2020年10月15日号
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artscapeレビュー

中里和人「光ノ気圏」

2014年03月15日号

会期:2014/02/17~2014/03/01

巷房[東京都]

闇の向こうから光が射し込んでくるトンネルのような場所は、写真の被写体として魅力があるだけではなく、どこかわれわれの根源的な記憶や感情を呼び覚ますところがある。太古の人類が洞窟で暮らしていた頃の感情や、母親の胎内からこの世にあらわれ出てきたときの記憶が、そこに浮上してくるというのは考え過ぎだろうか。中里和人は、これまでも都市や自然の景観に潜む集合記憶を、写真を通じて探り出そうとしてきたが、今回、その格好の素材を見つけだすことができたのではないかと思う。
中里が撮影したのは、千葉県の房総半島中央部と新潟県十日町市に点在する素掘りのトンネルである。泥岩や凝灰岩などの柔らかい地層を掘り抜いて、川と川とを結ぶ水路を確保し、田んぼに水を引くことを目的としてつくられたトンネルが、この地方にたくさん残っていることを偶然知り、2001年頃から撮影を続けてきた。水が今でも流れているトンネルと、乾いてしまったトンネルとがあるのだが、いずれも岩を削り取った鑿の痕が生々しく残っており、どこか有機的で生々しい生命力を感じさせる眺めだ。そこに射し込む光もまたきわめて物質性が強く、闇とのせめぎあいによって、たしかに「太古の風景、未来の時空と自在に往還できる」と感じさせるような力を発している。
中里のカメラワークは的確に被写体の魅力を捉え切っているが、欲を言えば写真のプリントにもより強い手触り感がほしかった。

2014/02/18(火)(飯沢耕太郎)

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