artscapeレビュー
ヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」
2014年02月15日号
会期:2014/01/18~2014/03/15
WAKO WORKS OF ART[東京都]
ヴォルフガング・ティルマンスが、1990年代以来、写真表現の最前線を切り拓いてきた作家であることは言うまでもない。彼の周囲の現実世界のすべてを等価に見渡し、撮影してプリントした、大小の写真を壁に撒き散らすように展示していく彼のスタイルは、世界中の写真家たちに影響を与えてきた。東京・六本木のWAKO WORKS OF ARTで開催された新作展を見て、その彼がさらに先へ進もうとしていることを明確に感じとることができた。ティルマンスはやはりただ者ではない。彼のスタイルは固定されたものではなく、時代とともに、そして彼自身のライフ・スタイルの変化にともなって、フレキシブルに変容しつつあるのだ。
2012年に刊行された2冊の写真集『FESPA Digital: FRUIT LOGISTICA』と『Neue Welt』に、すでにその変貌の兆候がはっきりと刻みつけられていた。ティルマンスは、これらの写真を撮影するためにデジタルカメラを使用し、プリントもデジタルのインクジェット・プリンターで行なうようになった。その結果として、写真の撮り方、選択、レイアウトもまた、デジタル的な表層性、多層性をより強く意識させるようになってきている。清水穣が「『デスクトップ・タイプ』レイアウト」と呼ぶ、この「プリントアウトされた写真がテーブルの上で重なり合っているような、いくつものウィンドーを開いたデスクトップの画面のような」レイアウトは、今回の壁面の展示でも多面的に展開されている。銀塩=アナログの時代にはなかった新たな視覚的経験を、貪欲に形にしていくティルマンスの創作のスピードに追いつくのはなかなか難しいが、せめて彼の写真集や写真展を「スタンダード」として見る視点を、日本の若い写真家たちも持つべきではないだろうか。
2014/01/22(水)(飯沢耕太郎)