artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
秋山祐徳太子大博覧会
会期:2014/01/09~2014/01/25
ギャラリー58[東京都]
芸大受験時の作品や受験票、武蔵美の卒業制作から、70年代に都知事選に立候補したときのポスターや写真、そのとき使ったスピーカー、「グリコ」ならぬ「ダリコ」のランニングセット、各種ブリキ彫刻、ライカ同盟の写真、新作のブリキの小判まで約250点。小品や資料が多いとはいえ点数だけでいえば美術館並み。銀座の画廊でやる数じゃないよ。お値段は最高70万円のブリキ彫刻から小判1枚1万円まで格安。それにしても都知事選が始まる絶妙のタイミング。ドクター中松より若いんだから、泡沫の「大御所」として立候補すればよかったのに。
2014/01/25(土)(村田真)
奥田善巳 展
会期:2013/11/23~2014/03/09
兵庫県立美術館[兵庫県]
名前は記憶になかったが、作品は関西で何度か見ていた。昭和ヒトケタ生まれで、60-70年代は概念的な平面作品をつくっていたが、80年代から2011年に亡くなるまで一貫して、黒地に単色の絵具(色はさまざま)でタッチを強調した抽象表現主義風の線描画を制作。晩年には塗り残された黒地がなにか記号のように浮かび上がり、地と図が反転した。こうして一堂に並べてみると壮観だが、1点1点味わうもんでもないし、21世紀にウケる作品ではないな。
2014/01/24(金)(村田真)
フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション
会期:2014/01/18~2014/03/23
兵庫県立美術館[兵庫県]
滋賀県に用があったので、ついでに神戸まで足を伸ばす。こちらのサブタイトルは「ポンピドゥー・センター・コレクション」。まずイントロダクションでダニエル・ビュレン、ゲルハルト・リヒター、ロバート・ライマンら20世紀の巨匠6人の作品を展示し、続いてPACメンバーによって集められた19人の「情熱の果実(フルーツ・オブ・パッション)」が紹介されている。年代で見ると、巨匠たちは1910-30年代生まれ、果実は40年代生まれのイザ・ゲンツケンとハンス・ペーター・フェルドマンを例外に60-80年代生まれで、なぜか50年代生まれがひとりもいない。で肝腎の作品だが、これもブリカンのコレクション展に似てロクでもないものも含まれている。イントロの巨匠たちがみなミニマル志向なのに対し、果実たちは色もかたちもあり、動いたり光ったり音が出たりにぎやか。つまりモダニズム対ポストモダニズムに分かれているのだが、後者はどこかものたりない。日常生活の様子を映し出すモニターを積み上げてアパートのように見せるレアンドロ・エルリッヒは、おもしろいけどそれだけだし、ガラクタを並べて光を当て壁に影を映すフェルドマンはクワクボリョウタみたいだし、エルネスト・ネトの吊るす作品とツェ・スーメイの映像作品は何度も見てるし。でも花火と砲火が錯綜するアンリ・サラの今回の映像はよかった。あと、マグナス・フォン・プレッセンとトーマス・シャイビッツはどちらも筆触を残した建築的な抽象絵画で、ちょっと目を惹く。しかもふたりともベルリン在住のドイツ人で、年齢も1歳違いしか違わない。調べてみて驚いた。なんとフランス生まれは19人中ひとりしかいない(パリを拠点にしているのは7人いるが、ベルリン拠点も同数いる)。さすが外国人に寛容と敬服すべきか、アーティストが育たないことに同情すべきか。
2014/01/24(金)(村田真)
ヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」
会期:2014/01/18~2014/03/15
WAKO WORKS OF ART[東京都]
ヴォルフガング・ティルマンスが、1990年代以来、写真表現の最前線を切り拓いてきた作家であることは言うまでもない。彼の周囲の現実世界のすべてを等価に見渡し、撮影してプリントした、大小の写真を壁に撒き散らすように展示していく彼のスタイルは、世界中の写真家たちに影響を与えてきた。東京・六本木のWAKO WORKS OF ARTで開催された新作展を見て、その彼がさらに先へ進もうとしていることを明確に感じとることができた。ティルマンスはやはりただ者ではない。彼のスタイルは固定されたものではなく、時代とともに、そして彼自身のライフ・スタイルの変化にともなって、フレキシブルに変容しつつあるのだ。
2012年に刊行された2冊の写真集『FESPA Digital: FRUIT LOGISTICA』と『Neue Welt』に、すでにその変貌の兆候がはっきりと刻みつけられていた。ティルマンスは、これらの写真を撮影するためにデジタルカメラを使用し、プリントもデジタルのインクジェット・プリンターで行なうようになった。その結果として、写真の撮り方、選択、レイアウトもまた、デジタル的な表層性、多層性をより強く意識させるようになってきている。清水穣が「『デスクトップ・タイプ』レイアウト」と呼ぶ、この「プリントアウトされた写真がテーブルの上で重なり合っているような、いくつものウィンドーを開いたデスクトップの画面のような」レイアウトは、今回の壁面の展示でも多面的に展開されている。銀塩=アナログの時代にはなかった新たな視覚的経験を、貪欲に形にしていくティルマンスの創作のスピードに追いつくのはなかなか難しいが、せめて彼の写真集や写真展を「スタンダード」として見る視点を、日本の若い写真家たちも持つべきではないだろうか。
2014/01/22(水)(飯沢耕太郎)
今道子「RECENT WORKS」
会期:2014/01/08~2014/03/01
フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]
10年あまりの沈黙の時期を経て、2011年に銀座・巷房での個展で復活を遂げてからの今道子の作品世界は、以前とはやや違った雰囲気を醸し出している。彼女のトレードマークというべき魚、鶏、野菜、果物等の「食べ物」を素材に、奇妙にリアルな手触りを備えたオブジェをつくり上げて撮影するスタイルに変化はない。だが、以前の作品に見られた、自らの特異な生理感覚を前面に押し出し、やや神経質に思えるほどにマニエリスム的な画面構成に執着する傾向は、少しずつ薄れてきているのではないだろうか。
今回のフォト・ギャラリー・インターナショナル(P.G.I)での個展に出品された「RECENT WORKS」(主に2013年に撮影)を見ると、どこかゆったりとした、のびやかな空気感が漂っているのを感じる。彼女の精神的な余裕、あるいは写真作家として長年培ってきた自信が、作品にほのぼのとしたユーモアをもたらしているのかもしれない。「白うさぎと目」のような作品は、不気味であるとともに実に愛らしくて、思わず笑ってしまうほどだ。といっても、決して手を抜いているわけではなく「骨のワンピース」のような大作では、エアブラシで絵の具を吹き付けて背景の布にタケノコの形を浮かび上がらせるといった工夫も凝らしている。
これらの新作も、そろそろ展覧会や写真集にまとめる時期に来ているのではないだろうか。1980年代以来の作品を、まとめて見ることができるような機会をぜひ実現してほしい。どこかの美術館に、ぜひ手を挙げていただきたいものだ。
2014/01/21(火)(飯沢耕太郎)