artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

六本木クロッシング2013[アウト・オブ・ダウト]展

会期:2013/09/21~2013/01/13

森美術館[東京都]

出品作家は30代前後の若手を軸に、中村宏(81歳)、赤瀬川原平(76歳)、中平卓馬(75歳)、菅木志雄(69歳)ら70代前後の長老組がちらほら混じる奇妙な人選。中堅と呼べるのは柳幸典ただひとり。いいかえれば、70-90年代に登場し、いまもっとも脂ののっているアーティストたちがごっそり抜け落ちているということだ。なんでこんな奇妙な人選になったのか、というより、この奇妙な人選こそ今回の「クロッシング」の狙いなのかもしれないと思えてきた。たとえば、最初のほうに絵に描いたような社会批判を木版に彫る風間サチコが出品しているが、その隣に60-70年代の赤瀬川原平の風刺画を並べ、明らかに対比させている。昔こんなことやってた先輩がいるんだよと。そう考えると、ルーマニアに行って社会主義者を胴上げしたり、日本共産党にマルクスの肖像を掲げるよう頼みに行く丹羽良徳のパフォーマンスも、かつてだれかが似たことをやってたような気がしてくる。今回は出てないが「半刈りにしてハンガリーに行く」などはこれに近い。モニターとプロジェクターの映像を巧みに組み合わせた泉太郎も、他人の個展をプロデュースして自分の作品にしてしまう奥村雄樹も、今回のなかではもっとも優れた部類に入ると思うが、どこか既視感がぬぐえないのも事実。それは仕方がないことで、これだけ表現メディアが拡散してしまうと、逆にやることが似通って見えてしまうからだ。むしろ絵画なら絵画という形式にこだわったほうが多様性が担保できるような気がする。今回もっとも印象深かったのは中村宏と千葉正也で、どちらも絵画だったのは偶然ではないだろう。まあ未知の若手がことごとく期待はずれだったというのも大きいが。

2013/09/20(金)(村田真)

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プレビュー:中島麦「星々の悲しみ blue on blue」

会期:2013/10/04~2013/10/27

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

風景を起点に、単純化した構図と鮮やかな色面による半抽象的絵画を発表してきた中島麦。彼はいま、新たなシリーズに挑戦している。それは、マーブル模様のように色彩がせめぎ合う作品と、画面全体をむらなく単一色で塗り込めた作品を併置したものであり、一種のインスタレーションとしても機能する。彼が目指すのは、両極端な世界を対峙させることで得られるミクロとマクロを往還するような感覚であろうか。筆者はまだ一度しかそのシリーズを見たことがないので、彼の新シリーズをたっぷり見られる今度の個展に大きな期待を寄せている。

2013/09/20(金)(小吹隆文)

プレビュー:超京都2013「現代美術@平成の京町家」

会期:2013/10/04~2013/10/06

平成の京町家モデル住宅展示場KYOMO[京都府]

京都の伝統文化を色濃くたたえた場所で現代美術展を行なうことにより、双方の新たな可能性を模索してきた「超京都」。2010年の杉本家住宅(江戸時代以来の商家・町家)、2011年の名勝渉成園(東本願寺の飛地境内地・庭園)に続く3回目の今回は、平成の京町家を提案するモデル住宅展示場「KYOMO」を会場に選んだ。京町家の伝統的な外観と空間性を継承しつつ現代の技術・性能・デザイン・エコロジーを加味した平成の京町家は、「超京都」のコンセプトと見事に合致する。参加画廊は、hpgrp GALLERY TOKYO、イムラアートギャラリー、MATSUO MEGUMI+VOICE GALLERY pfs/w、ミヅマアートギャラリー、MORI YUGALLERY、小山登美夫ギャラリー、ヨシアキイノウエギャラリーの7つ。また、京都市立芸術大学が特別展示で参加していることにも注目したい。

写真=会場イメージ

2013/09/20(金)(小吹隆文)

プレビュー:旧羽室家住宅アート・プロジェクト 森口ゆたか「子どもの情景─時を超えて─」

会期:2013/10/12~2013/10/20

原田しろあと館(旧羽室家住宅・原田城跡)[大阪府]

中世の貴重な城郭跡であり、昭和初期の建築遺産でもある、原田しろあと館(旧羽室家住宅・原田城跡)。応仁の乱を記す古い文献や織田信長の出城として戦国史に名を残す場所であり、明治末以来の郊外住宅地のシンボルでもある同館を舞台に、美術家の森口ゆたかがサイトスペシフィックな展覧会を行なう。近年の森口といえば、映像インスタレーション作品による個展や、NPO法人を設立して医療現場へのアートの導入を図るホスピタル・アートの活動で知られている。その根底にあるのは人と生命を慈しむ心であり、本展でも子どもたちの古写真や長年の記憶をとどめた調度類などを素材に、追憶のかなたから淡い心象風景が立ち上るような展示を行なう予定だ。過去と現在が幾重にも往還し、美しいエコーに満ち溢れた空間が出現することを期待する。

2013/09/20(金)(小吹隆文)

大野麥風 展「大日本魚類画集」と博物画にみる魚たち

会期:2013/07/27~2013/09/23

東京ステーションギャラリー[東京都]

大野麥風ってぜんぜん知らなかったけど、『大日本魚類画集』をはじめとする博物画を手がけた日本画家だと聞いて見に行く。麥風は初め油絵を学び、途中で日本画に転じたというが、この経歴は博物画に向いていたかもしれない。なぜなら博物画は西洋流の緻密な観察力と写実性に加え、日本画的なパターン化した線描が必要だからだ。彼が原画を描いた『大日本魚類画集』を見ると、主役の魚だけでなく岩や水草まで描き込んであるが、その描写はまさに日本画的に様式化されている。ただしよく観察してはいるものの、たとえば魚の胸ビレの付け根に注目すると、解剖学的にありえない付き方をしているものもあって、やっぱり日本画だなあと思う。ちなみにこの画集、戦前から戦中にかけて毎月1点ずつ計72点を刊行したが、500部限定の会員制による会費で賄われたという。版画ではしばしばこうした販売方式をとるが、現代美術にも応用できないものか。ともあれ、同展には麥風だけでなく、江戸時代の本草画から平成の杉浦千里による甲殻類のイラストまで集められ、満足のゆく展観になっていた。

2013/09/19(木)(村田真)

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