの現代美術などは吹き飛んでしまうのではないだろうか。
考えたのは、このような民族資料を写真として提示するときにはどのような形がいいのかということだ。本展のカタログにも展示物の写真が掲載されているが、典型的な白バックの物撮り写真で、面白みはまったくない。たしかに、出品物の外観は細部まできちんと捉えられているが、あの圧倒的なパワーが完全に抜け落ちてしまっているのだ。理想をいえば、マスクや衣装や装飾品は、それらを実際に使用している人たちに、その場で身につけてもらって撮影したい。彫像なども現地の環境で見ると、まったく違った印象を与えるのではないだろうか。ちょうど津田直のサーメランドの写真のなかに、民族衣装を身につけた住人の素晴らしいポートレートがあったのを見た直後だったので、余計にそう感じてしまった。
2014/02/21(金)(飯沢耕太郎)
津田直「SAMELAND」
会期:2014/02/14~2014/03/06
POST[東京都]
先日、シカゴに行くため成田空港に出かけたときに、津田直にばったり出会った。聞けば、これからミャンマーの奥地に出発するのだという。その偶然の邂逅に大して驚きもしなかったのは、彼が旅を日常としていることをよく知っているからだ。何かに取り憑かれたようにと言いたくなるほど、あちこちに出かけている。その行動範囲の広さは日本の写真家のなかでも際立っているのではないだろうか。
今回彼が旅立ったのは、北極圏のサーメランド。フィンランドとノルウェーにまたがる地域に住むサーメ人たちの居住地である。彼らはトナカイの遊牧を主たる業として、伝統的な暮らしを営んでいる。津田はニールスというシャーマンの血を引く男と出会い、サーメ人たちとの交友を深めつつ、ノルウェー最北端の岬、ノールカップへと向かう。よき導き手を見出す(というより引き寄せる)能力の高さこそ、写真家としての津田の最も優れた資質であり、旅の間に撮影された風景や、ポロ・メルキトゥスと呼ばれるトナカイの親子を選別する行事の写真は、絶対的な確信を持って撮影されているように感じる。
今回の作品はメインの会場に5点。これらはどこか向こう側に連れ去られてしまいそうな、魅力的な風景写真である。さらに書店の本棚の隙間などに、サーメ人のポートレートを中心に8点がバラバラに並ぶ。この展示のたたずまいが実にいい。観客もまた、津田がサーメランドで経験した出会いを追体験できるように仕組まれているのだ。
2014/02/21(金)(飯沢耕太郎)
山谷佑介「Tsugi no yoru e」
会期:2014/02/12~2014/03/05
YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]
ギャラリーの壁には8×10判のモノクロームのプリントが51点、アルバムのページを開いたような雰囲気で並んでいる。1985年、新潟生まれの山谷佑介の写真のスタイルは、まさに正統的なストリート・スナップだ。「Tsugi no yoru e」は大阪のアメリカ村界隈を中心に撮影されたシリーズだが、写真そのものの印象は時代や地域を超越している。見方によっては、エド・ファン・デル・エルスケンの「セーヌ左岸の恋」、ブルース・デビッドソンの「ブルックリン・ギャング」、ラリー・クラークの「タルサ」など、1950~70年代のユース・カルチャーを主題にしたプライヴェート・ドキュメントと、ストレートにつながっているようでもある。しかも、山谷のカメラワークやプリントワークはすでにかなり高度な段階にあり、若さに似合わない老練さすら感じられる。
ということは、大事なのはまさに「Tsugi no」作品ということになるのだろう。目の前に次々に出現してくる状況を的確な技術で把握し、スタイリッシュな画面にまとめ上げていく能力の高さは今回の展示で充分に証明されたのだから、次作でそれをどんなふうに発展させていくのか、あるいは停滞してしまうのかが問われることになる。センスのよさだけで評価される時期は意外に短い。どこで、どんなふうに撮影するのか、次なる展開に向けて、着々と準備を整えてほしいものだ。なお、本展は2013年に山谷が自費出版した同名の写真集に収録された写真をもとに構成された。黒い布をパッチワークのように繋ぎ合わせたユニークな表紙の写真集は、すでに完売しているという。
2014/02/20(木)(飯沢耕太郎)
MONO-HA by ANZAI
会期:2014/01/17~2014/02/22
ZEIT-FOTO SALON[東京都]
李禹煥、関根伸夫、菅木志雄、小清水漸、吉田克朗、榎倉康二、高山登、原口典之ら「もの派」とその周辺の作家たちの70年代の作品や、イヴェント(イベントでもパフォーマンスでもない)を記録した写真の展示。すべてモノクロームなのは、カラーフィルムを買うお金がなかったからではなく(それもあるかもしれないが)、もの派だからだ。貴重なアーカイブであると同時に、安齊さんの初期作品としても高く評価したい。タイトルが英語表記なのは伊達ではなく、海外での評価の高まりを受けたものだろう。
2014/02/20(木)(村田真)