artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

鶴井かな子 展

会期:2013/10/01~2013/10/06

ギャラリーモーニング[京都府]

京都精華大学大学院に在籍する鶴井かな子。会場にはまさに人間模様というドラマがぎっしりと織り込まれている絵画が並んでいた。作品は庶民的な日常感にあふれたモチーフばかりなのだが、どの画面にもたくさんの人物が描かれていて、そのなかには動作や表情が狂気的で不気味だったり、滑稽だったりするものなどが潜んでいた。見入ってしまう強烈なインパクトが先に立つような作品だが、繊細で鋭い観察眼を垣間みるユーモアにも才気を感じる。今後の発表も楽しみだ。

2013/10/03(土)(酒井千穂)

野村誠 個展「オルガニック・ベジタブル」

会期:2013/10/01~2013/10/06

アートスペース虹[京都府]

鍵盤ハーモニカの奏者でありピアニストでもある音楽家の野村誠。幅広い活動を展開しているがギャラリーで個展を開催するのは今回が初めてだそう。今展では野菜を育てるなど、野村が世話をしている畑(の作物)と音楽、美術をつなぐことをテーマに作品展示が行なわれた。同ギャラリーのオーナー宅に40年間眠っていたという古い足踏みオルガンが中心に置かれた会場には、ドローイング、マケットで叩く打楽器としての瓦、五線譜を刺繍した数十メートルの布に植物の種子などを音符として配置した「楽譜」の作品などがインスタレーションされていた。会期中、野村はほぼ毎日在廊。私が訪れたときも和やかな雰囲気のなかでオルガンの即興演奏が行なわれていたのだが、ここでは一緒に聴いていた人たちが野村の演奏にあわせ、側にあった瓦を叩いてセッションを始めるという場面にも遭遇。楽しくて私もついマケットを手に取って参加してしまった。新たな音楽や交流が生じることの幸福感もさることながら、インスピレーションの連鎖反応を誘発する展示空間が新鮮で愉快だった展覧会。


会場風景

2013/10/03(土)(酒井千穂)

郷司理恵「SENSO」

会期:2013/09/30~2013/10/08

ポスターハリスギャラリー[東京都]

耽美的なエロティック・アートを得意としているポスターハリスギャラリーにふさわしい展示と言えそうだ。日本での初個展を開催した郷司理恵の写真の主なテーマは花々や果実だが、多種多様なアクセサリーに彩られ、時には羽根や生肉等で象嵌されたその作品世界は一筋縄ではいかない。深紅の花弁は、内蔵やある種の器官のように艶かしくうごめき、果肉ならぬ「花肉」と言えそうな趣を呈している。郷司が本格的に写真作家として活動し始めたのは2003年頃だというから、まだキャリアは長いとは言えない。だが、すでに独特の芳香を放つ領域に踏み込みつつあるのではないかと思う。
今回の展示に並んでいる作品の大部分は小品だが、近作だという大判サイズの作品に、これまでとは違った可能性を感じた。花そのものの官能美に収束していくような、やや求心的な作品群とは異なる、より広がりのある空間へと向かう志向があるように思えたからだ。ゴージャスな色彩と奇妙なフォルムを備えた花々を組み合わせて、オペラの舞台のような雰囲気を醸し出す舞台装置をつくり上げることができるのではないか。
今後さらに試みていってほしいのは、物語(できれば自作の)の要素をより積極的に取り入れた連作である。だが、すでにベルリンでは「卒塔婆小町」に題材をとった作品を発表しているとのことで、心配しなくてもそちらの方向に進んでいくのではないだろうか。

2013/10/02(水)(飯沢耕太郎)

海野厚敬 展「the right」/「the left」

会期:2013/10/01~2013/10/06

「the right」:ギャラリー恵風、「the left」:ギャラリーヒルゲート[京都府]

具体的な情景を描くのではなく、かといって抽象画でもない。図柄やモチーフの質感をコントロールすることで、兆しや気配といった感覚的な領域を描き出すのが海野の特徴だ。近年の彼は創作意欲が爆発的に加速しており、本展でも2つの画廊の3フロアを使用して何とか作品を収容した。これでもまだ空間的に十分とは言えないが、画業の充実ぶりは観客にも十分伝わったはずだ。おそらく彼は、画家として最初のピークを迎えている。このタイミングで美術館クラスの空間を与えてやれば、更なる伸びが期待できるだろう。近々にその機会が訪れることを期待している。なお、一見意味深な展覧会タイトルには、実はさほど深い意味はないらしい。ならば単純に「海野厚敬展」としておくべきではなかったか。

2013/10/01(火)(小吹隆文)

起源を歩く|Jomonと原田要の庭

会期:2013/09/30~2013/11/01

京都造形芸術大学芸術館[京都府]

花や食虫植物を思わせる立体の支持体(寄木を彫刻したもの)を制作し、その表面にペインティングを施した原田要の作品。絵画と彫刻の要素を兼ね備えたそれらが、縄文土器との共演を果たした。この組み合わせは一見奇異に思えるが、本展の企画者は、イメージと形態の一体感や表面(=物事が生起する場)へのこだわりに、両者の共通性を見出したようだ。その主張には議論の余地があるかもしれないが、古代の遺物と現代美術が等価に並ぶ様は非常にエキサイティングかつ美しかった。時空を超えた美術表現の邂逅は大歓迎だ。今後も同様の企画を継続してほしい。

2013/10/01(火)(小吹隆文)

artscapeレビュー /relation/e_00023534.json s 10093125