artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

松野純子「解放」

会期:2013/09/24~2013/09/29

アートスペース虹[京都府]

紙に墨を落として拭き取った後、その灰色のシミや無数にできた斑点の輪郭を極細のペンで繊細になぞって描いた作品が数点展示されていた。近づくと緻密な作業がよくわかるのだが、一見、模様のように見えるそれらの画面はじっと見つめているとまるで壮大な宇宙空間にも見えてくるから面白い。気の遠くなるような仕事ぶりに感心というよりも感動を覚えた。それぞれの作品は、紙や墨などの素材も種類の異なるもので一点ずつの表情も違う。画面に吸い込まれていくような感覚も覚えるのだが、離れて見ると拡散し広がっていくイメージであるのが不思議で魅力的な作品だった。

2013/09/29(日)(酒井千穂)

牛腸茂雄「こども」

会期:2013/09/24~2013/10/14

MEM[東京都]

牛腸茂雄の没後30年記念企画の第二部として、「こども」展が開催された。白水社刊行の新編集写真集『こども』にあわせて、牛腸の写真集『日々』(1971)、『SELF AND OTHERS』(1977)、そして遺作となった『日本カメラ』(1983年6月号)掲載の「幼年の「時間(とき)」に発表された写真を中心に、彼の「こども」写真25点が展示されている。
大四つのバライタ印画紙(イメージサイズは約15・5×23センチ)に、牛腸の桑沢デザイン研究所時代の同級生、三浦和人氏によって引き伸ばされたプリントは、これまで写真集などで見慣れた写真とは少し印象が違う。白黒のコントラストがやや強まって、写真の細部がくっきりと目に入ってくるようになったのだ。そのことによって、牛腸の写真について常に語られてきた「はかなさ」や「揺らぎ」の印象が薄らぎ、むしろその強靭な構築力が露になってきたと言える。牛腸が写真家として、子どもたちから何を、どのように切り取り、引き出そうとしていたのかが、明確に見えてくるからだ。牛腸の写真は決して甘くも優しくもない。子どもたちに対する彼の姿勢も、どこか容赦ないところがある。もしかすると、子どもたちはモデルとして彼のカメラの前に立つことに、脅えや怖れすら感じていたのではないか。そんなことを、写真を見ながら考えていた。
今回MEMで展示された「見慣れた街の中で」と「こども」の写真は、2013年12月に大阪のThe Third Gallery Ayaに巡回する。だが、むろんこれで牛腸茂雄の写真についての検証が完了するわけではない。誰かまた、彼の写真の不思議な力に突き動かされる者が現われてくるのではないだろうか。

2013/09/28(土)(飯沢耕太郎)

日産アートアワード2013

会期:2013/09/18~2013/11/04

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

日産自動車創立80周年を機に、今年から隔年で開かれるアワード展。5月末にヴェネツィアで開かれた第1次選考で8人のアーティストが候補に上がり、約3カ月かけて制作した作品がBankARTに展示されている。それをもとに5人の審査員がグランプリを決めるというシステムだ。審査員は南條史生、逢坂恵理子、ファン・ドゥ、ジャン・ド・ロワシー、ローレンス・リンダーで、アーティストは安部典子、小泉明郎、増山裕之、宮永愛子、西野達、篠田太郎、鈴木ヒラク、渡辺英司。グランプリに輝いたのは宮永愛子で、賞金500万円と名和晃平デザインのトロフィーが贈られた。めでたしめでたし。ではなくて、なんで海外から3人も審査員を招いているのに候補アーティストは日本人だけなのか、なんで「年齢を問わず」と書いてあるのに40代前後のアーティストばかりなのか、なんで名和は候補に選ばれずトロフィーをデザインする側に回ったのか、そもそも8人の候補者はどういう規準で選ばれたのか、絵画は最初から対象外だったのか、ナゾは深まるばかり。それより問題なのは、鳴り物入りのわりに全体的に作品がパッとしないことですね。

2013/09/25(水)(村田真)

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水田寛 展「レトロポリス」

会期:2013/09/21~2013/09/29

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

童画を思わせる画風、複数の時空が複雑に交錯した空間表現、鮮やかな色彩の乱舞といった要素からなる絵画作品30点を、展示室を目いっぱい使ってインスタレーション的に展示していた。こうした最近の水田の作風には、美術教育の影響を受ける前の自分を振り返ろうとする意図が窺える。一度キャンバスに描いた作品を切り取り、別の絵とつなぎ合わせる手法もまた、完成度や構図を気にせず描いていた子ども時代から着想したものだ。描くことへの根源的な欲求に基づきつつ、作品の配置には緻密な計算を凝らしているのも彼らしい。現在の水田の実力を惜しみなく出し切った、気持ちのいい個展だった。

2013/09/24(火)(小吹隆文)

高橋万里子「人形画」

会期:2013/09/24~2013/10/20

KULA PHOTO GALLERY[東京都]

2年半ぶりの個展だという。2011年3~4月、まさに東日本大震災が起こった時期に、高橋万里子はphotographers’ galleryとKULA PHOTO GALLERYで個展「Lonely Sweet/ Night Birds」を開催していた。スイーツの商品見本と鳥の剥製をややブレ気味にクローズアップで撮影した、いかにも高橋らしいミステリアスな雰囲気の作品だったのを覚えている。
今回展示された「人形画」は、それに比べるとかなり大きく変わってきている。被写体になっているのは、彼女の友人がフリーマケットで買い求めてきたというスイス製の民族人形。人形というテーマそのものは、高橋の写真にごく初期から登場してくるのでそれほど意外性はない。変わったのはその手法で、カラーコピーされた人形の写真の周囲はアクリル系の絵の具で黒く塗りつぶされ、顔の部分は色鉛筆で加色され、きのこのような形状の奇妙な帽子や衣服には、ファッション雑誌の一部を切り抜いてコラージュが施されている。しかもそれらの加筆、コラージュは一点だけでなく、ヴァリエーションとして増殖していく。高橋は東京造形大学造形学部デザイン学科でグラフィック・デザインを学んでおり、このような手法を用いるのは別に意外なことではない。だが、これまではあくまでも写真の味付けや装飾に留まっていたグラフィック的な要素が、今回のシリーズではより前面に押し出されてきている。
そのことを決して否定的に捉える必要はないだろう。1930年代の小石清、花和銀吾、平井輝七ら関西の前衛写真家たち、また1950年代に彗星のように登場して姿を消した岡上淑子らのフォト・コラージュ作品の系譜を、ぜひ受け継いでいってほしいものだ。

2013/09/24(火)(飯沢耕太郎)