artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
MONSTER Exhibition 2014
会期:2014/03/08~2014/03/12
渋谷ヒカリエ 8/COURT[東京都]
渋谷ヒカリエの8階へ。大学院生の論文から頭を切り換え、今度は庄司みゆきが企画した、さまざまな怪獣が集合するMONSTER展のオープニングにて審査を行なう。去年に続き二回目だが、全体の出品作のクオリティは上がっている。また作品のカタログも制作され、展覧会としても進化した。投票した宮崎宏康のひらがな FIGURESは、他の票も集めており、最優秀賞となった。デザインとしての怪獣はカッコよさが勝負だが、ここではアートとしての怪獣を重視した。すなわち、彼だけが怪獣的なかたちを一切模倣・反復せず、「がおーきゃー」という音を三次元化している。日本で独自に発達した怪獣文化を擬声語で表現しているのだ。1954年のゴジラ第一作(半世紀続く世界で希有な同シリーズの最高傑作)は日本の戦争体験が生み出した怪獣だが、MONSTER展も、実は東日本大震災を契機に仙台から企画がスタートしたものである。今後、どんな怪獣が生まれるのか楽しみだ。出品作はニューヨークでも展示される予定。筆者くらいの世代だと、最初の怪獣との遭遇はウルトラマンになる。これは結構重要な体験で、何かデザインされたものの形が面白いと最初に感じたのは、テレビで見る怪獣たちだった。いわば原体験である。ゴッホやピカソを美術書や展覧会で見るのではなく、むしろ怪獣の造形によって先に洗礼を受けている。ただ、宮崎宏康のひらがなFIGURESは、さんざん出尽くした怪獣の視覚イメージを繰り返すよりも、むしろ映画『大怪獣東京に現わる』に近い。これは徹底して怪獣そのものを描かず、最後には怪獣が神話化し、祭り化していく物語だった。
写真:上=会場の様子。下=宮崎宏康《ひらがな Figures『が』『ぉ』『─』・『き』『ゃ』『─』》
2014/03/07(金)(五十嵐太郎)
野村佐紀子「sex/snow」
会期:2014/03/01~2014/03/18
Bギャラリー[東京都]
野村佐紀子(写真)、一花義広(リブロアルテ、写真集発行)、町口景(デザイン)、藤木洋介(Bギャラリー)のコラボによる写真展企画の第二弾。今回は物語性を強く意識した前作とは違って、野村佐紀子がここ20年あまりかけて積み上げてきた「闇─裸体─部屋」というテーマが、より深く追求されていた。男性の手、脚など身体の一部を、闇の中に宙吊りに浮かび上がらせるような眺めも手慣れたものだ。その意味では、意外性があまり感じられない展開と言えるが、「雪」というもうひとつのテーマ系との絡み(内と外の世界の対比)、大、中、小の写真36点をバランスよく配置した画面構成など、これまで以上に洗練された美意識を、細部まで手を抜かずに発揮している。
特筆すべきは、リブロアルテから同時期に発行された同名の写真集(300部限定)の出来栄えで、点数が43点に増え、写真の並びも写真集のページをめくっていく速度、感触にあわせるように、厳密かつふくらみのあるものになってきている。ここではグラフィック・デザインを担当した町口景(町口覚の弟)の能力が、充分に発揮されていると言えるだろう。どうやら、この野村佐紀子の連続展示は、内容的に一貫したものではなく、その度ごとに形を変えながら続いていくことが予想される。ただ、あまりいろいろな方向に分散してしまうのも、ちょっともったいない気がする。前にも書いたのだが、全体を眺め渡す視点から書かれたシナリオが必要になってくるのではないだろうか。
2014/03/07(金)(飯沢耕太郎)
誰もみたことのない内海信彦 展
会期:2014/03/03~2014/03/08
Gallery K[東京都]
1953年生まれの美術家・内海信彦が20代に描いた絵画作品を見せた個展。いずれも1970年代前半、美学校の中村宏油彩画工房でフランドル技法を学んでいた頃の作品だという。
絵画のモチーフは天変地異。大空を縦横無尽に走る雷やこちらに押し寄せる大津波、山頂から溢れ出る灼熱の溶岩。大地の裂け目は地震だろうか。赤いマントを羽織って佇む人物の顔が隠されているところも、よりいっそう不安を煽る。
しかし、そうした予言的な主題より何より注目したのは、画面の保存状態がきわめて良好だった点である。ひび割れはほとんど見当たらず、発色も当時と変わらないという。中村宏による堅実な指導のおかげで、これらの絵は40年という時の流れに逆らい続けているのだ。
はたして昨今の絵画は、同じように時間に抵抗する堅牢さを持ちえているのだろうか。
2014/03/07(金)(福住廉)
東學 墨絵展─墨の糸が織りなす、愛しき命たち─
会期:2014/03/04~2014/03/19
あべのハルカス近鉄本店ウイング館9階 SPACE 9[大阪府]
あべのハルカス近鉄本店(百貨店)のグランドオープンにより、新たに誕生した多目的空間「SPACE 9(スペースナイン)」。そのオープン第2弾として開催されたのが本展だ。東は演劇や舞台のポスター等で知られるアート・ディレクターであり、同時に墨画師としても活躍している。墨画は主に妖艶な女性たちによる耽美的な世界を描いており、面相筆による繊細な描写力と、迫力ある大画面の構成力が特徴である。本展でも全幅約11メートルの大作《花戰》をはじめとする大作5点と小品が展示されており、やや詰め込み過ぎではあったが、彼の世界を堪能することができた。これまでの仕事の関係か、彼の個展は演劇系の空間で行なわれることが多い。今後は美術館やギャラリーでも彼の大作を見たいものだ。
2014/03/07(金)(小吹隆文)
『東海道名所膝栗毛画帖』弥次喜多珍道中展
会期:2014/02/28~2014/03/30
佐川美術館[滋賀県]
日本画壇の裏を描いた黒川博行の小説『蒼煌』に、平安急便なる大手運送会社が設立した平安美術館という架空の美術館が登場する。政界との太いパイプを持つ社長が、人気日本画家の作品を300点も購入したものの、バブル崩壊で売るに売れなくなり、財団法人を設立して美術館を建てたというエピソードだ。もちろん佐川美術館とはなんの関係もないが、つい思い出してしまうのは、この美術館の母体が佐川急便で、目玉コレクションが300点を超す平山郁夫作品だから。でもそんな「予備知識」がなくても、訪れてみればバブリーな美術館に驚き、ド満足するはず。まず琵琶湖のほとりに位置する広大な敷地。隣にはSGホールディングスのスタジアムや体育館などを完備し、一大文化スポーツセンターになっている。人工池に囲まれるように建つ二棟の美術館は、わずかにアールのかかった切妻屋根とグレーを基調にしたシンプルなデザイン。常設は、入口に「平和の祈り」の看板を掲げた平山郁夫のほか、佐藤忠良の彫刻と素描、地下展示室の十五代樂吉左衛門の陶芸など。とくに樂吉左衛門の展示は、作品に比してディスプレイが大げさで微笑ましかった。もっとも心に残ったのは、もっともシンプルに展示されていた佐藤忠良の樹木を描いた素描だった。特別展示室でやってる「弥次喜多珍道中」は、大正期に制作された木版画『東海道名所膝栗毛画帖』全59場面を公開するもの。広重の『東海道五十三次』あたりを参照しつつ、近代的な視点・描法も採り入れてなかなか興味深い連作だった。しかしなぜ佐川で弥次喜多なのかと考えたら、そうか、街道を行く旅ものだからだ。
2014/03/02(日)(村田真)