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美術に関するレビュー/プレビュー

アンドレアス・グルスキー展

会期:2014/02/01~2014/05/11

国立国際美術館[大阪府]

過去にグルスキーの作品を見た経験はあるが、一度に51点も見たのは今回が初めて。おかげで今まで気づかなかったものが見えてきた。それは彼の作品が持つ“強制力”とでも言うべきものだ。グルスキーは「自分の作品にはメッセージはない」と言うが、実際に作品を見ると、彼が見たもの(見たかったもの?)をグイグイと押し付けてくる。観客の選択肢は、グルスキーの視線を100%受け入れるか拒絶するかの二通りしかなさそうだ。巨視と微視が同居する大画面には人間の視覚を超えた世界が広がっており、最初はその超越感に感動するが、やがて快感と閉塞感が入り混じった不思議な感情が頭をもたげてくる。その感じは、写真よりもミニマルアート作品が放つ圧迫感に近い。

2014/01/31(金)(小吹隆文)

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上田義彦「M. Sea」

会期:2014/01/21~2014/03/08

Gallery 916[東京都]

上田義彦の「Materia」シリーズも、森、川と続いて今回は海をテーマとしている。ピントを外した大画面の写真で「命の大元、Materia」を捉えるというもくろみは今回も貫かれているが、これまで以上に徹底したアプローチを見ることができた。10点の作品の画面の大部分は漆黒で、そこにほの白い飛沫と化した波と、岩のシルエットが微かに浮かび上がる。前にも指摘したことがあるが、上田のこのシリーズは被写体をMateria=物質として提示するあり方はむしろ希薄で、どちらかと言えば絵画性が強いように見えてしまう。だが、その方向性は、今回の作品で極限近くまで突き詰められている。19世紀~20世紀初頭のピクトリアリズムを志向する作品を巨大化した印象で、逆にその反時代的な姿勢が興味深かった。一点だけ、冬の日本海の荒海と岩礁を、ごく普通に撮影・プリントした写真が展示してあったが、その意図がよくつかめなかった。このままだと、他の作品の成り立ちを解説しているようにしか見えないからだ。
会場に併設するGallery 916 smallでは、同時に上田の新作「M. Venus」も展示されていた(5点)。こちらは「Materiaシリーズを撮り続ける中で私の網膜に時々出て来る遠い記憶の中の光景」である「森の中の女性」のイメージを再現した作品である。雪が降り積もる森の中に、赤いボートが置かれ、そこに金髪の裸体の女性の姿がぼんやりと浮かび上がる。その軽やかで官能的なイメージの飛翔が「M. Sea」とは対照的で、とても好ましいものに思えた。

2014/01/31(金)(飯沢耕太郎)

アンドレアス・グルスキー展

会期:2014/02/01~2014/05/11

国立国際美術館[大阪府]

2013年に東京(国立新美術館)で開催された写真家アンドレアス・グルスキー(1955- )の日本初の個展が大阪の国立国際美術館で始まった。今展はグルスキー自身が会場にて自ら厳選したという約50点で展示構成されている。展示数は東京会場よりも少ないのだが、その大型写真のスケールや構図、色鮮やかな作品の美しさが圧倒的でじつに壮観の眺め。見応えとその魅力を知るのに充分の内容であるしカタログも素晴らしい。会期は長いのでもう一度見に行きたい。

2014/01/31(金)(酒井千穂)

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チャールズ・ウォーゼン

会期:2014/01/17~2014/02/14

ギャラリーt[東京都]

ウレタン樹脂による彫刻が10点ほど。洋菓子か海中生物を思わせるユーモラスな形態と毒々しい色彩は、最初に知った4半世紀前と変わらない。丸っこくてデロンとした印象は、流動的なウレタンを成形するとき型にはめないで重力に任せたから。それを床置きと壁掛けの二刀流で見せている。ケッタイな彫刻だ。

2014/01/31(金)(村田真)

3331アラート!

会期:2014/01/25~2014/02/03

3331アーツ千代田[東京都]

3331で毎年開催している「千代田芸術祭」で受賞した11人による作品展。人体や自分の脳腫瘍のレントゲン写真をドローイングする桃源、布の上に編み目状のパターンを重ねて描いていく渡瀬愼也、20年間の自分を撮った写真をつなぎ合わせて映像にした古跡哲平、みずからの身体の記録と痕跡を死ぬまで作品化し続ける加瀬才子、などの作品に目が止まった。こうして選んでみると、ある共通する傾向が浮かんでくる。というより、ぼくの好みが浮き彫りにされるわけですが、それはモチーフを外に求めず内的欲求に従って再構築し、しかもそれを継続していくことですかね。でもほんとのことをいうと、いちばん心を揺さぶられたのは人形劇で使う絵や道具を出していた森脇ひとみの作品。人形劇はどうでもいいのだが、その絵がじつに屈託なく描かれていて、絵を描くこと、創作することの喜びが伝わってくるのだ。これに比べるとさきほど挙げた作品たちの貧相さが目についてしまう。崇高な貧相だけどね。

2014/01/31(金)(村田真)

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